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MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第三章 MOB男の人言奸計と思春期殺害報告書
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EX end secret 序

映画のエンドロール後のポストクレジットシーン。クレジットがない場合はなんと言うのであろうか






 夢なのか?


 だとしたら悪夢に違いない。

 少なくともこの国の為政者たちにとっては。


 眼下に広がる平野には幾万の軍勢の姿があった。

 相対する軍勢の数も数万。


 分厚い灰色の空。


 泥と化した戦場で夥しい鉄と魔法の火花が瞬いている。

 怒声と断末魔が響き渡り、地獄の蓋が開いたかのような熱気に覆われていた。



 決戦。




 桜天門という国門がある。


 国家の最後の防衛線を意味し、ここが落とされることは国家の滅亡を意味する。

 門とは言われているが、つまりは砦、防壁である。


 その防壁に人が立っていた。


 十人に足らぬほどの人影である。

 今にも眼下の戦場に飛び出そうと力をためているようにも見えた。

 しかし人影は大小様々、形貌も様々であったが、その者共の見るは一点に絞られている。


 すぐ真下で行われている決戦の行末を見守っているようにも見えるが、視線は少しずれて遠くを見ていた。


 その先には丘がある。

 攻め手の本陣がある方向。

 彼らが滅ぼすべき敵が陣取る方向。


 今だ整然と並ぶ後詰の軍勢の中心。


 曇天と血と泥の戦場にあって、不可解なことにその一点だけが光り輝いているように見えた。




 明けの明星のようでもある。


 その光はゆっくりと歩を進めた。

 その光は一人の人である。


 一人の騎士であった。全身を輝く黄金に身を包んだ騎士である。


 その一人の騎士は、幾数もの長槍の林を割るように現れたのだ。

 黒と灰の夜空のような軍勢を割るように、その恒星は現れた。


 攻め手の軍勢の面容は様々だ。

 死を表わすかのような黒甲冑の騎士たちがいる。反対に壮麗な白い騎士たちがいるかと思えば、肌の上に直接鎖帷子をつけた蛮族風の者達もいる。

 それどころか人にあらざる異形の姿も少なくない。

 だが、混沌とした軍の中心にいるこの黄金騎士こそ、最も目を奪われる存在だった。


 混沌の軍勢の中にあって、場違いなほど神々しく、超絶の存在がこの世に降臨したかのようだ。

 この世界で最強の生物である古代竜エンシェントドラゴンのそれとはまた違った畏怖。

 幽鬼とは違った異質さ。


 一歩進むごとに殺伐としているはずの空気がまるで礼拝堂のように厳かで別次元のものに変わっていくのが分かる。

 合戦の最中にあって、兵達が膝をつき平伏している幻影をみるかのようだ。


 黄金騎士は抜剣もせず、雄叫びを上げるでもなく、盾は騎馬の横腹に掛けたまま、ただゆっくりと騎馬の歩を進めて行く。


 騎乗するのは八本足の銀馬。

 黄金の全身甲冑フィールドアーマーは肌の露出がなく、面当兜バーゴネットをつけているためにどのような人物かはうかがい知ることができない。だが、その兜から流れる細く長い金の髪は全身を覆う黄金甲冑以上に繊細で美しく、まるで天の河のようだ。


「……」


 視線を感じたのだろうか、騎士は面を上げて、遠く防壁を見やった。

 この距離では落とすべき国門の上に立つ者の姿までは見えない。

 だが、それでも暫く黄金騎士は防壁の上に視線を向けていた。

 黄金騎士は防壁の上に立つ者達の存在を確かに感じてる。


 角度が変わったせいで、面当兜バーゴネットの隙間から瞳の光が覗いた。

 青い海のようにも見えるし、蒼い星のようにも見える。

 蒼眼は極めて理知に満ち、殺戮の狂気とは無縁の静かさを湛えていた。

 まるで家族を見るような、生き別れた恋人を見るような、悲しみを潜めた瞳にも見える。

 それは決して敵に向けられる瞳ではなかった。


 腰の剣と、吊るしてある盾に手を伸ばし、柄を握り、盾を撫でた。


 長い道のりであった。


 あとはこの剣を抜き、盾を構え、戦場に駆け出せば、全ての終わりが始まる。

 いやもう終わりは随分前に始まっている。

 終わりの始まりを終わらせるといった方が正しいかもしれない。


 おかしな表現ではある。


 だから黄金騎士は笑った。

 が、それは面当兜バーゴネットに遮られ、誰にも聞かれることも、気づかれることもなく消えた。


 やることは決まっているし、今更変更もない。

 この戦場も終わりをもたらす一つでしか無いのだ。


 やがて視線を外し、落とすべき防壁とは別の方向へと、曇天の空へと目を向けた。

 その視線は遥か遠方へと向けられる。

 灰の雲を超え、青い空へと変わり、今度は青い海へと変わった。






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