第二話 成長と魔法とお姉ちゃんと
生後8ヶ月。
ちょっとずつだけど、体を動かすことに自由が出来てきた。
日々の練習を積み重ねて、やっとこさハイハイくらいは出来るようになった。
ちゃんとお座りもできるよ!わぁい!
だが二足歩行はまだ難しい。なにかしら支えか掴むものがないと歩けない。
自立まではうまくいくんだけどな。ぐぅ。
それに対する妹。よたよたしてるけども俺より歩数が上。
なんだろう、なんか悔しい。俺の方が先に生まれたというのに。
双子だからかな…仕方ないのかな?
でも言語の方は俺の方が上だ。
うまく口は回らないが、ちょいちょい喋ることが出来る。
言葉もおおむね理解できるようになった。
今の時点で両親の対話や使用人の会話とかも大体理解できる。
今じゃ幼児向けの本じゃ物足りないから、少し赤子にとっては難しめのおとぎ話も読んでいる。
そういえば無意識だったけど、いつも俺ら双子はいつも一緒に行動してた気がした。
なんでかなぁ。
早く立ち歩いて家の中を探検したいぜ。
そんなことはさておき、今現在俺の他兄弟がいるということを知った。
兄弟は俺らの他に2人上の奴がいる。
兄弟は全員で4人いて、多分あたってれば姉、兄、俺ら二人って順。
年の差はどのくらいなんだろう。
姉は4歳くらい上だったような。兄はその一つ下かな?
姉はどちらかと言えば母親似の髪質持っててかわいい。兄は多分父親似だと思う。
どっちにしろロリショタには変わらないな!…あ、俺もか。
あと俺が見た感じのそれぞれの兄弟たちの性格は、
姉:温厚でほがらか
兄:やんちゃっ子
俺:ただの元社畜
妹:不明
という所だ。あくまで予想だが。
それと近頃ぬいぐるみ系のオモチャの数が増えてきた気がする。
ほぼ姉兄たちが持ってってるけどね。
俺はいつも読書か立ち歩きの練習、なぜか妹も同じことをする。
本能的なのかなー?
俺は今日もスローライフを送る。
****
2歳になった。
最初は手間取ったものの、年を重ねたら走ったり跳んだりできるようになった。
喋ることもできる。両親との会話もまだ幼児レベルだけどできるようになってきた。
言葉はちゃんと理解したつもり。難しい本も読めるようになった。
なぜか相変わらず妹とシンクロする事がある。
あと俺と同じくらい頭脳が発達している気がした。
そして最近になって兄弟と親の名前を覚えた。
ちなみに姓はハイラルらしい。
母がシェスカ、
父がクロフォード(クロフ)、
長女がセシリア(セリス)、
長男がエリック、
双子の妹がレイチェル、
そして俺の名前はライナスだ。
使用人はいるけどまだ名前が分からない。
でもいつもなにかしらしてくれる。
この間は『植物図鑑』『イクチアーナ大陸の地理』『いにしえの聖剣の伝説』『童話集~むかしばなし得集編~』を買ってもらった。
セシリアとエリックには難しいようで全く興味を示さなかったが、
それに対して俺とレイチェルは熱心に黙々と読書をした。
勿論、ちゃんと運動はしてるよ?
双子でじゃれ合ったり、エリックと追いかけっこしたり。
たまに喧嘩してセシリアになだめてもらってる。
蛇足だが、大体の性格が分かってきた。
セシリア6歳:面倒見が良くておしとやか
エリック4歳:やんちゃで行動力があるが素直
俺2歳:元社畜
レイチェル2歳:お転婆で活発
こんな感じ。さてさて成長したらどうなるのやら。
****
後日。二人で家の書庫をあさっていたら、面白いものを見つけた。
『新・魔術大全』。実に興味深い。
うすうす感じてはいたが、この世界には魔法が存在するらしい。
前にセシリアが怪我をして泣いている時に、母親が傷口に手を翳してを何かをブツブツ呟いたら、淡く光って傷口が癒えていくのを目撃した。
最初は超能力かと思ってたけど…マジだったのか!
いやっほぅ、オラすっげーわくわくすっぞ!
「レイチェルー!ライナスー!」
遠くから母親、シェスカの声が聞こえてきた…
なんつータイミングだよ!これから魔法書読もうと思ったのに!
「はーい!」
「はーい…」
仕方なく俺は呼ばれた方へ行くとする。
レイチェルは元気そうに返事をした。
そんな双子の妹に対し俺のテンションはがた落ちである。
****
昼食後―――
母と使用人が買い物に行った後。
「レイチェルとライナスは本当に読書が好きだなぁ」
父親のクロフォードが俺ら二人をなでなでする。
「えへへー、わたしえらいでしょ!」
「おれだってほんのなかみ、りかいできた!」
「…そりゃあすごい。えらいえらい」
俺とレイチェルはこれでもかと自己アピールする。
クロフォードは俺らが難しい本を理解出来たことにちょっと驚きを隠せないっぽい。
まぁ、2歳で読み書きってあんましできないものね。
「とーさん!エリックも!」
「おっとー ハハハ…」
エリックが嫉妬したのか、クロフォードの背中によじよじと登っていた。
兄上殿、嫉妬は良くないですよ。
「………」
それにしてもセシリア姉ちゃんは動じない。なんかニコニコして俺らを見てる。
随分忍耐強いお姉さまだ。
クロフォードはじゃれてくるエリックとレイチェルに構ってあげている。
父親は大変なんだね。こんな時に限って育児係が買い物で不在だと一層大変だね。
俺もそうだったよ。近所のばぁさんからガキの世話頼まれた時は大変だった。
ちょっとクロフォードに手間掛けさせないように、
「レイチェルー、さっきのつづきやろーよ」
「うぇ? うん!」
レイチェルに書庫へ移動を促した。これで多少は楽になったらいいけど。
親父…ファイトだぜ。
そのまま二人はこの部屋を後にするのだった。
****
それから再び俺らは『新・魔術大全』へと手をかける。
本棚からこいつを運ぶ時は大変だった。なんせ分厚いし2歳児には結構負担がかかる。
二人の力を合わせればなんなくその点のカバーはできるけども。
よいしょと『新・魔術大全』を床に降ろし、パラパラとめくって二人で読み始めた。
しかしこの魔術の書、実に興味深い。
目次から基本分野を読み進めることにした。
魔法には属性と種類があると記述されている。
まず種類から説明しよう。
(魔術の種類)
治療…怪我や状態異常を回復させる
破壊…対象を傷つける
補助…一時的に対象へ何らかの加護を与える
召喚…幻獣界から幻獣を召喚する
精霊…万物に宿る精霊の力を借りる
風水…地形のあらゆる力を引き出す
操術…物体や死体を操る
某RPGによくある設定だ。
ただ、召喚は特別な種族あるいは人間でなければ使えないらしい。
(魔法の属性)
炎、水、雷、水、風、地、光、闇がある
天気と場所によってそれぞれの魔法の威力が変わる
光については治療と加護のある補助、
暗については攻撃とそれの威力を上げる補助の魔術が多い
風水術に関しては使う場所によって属性が変わる
精霊術師もまた同じで属性が変わる
使う魔法によっては属性が無いものもあるっぽい。
あと、操術みたいに元々属性の無い術があるらしい。
(無属性の魔法)
主に時、無、聖、冥の4つ
時は名前の通り時を操る魔法である
自分の速度を上げたり、敵の速度を下げたりすることができる
ただし若返りや老けることはない
補助魔法として活用できるが、消費する魔力が大きい
無については補助魔法やいくつかの攻撃魔法に活用できる
ただ属性がないだけの魔法である
聖と冥については使える者は少ない
誤解されがちなもので聖と光、冥と闇は似たような物とされているが、
全くの別物である
そしてここで妹が文章を理解出来てるか心配に。
チラっと横目でレイチェルを見ると、まじまじとページを見つめていた。
「レイチェル、ちゃんといみがわかるか?」
「そういうライナスだってちゃんとわかってるの?」
確認の為、レイチェルに問いかけたがまさかの質問返しが来た。
レイチェル…恐ろしい子!
とりあえず適当に「わかるよ」と返したが、「えー」といかにお前絶対分かってないだろと言いたいような顔で言われて会話は終了した。
さてそれは置いといて、続きを見るとする。
次は魔法を使う方法について載っている。
(魔術の発動方法)
その1、魔道具を使用する
その2、詠唱をする
その3、大気から魔力を吸い出す
その4、自然の魔力を使う
その5、自身の体内にある魔力を活用する
その6、円陣を描く
その7、物質と自分の魔力とリンクさせる
風水術師や精霊術師は3、6を使う
7は操術師限定
詠唱について高位の魔術師や魔力潜在能力が高い者は、
無詠唱で脳内でイメージし完全な形で構築する事で
魔法を発動する事ができる
ちなみに、そもそも魔法の潜在能力が無い人は魔道具を使うっぽい。
後の方で書いてあったけど、魔法をどんどん使うことによって潜在能力が伸びる場合もあると。
魔道具使いでもある程度練習すれば多少は使えるっていうわけか。
円陣の場合はこの本には記述がなかったが、『占星術師』『錬金術師』とかがよく使うらしい。
何処の鋼○だよ。 立てよド三流ってか?
これで終わりかと思ったらまだ次にあった。
(得意魔法について)
人や種族に伴ってそれぞれ潜在魔力や成長速度が異なる場合がある
特に妖精族、魔族は潜在魔力が高い
要するに種族値だかなんだかって元からあるみたいだ。
…人間だけじゃなくていろんな種族がいたのか。
まだまだ文が続いている。
とりま人族の部分を見ることに。
(人族)
我々人族の場合は成長速度が他の種族と比べるとすこぶる高い
ごく稀に人族は魔族や妖精族より比べものにならないくらいの
膨大な潜在魔力を秘めて誕生する者がいる
属性のバランスは全種族と比べて非常に良い
ただし人によって特化する部分も異なる
特化部分を鍛え続ければ―――
面倒くさいから属性うんぬんはいいや。
さりげなく次のページへ進むと、
やっとこさ初級魔術が記載されている紙面を見れた。
とりあえず最初のページで目に入った物を使ってみることにした。
「ちょっと退いてて!」
レイチェルを自分の近くから少し離れさせる。
彼女はちょっと不満気だが従ってくれた。
「ここでいいー?」
「いいよー」
ちょっと遠い場所からレイチェルが覗いている。
俺は手をふってオッケーの合図をした。
さぁ、楽しい楽しい魔法の実験だ!
うーん…簡単なもの…かつ安全なもの…
[ファイアバレット]
魔力で炎の弾丸を造りだし、標的へ飛ばす
分類:破壊 属性:炎 消費魔力:小
いやいやいや、駄目だ駄目だ。家が燃える。
ああぁぁぁどうしよう!なんかいいモンないかぁ!?
そこでふと俺は良いものを見つけた。
[フローティング]
一定時間の間、少々浮遊することができる
分類:補助 属性:風 消費魔力:小
浮遊だってさ!!子供のロマンだぜ!!
早速詠唱してみよう。そうしよう。
「…」
呼吸を整え、肩の力を抜く。
一極集中、邪念は混ぜるな!
………よし、行くぞ!
「たゆとう風よ、我を縛る大地と決別を……フローティング!」
唱えた後、足元に風が集まってくる感じがする……
気付いたその時には、俺の体は浮いていた!
「やったー!浮いてる浮いてる!」
「ずるいー、いいなぁ!」
やったねライちゃん!足が浮いたよ!
――と喜んだその矢先だった。
「ちょ………うわぁぁぁぁ!!」
集中を切らしたせいでバランスが崩れ、
そのまま俺は横方向にブォンとふっ飛んでカベに激突する。
「きゃー! ら、ライナス!だいじょうぶ!?」
レイチェルは顔を真っ青にしてこちらに駆け寄ってくる。
今のところぶっちゃけると意識を手放しそうだ。
割とガチで。
レイチェルは半泣きで俺に抱きついている。
まぁ嬉しいけど……
死ぬわけじゃないからそこまで行くとなんかこっちが悲しくなるんだな。
「…あれ……」
とか思ってたら、なんか痛みが引けてきた。
何が起こっているか全然わからない。レイチェルから淡い光が放射されている。
なんだろう、淡く光を発してるレイチェルからTHE・癒しPOWERを感じた。
暫くして完全に痛みが消えた。
「すげー…もういたくない」
「ホント?」
涙目でこちらを見てくる。やばい、可愛い。
食べちゃいた…おっと邪念が混じった。
とりあえず安心させないと。
「うん。へいきだよ」
一言言ったらレイチェルはパーっと笑顔になった。
そしてちらっと二人で俺がぶつかった方を見る。小さい子供一人分の大きさの穴が開いていた。
やっちまった。顔を合わせて苦笑い。
「……あはは、どうしよう」
「おかーさんにおこられちゃう…… うぅ」
だがしかし、もう目撃者はいた。
ドアの隙間からセシリアが覗いていた!ナズェミティルンディス!
もう証拠は隠せない。
こういうときって開き直ると悪化するんだよね。前世で痛いくらい味わったよ。
セシリアは扉を開けてこちらへ近寄ってきた。
「姉ちゃん… ごめんなさい」
「ごめんなさい!」
「……」
相変わらずセシリアは何も言わない。
俺らがビクビクしてると、ふっと微笑んで撫でてくれた。
そして最後に
「それはお父様とお母様に言うものだよ
私に言っても何もならないよ」
と指摘された。
姉上様、妥当でございやす。
しかしよくできた姉だ。当時の俺とは比べものにならん。
そして二人仲良く書庫を後にして謝罪しに行こうとした―――
「今日はお父様とお母様は居ないよ」
瞬間俺はずっこけた。