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MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第三章 MOB男の人言奸計と思春期殺害報告書
126/132

END-2 Lone Wolf Algorithm







「まだ改修も始まってないんだな」


 痩身長躯の男は、室内を見回して言った。


 娼館の一階部分の内、事務に使っていた奥側は火事によって真っ黒になっていた。

 空気の通りが悪かったせいで、延焼はそれほど広がらなかったらしい。


 灰魔術師ナイジェル・グラフは火元となった、部屋にいた。


 前に訪れた時には、赤色の絨毯とこの街に似つかわしくない高級家具があったはずだが、こうなってしまうと何もかもがガラクタに区別がつかない。


 部屋には他にも人はいた。三人。


 三人組だが、話をするのもそのうち一人だから、一人と数えたところで差支えはない。他の二人はその男の護衛だった。


 殺された娼館経営者、殺された盗賊ギルドの上級幹部、その側近だった男。

 新しい娼館経営者で、新しい上級幹部ディガン。


「ふん」


 ナイジェルの言葉に、ディガンはつまらなそうに足元の墨屑を軽く蹴っ飛ばした。

 カラカラと軽い音を立てて、ほんの少し転がり止まる。


「ギルド長が行方不明のままで、俺も正式な後任じゃない。ギルド内でガタガタしている奴らが落ち着くまでは営業はできそうもない」


「ふーん」

 盗賊ギルド内部の事情など、ナイジェルも聞きたい話ではなかったが、ディガンのそれは幾分愚痴の様に聞こえたから、黙って聞いてやっていたが。


「ん? 正式ってことは、もしかしてなれないかもしれないのか?」

「確かなことはないさ」

「おいおい、それは俺達にも無関係の話じゃないだろう」


 ディガンは何故か黙ってしまった。それほど答えにくいことを言ったつもりはナイジェルにはなかったから、怪訝に思う。口調から、そうは言ってもディガンがゴンズレイの後釜に座るのは確定的なのは分かったのだが。


「あの、小僧? どうしてる?」


 いきなり話が変わって怪訝に思いながらもそれが誰のことかは分かった。ナイジェルとディガンというそれほど親しくもない、したくもない間柄で『あの』とつくのも、『小僧』とつくのもの一人しかいない。


「ああ。アイツなら自宅で謹慎処分中さ。色々と準備もあるからずっとそのことにかかりきりみたいだが」


「準備? ああいや、知りたくもない」

 ディガンは自分で聞いておきながら、自分で話を切ってしまった。


 何があったのかは知らないが、大分嫌な思いをしたようだ。

 衣服の下には包帯が巻かれているのがチラリとしている。それについても痩身長駆の灰魔術師は尋ねない。


 ナイジェルとしても、それほど無駄話をしている時間もない。この後も仕事があるのだ。


「それで、話ってのは?」

「ああ、例のことだ」

「ああ、例のことね。で、どんな感じだ?」

「人を集めるのは問題ないようだ。だが言ったようにギルド内のゴタゴタが片付くまではあくまで臨時の人員だ」


 ディガンは煤けた室内を指さした。


「とりあえず改修工事の件だが職人経験のある人間はいなかった」

「ああ、やっぱりか。まぁ、そんな技術ありゃこんなところにいねぇわな」

 ディガンは答えず、話を進める。まるでさっさと話を終わらせたいようだ。


「だから、職人は無し、手配できそうなのは人の数だけだ。おい」

 ディガンは顎をしゃくって後ろの男に指示を出す。男の一人が懐から三十センチ四方ほどの紙を取り出してきた。


「これは?」


「職人に書かせた凡その見積だ。それで人の配置を考えてくれ。金は出せねぇぜ」


「まかせとけ。団体の試験運用テストプレイって言ってたから問題ないだろう」

 安請け合いをして、紙を見もせずに懐に仕舞いこむ。考えるのは自分ではないので気楽なものだ。


 話は終わったようだ。何の言葉も態度も示さずに、ディガンは男達と話し始めた。

 ナイジェルは肩を少しだけすくめて、娼館から立ち去った。


「さて、どうするかなぁ」

 仕事も一つ片付いたので、すっかりと気が緩む。

 娼館を出て、これから向かう場所に素直に足が動かない。怠け癖もすっかり身にしみている。


 ナイジェルはアーガンソン商会の見習いという立場から開放された。正直に言うなら解雇である。

 唯一残ったのは魔導師ギルドサウスギルベナ支部の灰魔術師部門主任という立場だけである。

 それには不満もない。自分に商人が向いているとは思っていない。


 それに解雇されたといっても形式的にというだけだ。


 ギルド研究員としての給与は支払われる。元より商人見習いとしての給与は貰っていなかった。もちろん借金もそのままだ。だから実際には何も変わっていない。変わったとすれば住むところくらいのものだ。


 今は短期滞在用の住宅に入っている。ちょっと賃料が割高で、食費もかかる。

 研究員としての給与と採取の仕事の報酬で賄っていた。そのため借金は一向に減らない。なのでさっさと住宅を借りる必要があった。物件自体は探してある。後は単純に金の話である。


 だから、さっさと道具を取りに帰り、採取の仕事に向かうべきだが。


 視線はすぐに酒場、立ち飲み形式の飲み屋を見つけた。娼館の傍なのだから当たり前だが、娼館が休業状態でも、彼らは店を開けているらしい。


「ちょっと一杯だけ」


 そう言って、ナイジェルは店の中に消えていった。呑んべの、一杯だけという言葉も、仕事前だということも、まったく何の意味もないのは、それはどこでも同じことだ。









 ウェーブのかかった絹糸の束のような艶やかな金の長髪。

 女性らしい柔らかでほっそりとした曲線と輪郭を描く長身。

 潤んだ大きな瞳は星蒼玉スターサファイアの青さと光。

 メイドの服装でなければ由緒正しき貴族の細君とも見える二十代半ばの女性。


 その容姿に似合わぬ瓦礫の山の中に彼女はいた。


 自分で瓦礫の山に変えたのだから、自業自得なのだけど、彼女にとっては瓦礫の山など問題にはならない。


 アーガンソン商会のメイド、グウィネスは瓦礫の山の中に立っていた。


 正確には瓦礫に囲まれて立っていた。彼女の立っている場所は、何故か綺麗に石が取り払われている。綺麗にといっても元が元なのだが、散らかっていないという意味で綺麗になっていた。


 グウィネスは地面に向かって掌を翳した。


 ボコっと土が盛り上がって、中から木製の細長い筒が出てきた。竹の筒だ。

 手を翳しているとそれが時間とともに数本出てきた。


 グウィネスは数を確認する。四本。『聞いていた通り』の数だ。


 一本だけ取り上げて、まるで中身が見えるガラス瓶の様に、上に掲げて眺める。

 じっと見つめる大きな星蒼玉スターサファイアの瞳。その十字の光が輝きを増したような気がした。


 目的のものだったのだろう。彼女はそれを持ってきていたテキスタイル製のキューブバックから布を取り出しそれを包む。そしてそのままバックにしまった。


「おいおい、こんなところにメイドさんが一人で何してんのかなぁ」

 下卑た声がした。


 少し高くなった瓦礫の上に、男達が立っている。取り囲まれているようだ。


 グウィネスはバッグに入れた竹筒が安定しているのか試すように、そのバッグを上下に少しだけ揺らした。


「無視すんなよ。こっち向きなよお姉さん」


 欲望に満ちた視線を、グウィネスの肢体に這わしているのが分かる。そういった視線には慣れている。最近は貧民街でも珍しくなったが、人の出入りの激しい場所では時々分かっていない人間は出現する。


「なぁ」


 男達の一人が、何も答えず反応もしないグウィネスに焦れたように一歩踏み出した。

 その一歩が自身の運命を決めるとは知らずに。


 グウィネスは指を肩の高さまで上げた。中指と親指を合わせて。


「?」

 美女のこちらを向かずに、指だけを掲げてきた仕草に男が訝しげな顔をした。


 パチン。


 グウィネスは指を鳴らした。


 ボンッ!


 爆ぜる音がして、男の頭がマッチ棒の様に突然燃え上がった。


「え?」


 他の男達は状況が読めず一瞬ぽかんとした顔をしていたが、断末魔をあげる間もなく消し炭になった仲間の頭部を見てそして誰がやったのかを思い至り、途端に悲鳴を上げ始めた。


 グウィネスはそんな男達の様子には何の変化も見せずに、瓦礫を上に上がる。


 人は汚い。


 それなりの人生の中で、グウィネスはそれなりにそういったものを見てきた。

 汚穢を防ぐことなどできない。それは進化をやめることで、人をやめることと同じだ。


 グウィネスは逃げていく男達にもう何の関心も持っていなかった。

 代わりにグウィネスはこのバックの中に入れた竹筒を、ジガとソルヴに差し出した少年のことを思い出していた。


 異形、人外、化物、狂者。


 外形的に言ってみれば、そう言うしかない少年だ。


 この騒動を、ジガもグウィネスも気が付かなかったこの騒動にあの子は気がついていた。それは興味の有無、つまり貧民街の様子に注視していたことを割引いても、それは少年の異常性を和らげはしない。


 もし、説明がつく可能性があるとしたら、それはこの魔物騒動さえ、少年が引き起こしたということ。


 だが本人は否定しているし、グウィネスも否定する。それはそこまでやりはしないだろうということではなく、やったとしたらもっと上手くやれたはずなのだ。悪意に満ちた存在であれば。


 きっと言わなかっただけだろう。その予兆とそれによる予測を。そう考えるほうがあの子らしい。

 なんとなく、理由はなく、グウィネスはそう、確信、していた。


 グウィネスと少年は似ている。零か一では判断できない。白か黒か判別できない。

 あやふやで、歪な存在。いや、まっとうな人であればそれが普通なのだろう。

 ただ、彼女らは英雄にはなれないほど、精神だけが凡人だっただけだ。凡人にはなれないほど存在のみが人外だっただけだ。


 もし、エドがそうでなかったなら、凡人でなければ、グウィネスはあの日『判決』を下していたかもしれない。下した『判決』は双方にとって苦しい選択になったに違いない。

 だが、グウィネスは『判断』だけを下した。それで終わりだ。ジガやソルヴがどういう思惑があろうと彼女にとってはそれで十分だった。


 人は愛おしい。


 それなりの人生の中で、グウィネスは少しだけそういったものを見てきた。

 それは七色の美しさ、穢の美。積み重ねの美。想いの美。それだけが人の救いだ。


 グウィネス、『南瓜の魔女パンプキンクィーン』が人をやめない理由だった。呪いだった。


 特別なことなどいらない。


 人は人であることが美しい。それこそが得難くなにより、愛おしい。

 彼女がこうして今も生きているのは、人としての凡庸さと、人を超えた異様によるものだ。


 美しいメイドがいなくなって、瓦礫の山に人の姿はなくなった。








 ズズ。


 いつ見ても変わらない動作で茶を飲む。

 使う湯のみも、その中身も、それを掴んで、口元に運ぶまでいつも一緒で服装だけが違う。

 いつ見ても皺だらけで、表情の分からない顔。


 サウスギルベナの魔導師ギルド長、ジガは小さな体をソファに載せて茶を飲んでいる。


 この部屋。というだけでなく、この屋敷自体の主であるソルヴ・アーガンソンはそんな老婆に背を向けて、窓の外に目を向けていた。

 別に景色を眺めているわけではない。丈夫な顎に指をやって、考えを巡らしているだけだ。


 ジガの方は、考えているのか寝ているのかもわからない。いや、茶を飲んでいるのだから意識があるのはわかるが、どこか機械じかけの人形のように思えなくもない。


 ソファの前に置かれている応接用のテーブルにはティーカップが置かれている。

 それはソルヴの分ではなく、先程までこの部屋いた人物の分だ。


「難病とやらの心当たりはあるか?」


 ソルヴが窓の外に目をやったまま尋ねる。その言葉にジガが少しだけ眼を開いた。


「魔力耐性値の異常。貝の口が閉じるように一切の魔力供給が絶たれる病。ふむ、聞いたことはないですな」


「では、偽りだと?」


 ジガはそれほど考えるまでもなく返答する。いつものゆっくりとした動作を考えると即答と言えるだろう。


「理屈は合いますがな。確かにそういう症状があったとしても不思議はない。いままで病例がないのも余程珍しい状態だったことと、生き残った者がいないせいでしょう。聖者や大魔導師程度の魔力耐性値では起こらないでしょうからな。聖者や大魔導師を凌駕する魔力耐性値があって正常でいられるわけもなし」


 では、とソルヴは矢継ぎ早に尋ねる。


「助からんか?」


「知りませんな」

 一見突き放したように老婆の言葉は聞こえる。

「もはや儂らにはできることはありません。少なくとも聖者や大魔導師どころか、人以外の存在でさえも、最強の存在である古代竜エンシェントドラゴンの魔力耐性値でさえそのようなことは起こりません。そのような存在など調べることさえも出来ぬのだ、嘘を付いているかどうかも分からぬゆえ」


「そうか」

 ソルヴは顎から指を離してジガの方を振り向いた。

「では、これ以上の思慮は神とやらの仕事だな」


 ソルヴの言葉にジガは軽く笑った。

「運命とも言えますな。もしこの壁を越えたなら、まさしく『闇星』としか呼べぬ怪物の誕生。今でも十分に、じゃが」


「先ほどの提案のことか?」


「まさしく、魔力感知が利かずとも、あの智慧を見ればあの童の尋常ならざる存在の査証。まさか常闇の女王の血に繋がる者などではないでしょうが」


 ジガの、そしてソルヴの耳にも、騒動の中で現れた常闇の女王について報告は届いていた。


「なぜヴァンパイアの女王がこんな場所に来た? 『回天の書』の予言に何か関わっている行動なのか?」


「さて、あの女王の気まぐれ加減も有名ですからな。ただアレほどの存在なれば思惑がなくとも歴史に影響をあたえるということはあり得ること」


 この会話から、いくつかのことが分かる。だが、それは本筋ではない。


 ソルヴはあまりその辺りのことに執着はしなかった。これは性格によるものだ。彼のような無神論者で、意思論者にとっては、自身にどうにもならないことについて煩わしく思い悩むことは少なく、興味も薄かったからだ。


「大規模寄食ですか」


 ソルヴの興味が移ったことを察して、ジガもそれに言及する。といっても商業については門外漢故に、ソルヴの意見を求めただけだったが。


「まぁ、そのような物も歴史の中になかったわけではない。労働力の対価に衣食住の保証で支払うというのは農村部ではままあることではある。奴隷制度も言ってみればその一つだ」


「で、提案に乗るので?」


「ああ」

 ソルヴは初めて悦しそうな表情を浮かべた。

「国家経営も村の運営も本質は変わらん。あの子の玩具代わりにはちょうどいいだろう」


「しかし、監視下から外れてしまいますぞ。今でさえ動きの読めぬ童」


「かまわん」

 いや、それどころか、


「まさに、望む通りの展開じゃないか」


 と。


 ソルヴにとっては旧友エリスの遺児であることよりも重要なことがあった。不義と呼ばれるかもしれないが商人にとっては必ずしもそうは言えない。それどころか、先のない子供のやりたいようにやらせることは温情とも言える。自身の欲を別にすれば。


「そう言えば、先日あの姫君が押しかけて来たらしいな」


「ああ」


 ジガはいきなり話が変わったことに一瞬の間を置いてから、当主が何を言っているのかに思い至った。何を言いたいのかまでは思い至らずに生返事を返す。


「あの神童の姫君も、あの女王と同じ能力を持っていたそうじゃないか」

位怖クリフシャドウ』のことですな」


 どうやら話が変わったということでもなさそうだ。


「あの神童と、あの女王と何か繋がりがあるというなら、姫君があの子に執着しているのもそれに関係しているのかな?」


「どうでしょうな。『位怖クリフシャドウ』は生物が上位種に感じる畏れで能力というより性質。公爵令嬢がどうやら神人類ハイヒューマンであるらしいとは推測できますが、両者の関係まではわかりませんな。そもそも先日にワシが公爵令嬢と直接会ったわけでもない」


「結界では感知できなかったのか?」

 この屋敷にはジガが設けた防御結界がひかれている。


「あれはあくまでも呪いの防御と魔力感知。『位怖クリフシャドウ』は先程も言ったように魔術ではないですからな。それにワシがあの神童と会ったのは生後間もない六年前、でしたか。その時にはそういったものは感じられませんでした。まぁ、どことなく雰囲気のある赤子ではありましたが」


「ふむ。ではあの神童があの子に興味をもった理由は?」

「どうでしょうな。屋敷の者の話ではあの子と言うよりも、ウォルコット兄弟に興味を持っていたらしいですが」


「では、関係がないと?」


「どうでしょうな」

 ジガはそれに対しても疑問を呈する。

「理由はありませんが、外形的にはあまりにも不自然なことが多すぎる」


 そのことは魔術云々に関係なく、ソルヴも気がついているだろう。あまりにもこの街とあの少年の周りには人も出来事も普通でないことが多すぎる。そこに何かの意志を感じるのは当然だ。


 そして、ソルヴとジガはそれをある程度までは納得いく形で理解ができる。


 なぜなら、彼らはある予言の書によって、未来のことについてある程度の知識があったからだ。

 だがそれは大きな視点での情報であるために、細々としたことまではわからない。登場人物の名前さえ記載されていないようなあやふやな予言なのだ。


「不可解と言えば、両親のことについても尋ねてきましたな」

 これ以上は推測に推測を重ねるしかなく、ジガは諦めて他の、少しだけ別の話を始めた。


 もちろん全く関係のない話ではない。


「不可解と言っても、六歳児が実の両親について興味を持つことは自然なことかもしれませんが、しかし、あれは」


 ジガはそこで言葉を切ったが、それでもソルヴには何が言いたいのか分かった。


「ある程度、本当の親が誰なのか、少なくとも母親に関しては推測できているようだったな。そのような情報は与えていなかったはずだが」


 少年の本当の両親について情報を持っているのは、少なくとも六年前の時点でソルヴと、ジガと、腹心のアベルだけ。しかも父親の素性について詳しく知っているのは現時点でも母親の手紙を読んだソルヴだけだ。


「では、いかがします?」

 ジガは尋ねた。それは最初のそれと違い、漠然と大きく尋ねたものだった。グウィネスというジガにとっての腹心の判断も含めて大きく尋ねた。


「言ったとおりだ」

 だが、ソルヴは一笑に付した。


「望む通りの展開だ。要望も聞こう。両親についても機を見て教えよう。あの子こそ『闇星』に相応しい過程を辿ってるじゃないか。あの神童などよりずっとな。ならばそれを後押しするようにするだけだ」


 ソルヴは可怪しくて仕方がなかった。


 運命など信じない男が予言に従い行動していることも、それがすでに自分の手をはみ出そうとすることも。なぜならままならない出来事を自分の思い通りにねじ伏せる戯事ほど、彼にとって楽しいことなどなかったからだ。たとえそれが死を賭けることになったとしても、それはより大きな愉悦を生むことでしか無い。


「もうしばらく見てみようじゃないか。あの子がこの国にとって滅びの凶星で新生の『闇星』なのかどうか」


 そう言って、悪戯心に任せて言を続ける。相手の言うとおりにばかり行動する気などもとより無い。


 混じり気のないものを作る気ならそこに不純物をぶち込み、

 何か精巧なものを創ろうとするならその道具を破壊する。 

 それはもう意図というより、嫌がらせに近い、彼の個性、性質から生まれた考えだった。


 なぜならその方がきっと楽しい。

 だから、ソルヴは思いつきのように口にする。


「とりあえず、世界を見てきてもらおう」







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