弐
今日も彼女は変わらず俺の近くに控えていた。
今日は…そういえば、外回りの日だったな。
どこに行こうかとぼんやり思考を巡らせていると、彼女の声が聞こえてきた。
なんと、彼女が一緒に行きたいと言うのだ。
荒事でもあるし、何より彼女と一緒など心臓が持たない。
断固拒否の姿勢をとるも、彼女はどうしても行きたいと懇願してくる。
しかし、心臓がもたない。
連れて行ったらどうなることか…
口付けされてからというもの、俺は彼女を意識してしまっているのだ。
おそらく、初めて会ったときに一目惚れしたのだろう。
なんて不覚…
とりあえず、平静を装って拒否の姿勢を貫こうとしていたのに、あろうことか彼女は俺に近づき、耳元で囁いたのだ。
「どうか連れて行ってください」と。
あの甘い声で、耳元でお願いされてしまったのだ。
あと、ついでと言わんばかりに耳に息を吹きかけられた。
背中がぞくっとなり、俺は思わず頷いてしまった。
そんなこんなで、一緒に外回りをすることになってしまった。
俺は諦めて彼女を横抱きにし、ある集落に向かって移動を開始した。
3時間。
それは俺にとって苦痛であり、至福の時間でもあった。
彼女が俺にくっついているのだ。
彼女の胸が俺に押し当てられている。
首に手が回っている。
肩に彼女の頬が乗り、息が首にかかっている。
もう、限界が近かった。
少し離れてもらおうと必死に抗ったが無駄だった。
とりあえず、全速力でその場へ向かい、着いたら素早く彼女を下ろしてまっすぐ村長のところへ向かった。
もう、無理ーっ!!!
赤い顔を隠しながら、村長に主従の関係をきっちり叩き込み、村の巡回を済ます。
しかし、どいつもこいつも弱い…
相手にもならん
適当にいなして、彼女の元へ帰る。
もう1箇所回ることを告げ、彼女を横抱きにする。
すると、彼女はとても嬉しそうに微笑んで、俺にぎゅっと抱きついた。
ぎょっとするものの、ここに来るまでの道中を考えると、きっと何をしても無駄なのだろう。
諦めの境地で次の場所へ移動を開始する。
すると、彼女は何を思ったのか、大胆に俺の体を撫で始めた。
待て待て待て
少し離れてもらおうと思っても、結局びくともせずそのまま眼下に広がる森の中へ着地する。
顔が熱い。
隠しようもないほど顔が赤いのだろう。
彼女を下ろして、見てくれるなと手で顔を覆う。
ほんと、勘弁してくれ…
情けない声でお願いをすると、彼女の何を刺激したのかわからないが、顔を隠した俺の手を素早くどけて口付けられた。
2回目の口付け。
しかし、ただの口付けじゃなかった。
舌が俺の口の中に!!?
彼女は、とても口付けが巧かった。
何度も離れてはくっついて、繰り返される。
離れる度に、制止の声をかけるけれど聞き入れてもらえなくて。
結局彼女が満足するまで唇を貪られた。
もう、外回りに行く元気なんて残っているはずもなく。
彼女に、帰ると宣言してから、横抱きに抱いて城まで高速で脇目も振らず真剣に飛んだ。
彼女は何が楽しいのか、嬉しそうに笑って俺に抱きついていた。