2
「う…」
何が起きたのか。
頭がぼんやりとする。
瞼が重く、なかなか開こうとしない。
とりあえず瞼を開けるついでに現状を把握することにした。
少し前まで意識がなかったのか、寝ていたのか。
意識がなかったのだろう。朝6時過ぎ、学校の屋上から飛び降りたのまでは
覚えている。そこから何が起きた…?
そうだ、穴が開いて…。
何を言ってるんだ俺は。そんな非現実的なことがあるとでも思っているのだろうか。
ばかげている。
「本当にばかげて…」
重かった瞼をあげて、入ってきた光景に言葉を失わざるをえなかった。
「どこだここは…。」
木が見える。さきほどから後頭部がチクチクしているのは
草が刺しているのだろう。
首を動かして周りを見てみる。どうやらここは森のようだ。
「は?」
落ち着け。
俺は確か屋上から飛び降りた。
穴に入った。意識を失う。森の中。
「はぁ??」
もしかしたら穴は幻で、俺はちゃんと地面に衝突したのかもしれない。
そして精神障害の可能性がある俺を隔離した、という説は…。
「ないよな…」
この森でだって自殺などしようと思えばできるだろう。木の上に登って頭から
降りればいいのだ。
頭がガンガンする。若干体がだるいが、動けないほどではないので
立ち上がり、改めて周りを見渡す。
うん、森だ。
「さて、どうするか…ッ!?」
がさがさ、と生い茂っている草の方を向けば
緑色の、若干黒い、小人のようなのが立っていた。
いや、人と表現するのは間違いだろう。
3頭身で、下半身には獣の皮のようなものを巻いている。
顔は耳が尖がっている。高さは1mほどだろう。
眼には光がない。口からはぼたぼたとよだれのようなものが落ちている。
指が4本しかない。片手には棍棒のようなものをもっている。
「ゲッゲッ」
緑の化け物がこちらを見てニタァと笑う。
そして
「ゲギャーッ!!」
飛びかかってきた。
数mの距離を一瞬で縮められる。
「うぉぁああああああああああああああああああああああ」
無我夢中で転がった。
さっきまで死のうとしていた人間のとる行動だろうか、と
自分を笑う余裕もなかった。
(こんな意味不明な化け物に、殺されて、たまるかっ…!!)
(なんでだろうか。死にたくない、いや、生きたい…。
なんで、俺こんなにドキドキしてる?恋?ねェよ馬鹿。)
徐々に冷静さを取り戻していく。
人は得体のしれないものに出会った時どうするのか。
パニックになるものもいるかもしれない。
そして、逆にそれに対し興味を抱き、ワクワクするものもいるかもしれない。
(俺は後者だな)
落ち着け…見た目は気持ち悪いし、得体が知れないのも事実だ。
さっきの攻撃から動きは単純とみていいのか…?そうであってほしいものだ。
喧嘩の経験なんてほとんどない。
逃げるのもいいが、さっきの脚力から追いつかれる。
ここで、倒さないと俺が殺される…。
「ゲギャッ!!」
先ほどと同じく飛んできた。
棍棒を振り下ろそうとしている。
「ぅ…ぉおっ!!!」
棍棒を振り下ろす前に、自分から前に出て化け物の
頭に拳を入れる。驚くほど体が軽い。
火事場の馬鹿力だろうか。
「…!?」
化け物の頭が吹き飛んだ。
「ぅ…ぇ?…げぇえぇぇ」
一瞬何が起きたか理解できなかった俺は、化け物の
首から湧き出る血と、吹き飛んだ頭からでてきた
脳のようなものを見て吐いた。
(気持ち悪いっっ。…それにしても、そんなに柔らかい生き物だったのか…!?)
死体の足をつかむ。
(普通に硬い…人間と同じ、いや、それより硬いんじゃないか…?)
手に力を加える。
バキバキバキッといとも簡単に骨が折れた。
(俺の力が…おかしいのか…?)
ぐにゃぐにゃになった足を見て再度吐き気がこみ上げたが、今度は我慢した。
「は、はは…」
「ハハハハハ!!楽しいじゃねぇか。これだよ、このスリル、刺激!!
どこだか知らないが、楽しい場所だなおい!!」
一条は森を進んでいく。