七代目雑賀孫市の誕生
前方から魔物の軍、死ぬか生きるかの戦の世の中。正直休む暇がない…
が、不思議と嫌ではない。確かに死ぬのは怖いし、痛いのも嫌だ。
でも、仲間が殺されるのは、人が傷つくのはもっと嫌だ。頭領になってつくづくそう思うようになった。
「ヴァー!!」
相棒である巨鳥の黒鮮が雄叫びをあげる。
こいつとも長い付き合いだが、相変わらず変な鳴き声…
ふ 後ろを見れば俺について戦ってくれる仲間。
再び前を向き軽く深呼吸、再び息を吸い込み
「全軍出撃!!」
後ろから雄叫びがあがり魔物の軍に突っ込む。俺も黒鮮に乗り魔物に突っ込んだ。
異世界、パラレルワールド…信じてはいないがあるのであれば行ってみたいと思った。
長期間に及ぶ受験戦争、親の期待に答えなければならない重圧、女の子に告白をして撃沈。17歳にして今の世の中に疲れはてていた。
現状が嫌だが親の束縛から逃げることもせず、仕方なしにいつもと同じ生活をする。
自殺をする勇気もない。死ぬのが怖いからだ。
そう思っていたが死の恐怖はあっさりと訪れた。
学校の帰り道の途中に暴走する車にはねられた。
地面に横たわる俺。身体はほとんど動かず周りは血だらけだ。しかし不思議と痛みはなかった。
なんとなくこのまま死ぬだろうと悟った。でも、思ってたよりも全然怖くはなかった。むしろ死んだ後どうなるんだろうと思いながら意識がなくなった。
目が覚めると布団で横になっていた。病院に運ばれたのだと思った。何故だろうとても違和感を感じる…
俺の寝ている場所は和室、しかも外には白い砂利が敷き詰めていて、病院ではないとわかった。
しばらく状況が読み込めずボーッとしていると、50歳ぐらいの和服を着た白髪混じりの爺さんが部屋に入ってきた。
「お気づきになりましたか…」
安堵した表情を見せる。黙って頷くと、
「少々お待ち下さい、父上と母上を呼んで来ます。」
さすがに親父もお袋も来てるのか。しかしあの爺さん、父上と母上っていつの時代だよ。
しばらくすると廊下を走る音が聞こえる。あの親も俺のことを心配するのだと思った。
が、目の前に現れたのは、髭の長いオッサンとその奥さんと思われる小柄な女性が赤子を抱きながら現れた。
「亮市!!」
髭のオッサンに抱き締められた。このオッサン力強すぎだろ…っていうか亮市って誰!?
女性の方は泣いている。
俺は正直な疑問をぶつけた。
「おぃちゃん、だぁれ!?」
あれっ!?呂律が回らない…俺が固まっていると俺を見ている二人もポカーンと口を開けて固まっている。
「りょ、亮市!?お、お前どうした?」
「私達のこと覚えてないの?」
覚えてるも何も誰だお前ら…
立ち上がったら何か違和感がある。目線がかなり低い…
自分の目線に違和感を感じて自分の姿を見ると小さい…というよりこれ俺の身体!?
しばらく俺もオッサンも女性も動揺を隠せない。
「亮市様は…頭を打ったため多分頭の中が混乱しているみたいですね。」
爺さんが口を開いた。
「しばらくすれば落ち着いて記憶も戻ると思われます。」
その言葉に納得して、この身体の両親と思われる夫婦はしばらくこの部屋にいた後に部屋を出ていった。
ところでここはどこだ?
目が覚めて数日後、とりあえず俺は状況整理をすることにした。
この身体の主の名前は亮市という名前で年齢は三歳、髭のオッサンは父親で名前は政市、女性は母親で名前は桐、赤子は弟の春吉、爺さんは医者兼俺のお守り役の多田野善十郎と爺さんが教えてくれた。
庭先に出ると家の周りは塀で囲まれていて、それなりの広さがあった。
よくわからないがそれなりの地位があるらしい。
時代背景的に戦国時代の様式が多くあり、昔の日本の地名で地図が書かれていたのでタイムスリップしたのかと思ったがその考えは覆された。
この世界は大和という国名で首都は江戸と自分のいた世界と被るところが数多くありパラレルワールド的な世界であると…
武器は刀、槍、弓矢などが主な武器だがゲームの世界みたいに攻撃に特殊能力をつけることができる。攻撃の属性は主に火、水、木(風)、金(雷)、土の五行からなるらしい。
また、人間や動物以外に魔童と呼ばれる魔物がいる。種類は様々だが死んだ人間や動物を取り込むので人や動物の姿をしているのが多い。
と、いった感じで何かゲームの中の世界みたいな所にきてしまった。
今すぐに元にいた世界に帰りたいとも思わず、また、帰り方もわからないためしばらくこの世界を満喫しようと思った。
この世界に来てから七年が経過して俺は十歳になった。
とりあえず俺は武士の子どもなので武術と勉強をたたきこまれている。といっても勉強は昔俺がいた世界に古典を文中に入っている程度で対して苦にならず、武術の方もこの身体は高性能ですぐに型や技を覚えることができた。
また、この七年間で変わったことも増えた。兄弟が増えた。五歳年下の弟の景明と六歳年下の妹の宮が増えた。
そんなことはどこの家庭でもあり得ることだが俺の人生に関わる大きな出来事が三つあった。
一つめは、この年にして初陣を飾ったこと。
親父や主力家臣などがほとんど魔童の鎮圧で出払っていたときに正式な形ではなかったが戦を体験した。
ほぼ爺さんが指揮を取っていたためたいして仕事はしてないが、魔童に囲まれたときにあっさりとこれを撃破してしまい爺さんが驚いていた。予想以上にこの身体の運動能力は高い。
二つめ、黒鮮に出会ったこと。
たまたま一人で外に抜け出して散歩をしていたら黒い雛を拾った。
興味本位でその雛を持ち帰り世話をして、どう育てたらいいか、爺さんに相談したらいきなりこの雛に向かって拝み始めた。
何でもただの雛鳥ではなかったらしく、八咫烏だったらしく、しかも五行神獣と呼ばれる五行の属性の中でもトップを統べることのできるらしく、八咫烏は風の属性にあたるらしい。
親父に見せたら最初はかなり驚いていたが、
「全身全霊をかけて大切にしろ!!」
と物凄い顔で言われたが飼うことを許可された。
確かに小さいころは他の鳥とかわりなかったのだが、少しずつ身体はでかくなり、あっという間に人間の体長を越し三本目の脚がいつの間にか生えていた。しかも知力が高くほとんど人間と変わりないらしい…凄すぎだろ…
三つめ、この家の本当の正体を知った。何でもこの家は雑賀衆だったらしく、親父は六代目の雑賀孫市にあたるという。
すなわち長男である俺が七代目の雑賀孫市になるらしい…
これを聞いた翌日から爺さんに鉄砲の撃ち方を教わった。この世界も火縄銃のようなタイプが主流らしいが、雑賀衆は俺のいた世界と同様に鍛冶技量が優れているため、ショットガンタイプの銃を作ることが可能らしい。
この日から俺は刀、槍術中心から銃器中心の戦闘スタイルへと変わった。
さらにこの世界で七年が過ぎ俺は17歳になった。
15歳で元服し、一月に一度は戦場で魔童と相対するようになった。
この年になると、雑賀衆の中でも実力的には群を抜いていてまともに手合わせできる奴はほとんどいなかった。
とはいっても、雑賀衆が弱いわけではなく、他の有力な武家から見ても雑賀衆の戦闘力はかなり高いと評判らしい。
明くる日江戸に魔童の大群が押し寄せてくるため全国の有力武家に出陣命令がだされた。俺も出陣しようと準備していたが、今回は待機ということで館に残った。
「亮市、後は頼んだぞ…」
「わかったわかった、親父こそくたばんなよ」
軽く笑いながら親父は五千の兵と八咫烏の旗印を引き連れて討伐に向かった。
これが親父の姿を見た最後のときだった……
三日後、戦況の報告が来た。
「雑賀衆壊滅!!当主の雑賀孫市を始めとする数多の家臣が討ち死に!!」
頭が真っ白になった。何でも連合軍が総崩れになった際に殿軍を引き受けたらしくその際に討ち死にしたらしい…
一週間後、戦いが終結した。翌日親父を始めとした戦死者の葬儀をした。とはいっても、ひどい有り様でほとんど戦死者の遺体はなく、遺物のみの葬儀である。
そして、このときから正式に俺が七代目雑賀孫市となった瞬間でもあった。
「どおりゃあぁあっ!」
「ヴァアァー!!」
俺が上空に飛んでる敵を撃ち落とし、前方から来る奴は黒鮮が鉤爪で切り裂き、噛みつき一瞬で絶命させる。
地上でも爺さんや元服したばかりの春吉を中心に魔童の群れを殲滅した。
俺が当主となっての初陣は圧勝に終わった。
親父ほどとは言い切れないがそれなりに雑賀孫も機能していた。
「兄上!!」
「若様!!」
爺さんと春吉が地上で迎える。
こうして七代目雑賀孫市としての人生が始まった。