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MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第一章 MOB男な新生児は他業無得の零才子
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011 上郡美姫




 あなたは、勝ち組ですか?


 もし、そんなことを事を聞かれたら、

「そんなことないです」

 と、私は答えたに違いない。


 今までだって、

「美人だと得だよね」

 とか

「不満なんて何もないでしょ?」

 とか聞かれたって、

「そんなことないです」

 と、困った顔で答えて見せていた。


 でも、私は、

「違います」

 とは答えなかった。

 だからきっと、


 あなたは、人生の勝ち組ですか?


 そう聞かれたのなら、

「そんなことないです」

 と答えたろう。



 でも、すべては『あの日』に変わってしまった。

 きっと今の私は、

「違います」

 と、答えてしまうに違いない。



 上郡美姫かみごおりみきは美人で、スタイルがいい。


 容姿の美醜は学問として数値化できるらしいし、スタイルの数値化はもっと一般的だ。

 でも私が言っている、美人でスタイルが良いっていうのはもっと相対的で、あやふやな評価。

 つまり学校や友達内での評価のことだ。

 そういういい加減な評価の中で、私は美人だし、スタイルがいい。

 生まれた時から見ている顔だ。別に自分で自分の顔が特別だと感じない。

 でも別に必死にならなくても、スペックの高い彼氏がいつもいた。その理由が自分の容姿にあることは知っている。それに気づかないなんてことが、鈍感主人公じゃあるまいし、あるわけない。


 上郡美姫は頭が良い。

 頭がいいと言っても、色んな評価があるのは分かる。

 ストリートスマートとブックスマートと言うやつだ。

 自分がストリートスマートなのかどうかは知らない。普通に生活していてそれを発揮することもめったにない。複雑怪奇な女子高生社会では愚鈍な『ふり』をすることは間違いとは言えないし。

 けれど、テストの点数だけで言えば「頭が良い」と言えると思う。


 そう、頭が良かった。

 だから、大学に合格したし、だから、あの日卒業したはずの高校にまたやってきてしまった。

 あの日、私は三人で教室にいた。

 一人は特に知っている生徒ではなかったが、同級生だった男の子。

 もう一人は私の彼氏だった。

 難関大学に合格した私と同級生の男の子のために、担任だった教師が食事をご馳走してくれるのだそうだ。彼氏は関係がなかったが、付き添ってくれた。

 三人で他愛のない話をして、担任の教師がやってくるのをまっていた。


 その時だ。

 あの爆発が起きたのは。

 原因はまったく予測もつかない。でも、私は彼の隣にいたからはっきりと見た。

 彼の体が光り始めて、そして目も開けるのが辛いほど光ったかと思うと、私達は光りの爆発に包まれ、意識を失った。



 意識が戻った時、私は視力を失っていた。


 私は、パニックになって喚き散らしたが、喉が潰れているのか話せない。体も動かなかった。

 喚き、泣き、疲れて眠る。


 どれくらいたったのだろう。視力は少しだけ戻っていた。

 でも、その視界は色を失い、微かに光を認識できるだけだった。


 私はどうなってしまったのだろう。

 その疑問は時間が経つにつれて、解けていったが、希望はなかった。

 寝たきりになったのはわかった。


 時々介護の人なのか、ミルクっぽい液体を私の喉に流し込んだ。初めは抵抗して泣き喚き、口から吐き出していたが、いつしか抵抗をする気も失せて私はされるがままになっていた。


 体は上手く動かないが、触覚はあった。

 視力は改善の兆しがあったが、声は上手くだせず、耳はなにを言っているかは分からなかった。でも、物音のような単純な音は聞こえた。

 すぐに体を疲労が襲い、一日の大半を寝て過ごす様になった。

 寝ているのに、精神が擦り切れていくのが分かる。


 何故、こんな目に。

 才能に恵まれてはいたが、真面目に生きてきた。

 努力も惜しまなかった。手に入れた外見や、学歴や、人間関係を誰もが努力すれば手に入るものだとは思わない。生まれ持った才能や、恵まれた家庭環境の恩恵も否定はできない。


 でも、私は努力だってした。少なくとも私の美貌や学歴をやっかむ連中が遊び呆けている間に勉強をし、自制心を働かせて自分を高めるための努力をした。


 悪いことをしてきたわけでもない。もちろん聖人君子ではない。目の前の悪事や不条理に対して何か積極的に動くという人間ではないが、倫理観に悖るような行為は一度だってしたことはない。


 なのに、

 なのに何故、私なんだ!

 誰にぶつければいいか分からない怒りが、目を覚ましていれば、突然爆発した。

 喚き、手当たり次第に周りの物に当たろうにも、体が動かない。

 屈辱で涙だけが、頬を伝った。


 もういい。

 こんな人生なら、もういい。


 殺してくれ。

 もう一秒だって、こんな情けない、無慈悲な時間を過ごしたくはない。

 なのに、この体は自分を殺すことさえできなくなっていた。

 

 ならば、誰か、殺して。

 最近はそんなことばかりを考える。

 誰かに殺して貰うことだけを願い。

 また、今日も眠りに落ちた。   




 気が付くと暗闇の世界に、私の立っている所だけ、サス光りが当たっている。

 ポツンと一人だけの私。


 両手の掌から順番に、体を見ていく。

 以前の自分と変わらない姿。

 夢を見ているんだと分かった。

 格好は、黒のブレザー。卒業式で着ていた冬服だった。爪は綺麗にトップコートが塗られて光沢を放っている。

 学校にいるときが、一番充実していたってことかしら?


 自虐的な笑みが浮かんだ。

 

 ああ、壊れちゃったか……。

 自分が意外とプライド高いことは知っていたが、現実逃避することになるとは。

 でも、あんな風に寝たきりで生きていくくらいなら、この現実逃避の殻に篭っているのもいいかもね。


「考えることは、皆同じだね」

 突然の声に、ビックリして顔を上げた。見れば人が歩いてくる。

 一人は私と同じ黒のブレザー。ただし、男子生徒。

 もう一人は烏帽子に白装束。どこからどう見ても時代劇で出てくる京都の貴族。

 何故か二人を照らす提灯は浮いているが、それは夢だからだろう。


 ていうか、黒のブレザーの彼は、あの爆発の時に一緒にいた、同級生の彼だよね?

 名前は……思い出せない。いや元から知らないわ。

「ああ、そうなんだ、元から知らなかったんだ……」

 なんだか、黒ブレザーの彼はショックを受けて、膝を付いてうな垂れていた。


「あの……黒ブレザーって呼ばれるのもなんだから、俺の事はエドって呼んで?」

 エド? 君ってドが付くくらい日本人だったよね?

「確かに彫りは深くないですが。ちなみにこっちはセドリック師匠。俺の先生です」

 セドリック? やっぱりこっちもどう見ても日本人なんだけど?


 セドリック? さんは涼やかな笑顔を浮かべると、頭を下げて、「セドリック・アルベルドです」と名のってきた。

「あ、えー、ご丁寧にどうも、もが……」

 こちらも名乗ろうとしたら、セドリックさんに手で制された。

「日本人の時の名前を口にしてはいけません」


 はい?

「元の世界の名は異世界人にとって真名に当たり、自分で名乗ると言う行為は、自身の御霊の鍵を晒すということ。貴方の名前はエドから伺っていますが、今からは貴方の今世での名前、クレオリアを名乗るようにしてください」

 クレ? なに?

 セドリックさんの言葉に、頭の中がフリーズする。いくら夢の世界でも支離滅裂すぎて、ワケがわかんないんですけど。


 私の頭上に?マークが乱舞しているのを見かねたのか、どうみても日本人の同級生、自称エドが、おずおずと手を上げた。

「あー、俺も最初は混乱したから、なにが起こったか説明するわ」


 こうして、私は自分の身に起こったことを知った。


 それは文字通り衝撃の事実というやつだった。


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