壱
彼女に初めて会ったのは、俺が先代魔王を倒し世代交代をした後のことだった。
先代魔王の筆頭侍女にして、特異な魔力を持った、美しい女であった。
美しい艶やかな黒い髪をきっちり後ろでまとめて結び、はっきりした大きな目と、長い睫、少し高い小柄な鼻に、形の良い桜色の唇――
侍女の制服を着てはいるが、そこからでもわかるスタイルの良さ。
幼いながらに初めて彼女に会ったとき、見とれてしまったのは一生の不覚であった。
彼女は、先代から引き続き、俺の筆頭侍女になるそうだ。
初めて彼女の声を聞いたとき、凛とした、それでいて高く甘い声に、肌が粟だったのを覚えている。
「アメリアと御呼びください」と丁寧に礼をする彼女に、慌てて我に返り、うむ、と一言返事を返すだけで精一杯だった。
それから、主だった臣下が挨拶に来たが、俺の頭の中にはあまり入ってこなかった。
彼女は、よく俺の近くに控えている。
内心、とてもドギマギしていたのだが、それを彼女に悟られることがないよう必死に隠しながら、観察を続けた。
俺が魔王として政務に慣れ始めてきた頃、執務室で彼女と2人きりになった。
よくあることではあるのだが、なぜか今日はやたらと彼女の視線を感じるのだ。
怪訝に思って、彼女を見ると、なぜか俺に近寄ってきた。
…?
何だ?
黙って行動を見守っていると、あろうことか俺を抱きしめてきた。
!?
びっくりして固まっていると、彼女の手が俺の身体を撫で始めるではないか。
!!?
咄嗟に彼女の手を止めようとして気づく。
彼女の顔が、とても近い。
と思った瞬間、口付けられた。
目の前には彼女のきれいな顔が度アップで写りこんでいる。
彼女は目を伏せ、少し頬を染めていた。
体も思考も固まっていると、彼女の唇が俺のそれからそっと離された。
彼女と視線が合うと、一気に体温が上昇する。
い、い、今、唇が…!!!?
内心とても混乱していた。
俺はとりあえずいてもたってもいられなくて、彼女の前から走り去った。
うわぁぁぁぁぁ
ダッシュで自室に閉じこもり、包布を頭から被ったのは、俺だけの秘密だ。