伍
今日は、俺の9歳の誕生日だということで、生誕祭なるものが開かれた。
正直、とても面倒だ。
祝わなくてもいいではないか。
魔界は実力主義の世界だ。
いちいち祝っていられるか、と思うのだが。
勝手に家臣により企画が進められており、どうしようもないところまできていたので、仕方なく出席した。
挨拶をしろとのことだったので、適当に挨拶をし、後は食事と酒を楽しんだ。
時々声をかけてくる輩もいたが、適当にあしらって追い払う。
面倒くさい企画ではあったが、食事と酒は最高級だ。
とても、美味い。
心行くまで味わった後、俺は酒瓶をくすねて部屋へ持ち帰る。
そのまま、2次会のように酒を煽る。
この酒は、アルコール度数がきついわりに、飲みやすく美味い。
俺は、酒に呑まれたようで、ここから先の記憶がなかった。
気がつけば寝台で寝ており、朝を迎えていた。
いつの間に寝台に潜り込んで寝たのだろうか。
頭を捻りながらも、その日の政務に当たる。
今日も、彼女と2人きりで執務室にいる。
すると、彼女から声をかけてきた。
「昨日はありがとうございました」と。
…。
昨日はありがとうございました?
昨日、彼女と何かしたのだろうか?
彼女は、そんな俺の態度を見て、「何も覚えておられないのですか?」と。
嫌な予感がした。
俺は、何をやった…?
昨日、自室で酒を煽いでいるところまでは記憶にあることを告げると、彼女は驚愕の事実を告げた。
俺は、あろうことか酒に呑まれた後、彼女を自室へ呼び出し、一緒に酒を飲んだというのだ。
しかも、俺から口付けをして、口移しまでしたと…!
しかも、1度ではないらしい。
記憶にない自分の行動に、一気に体温が上がる。
情けなくなって手で顔を覆って、忘れてくれと言ったけれど、彼女は意味ありげに微笑んだだけで、忘れるとは言わなかった。
きっと、彼女は忘れることはないのだろう…