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MOB男な灰魔術師と雷の美姫  作者: 豆腐小僧
第一章 MOB男な新生児は他業無得の零才子
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001 実験失敗

 この大陸には帝国と王国がある。


 大陸西部を切り離すかのように聳え立つ大山脈の東に位置するのが帝国。その帝国から逃れ、大山脈の西側に建国されたのが王国だ。


 その帝国の帝都。物理的にも魔術的にも厳重に守られた一室に彼はいた。

 帝国の三賢者の一人、カスパール老だ。

 帝国魔術師団の頂点に立つ人物の研究室らしく、その部屋にある品々は魔術師達が見れば垂涎の品ばかり。例えば今机を照らしているランタンも、その気になれば永久に輝き続ける魔法の灯である。その永久灯の光りが一枚の書物を照らしている。


 魔法と魔術と魔道。

 物を知らぬ一般人。時にそれは役人関係者にもいるが、彼らはこの三つの言葉を使い分けたりはしない。が、そこには意味がしっかりと分かれている。


 魔法と魔術の違いは、その力の源を何に求めるかによって違ってくる。

 魔法は、その源泉を異界の神や、超越の存在に求め、

 魔術は、この世界に存在する『理を超越した力』を利用した技術である。


 魔道はそれだけで使われることはない。大体が魔道書や魔道士という使われ方をし、いわゆる学術的に魔法や魔術を研究開発している場合にそう呼ばれる。つまり魔道書とは魔法、魔術の研究論文であり、魔道士とはこの分野の研究者のことを指す。そして魔術師は、冒険者やカスパール以下宮廷魔術師達のことで、魔道士達の研究の成果を実生活や冒険の中で使っているのである。そう考えると先ほど述べた魔法の永久灯がどれほど価値の高いものかわかるだろう。


 さて、今述べたいのは永久灯ではなく、それが照らす書物の方である。


 カスパールの魔道書の一冊。


 帝国最高の魔道士でもあるカスパールともなると、その魔道書は一冊ではない。どの魔道書も帝国黒魔術の粋を極めたものだが、この魔道書はその中でも毛色の変わっている一冊だ。他系統の魔術を研究し、黒魔術に取り込んだ技術についてかかれた一冊である。

 カスパールがいかに老齢であるといっても、自分が心血を注いで書き上げた一冊であるこの本の内容は一言一句覚えていた。


 が、それでもカスパールは再びこの魔道書を開けずにはいられなかった。

 原因は目の前。机の前に描かれた魔方陣である。

 魔方陣の大きさは直径2メートルほど。儀式用の魔方陣としては小型のものである。

 カスパールは目頭を押さえると、低く短く唸り声を上げた。

 実験の結果は失敗だった。

 だが、その原因が分からずに、カスパールは魔道書を引っ張り出していた。

 他の二人。別室で実験の結果を待っているその二人を呼ぶ前に、今回の実験失敗の原因を推論しておきたかったからだ。

 しかし、いくら考えても原因がわからない。そもそも魔方陣は正常に起動し、魔力の発生を感じることはできた。予想していたより弱々しい光りだったが、魔方陣の運転開始の印である魔力による発光は確かに視認できた。なのにそれ以外の変化が起きなかったのである。

 魔道書を読み返しても理論と魔方陣の構造のどこがおかしいのかが分からなかった。

 やがて、カスパールは諦め、ため息をついて立ち上がる。

 年齢による原因だけでない少し猫背の姿勢で二人の待つ扉へと向かった。

 しかし、このことが、この実験が、帝国の歴史に重大な影響を及ぼすとは当の三賢者達でさえ、露とも思わなかったのである。



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