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負け組Continue? ―Prologue―

 浮いた人間、村八分。

 個性があれば、異端者扱い。

 政府が悪けりゃ、甘えと言われ。

 業績悪化は、社員の所為。

 経済悪化は、若者悪く。

 就職出来ずは、努力が足りぬ。

 成功すれば、妬みと嫉妬。

 失敗すれば、自己責任。

 この国は何時からこんなにも息苦しくなったのだろう。

 生まれた時から斜陽の国家、雁字搦めの村社会。

 かつて、夢があると言われた、隣の超大国ではこの国以上に弱者に厳しいとも聞く。

 他の国でもそうなのだろうか。

 結局の所、弱者は追いやられ、駆り立てられ、搾取され、死ぬのであろうか。

 そう考えると暗くなる。

 いっそのこと、犯罪でも犯そうかなんて思ったり…。

 ならば、昔の時代。海を越え希望の地を求めていた時代はどうであろうか。

 勝算は限りなく低いかもしれないが、まだ選択肢は残っているかもしれない。

 希望なんて無いと思っていた。

 夢なんて無いと思っていた。

 新天地なんて、無いものだと思っていた。



負け組Continue? ―Prologue―



 ありがとーございましたー、と間延びしたやる気の無い店員の声を背景に外に出ると、駐車場の縁石に座り込み、怒鳴るかのような声で喋っている学生。

 語る内容はまるで生産性の無い、誰々がむかつく、誰々とヤッた等と猿なのは外見だけにしておけと、心の中でそう愚痴る。面倒事は御免だ、世の中とは正直者が馬鹿を見る社会…関わるだけ馬鹿を見るという事例を紹介しよう。

 治安の低下と凶悪犯罪が目立つ昨今、登下校の児童に対しての保護のため挨拶運動が実施された地域にて『早く帰れよ』と若い男性が児童に声をかけた。彼はきっと純粋な善意であったのかもしれない、社会に対して従順な市民だったのかもしれないというのに、数十分後には警察のネットワークに『要注意人物』としてマークされてしまった。

 結局、世の中そういう薄っぺらいモノで構成されているのだ。その証拠に平然と嘘をつく政治家が当選する世の中であり、果てには一国の総理がママからの『お小遣い』として脱税しているにも関わらず、無罪。ちなみに民間が同じような手法で行い、判決は有罪。いやはや、素晴らしい世の中である。利権と賄賂万歳。

 この学生共もそう…言うなれば加害者であり被害者なのだ。

 最近、声を大にして言い張っている自主性の尊重…聞こえはいいが、早い話、親や教師たちが面倒に関わりたくないだけだと思う。自主性の名の元に礼儀も道徳も放任する。大人は問題が起きれば乱暴者の加害者は若いからと言って処罰なし、自分より力が弱いと思われるものには『落ちこぼれ』や『協調性の無い愚図』とレッテルを貼られ、厳しく処罰されると。

 そうして狂い始めた学校という閉鎖社会において、生徒諸君は身の安全の為に、力の強い者に靡いていった結果がこの頭の悪そうな糞餓鬼共である。靡けなかった、もしくは取り残された少数派の弱者はおめでとう、閉鎖社会の儀式であるイジメをもれなくプレゼント。

 この国は、建前として理想を述べ、現実としては至る所でこのような歪みを持っている。学校だけでなく社会でもそうだ。国家体制は資本主義とは銘打っているものの、資本主義の悪い所と社会主義の悪い所を取り入れたような、歪な体制。

 硬直化した社会、悪化する経済、治安の低下…挙げればキリが無い。公平を前提としているマスメディアが既に公平ではないのだから、国益を求めるべき政治家が既に国益と引き換えに私腹を肥やしているのだから、そして一番駄目なのが、それらに簡単に騙される俺達だ…歪な社会ができて当然だろう。

 かつての明治時代は信念に満ち溢れていただろうか?

 かつての高度経済成長時代は希望に満ち溢れていただろうか?

 かつてのバブル経済の時代は夢に満ち溢れていただろうか?

 今の社会にはそれらが残されているだろうか?

 今の俺にはそれらは残されているだろうか?

 大学はFランク、無い内定、今はバイトのフリーター。特技無し。就活先からは色好い返事は来ず。

 過去に戻れたら、と何度思った事だろうか。

 過去の大戦に勝っていれば何かが違ったのだろうか。

 過去の…過去の…過去の、と思考は堂々巡り。

 普通に働いて普通に結婚して普通に孫に囲まれて死ぬ――今の俺には全然届かない、未来。

 意気揚々と働きに出た同級生は労働基準法違反の薄給で毎日サービス残業、心身に異常を来たし、今は通院中。会社はクビに。

 結局、俺達のような落ちこぼれにはどうしようもない気がする。

 末は自殺か、犯罪か。

 暗鬱とした気持ちのまま、ため息一つ。幸せが逃げると言うなかれ、そんなものとっくの昔に逃げ切っている。

 どうせ自殺をするのだったら、交通事故に会って死のうと思う。死んで元々、生き残れば万々歳。慰謝料やらなんやらで親が食うには困らないだろうと、親不孝な考えをしながら自宅の近くの交差点に差し掛かった所で後ろから破裂音。

 恐らくはパンクでもしたのだろう…別に珍しくも無いのだが、余りにも近くで鳴ったモノだから驚いて後ろを見れば、運転不能になったであろう大型トラック。

 耳に障る音を出しながら俺に迫るトラックと隣の歩道で目を見開いているご老人。それらがゆっくりと、ゆっくりと映像のように脳に流し込まれてくる。

 成程、これには見覚えがある、危機が迫ったときに感じる時間の引き延ばしのような現象だ。 

 絶体絶命の危機だというのは分かる、だというのに、思うのはやれ、年金払ってないのに、だとか、仮に俺がトラックの運転手の立場で慰謝料含め多額の債務を背負ったら自殺するだろうなだとか、果てにはレンタルしたDVDを返却してないのにと、どうでもいい事ばかり。

 恐らくどうでもいい事ばかり考えるのは、社会にとって俺はどうでもいい人物だからなのかもしれないと考察までする始末。

 されど、思考とは裏腹に本能は出来うる限りの防衛手段を取っていた、腕で顔を覆い、横に逸らした体を丸めて衝撃に備える。真横に飛べばまだ助かる見込みはありそうだが、生憎と時間も身体能力も間に合いそうにない。

 後コンマ数秒だろうか、俺の生命活動は。最後に何を想うべきか迷い、気づく、最後の最後で。

 碌に思い浮かべるような事が無いと。

 我ながら何も無い人生だったと。

 しかし、不思議と悔しいとも悲しいとも思わなかった。

 所詮、俺はその程度の人間だったんだと最初で最後に漸く認めただけ。

 目を閉じていてもわかる、迫り来る死神の鎌。

 狙う場所は俺の首。

 素早く、狂わず、正確に。

 そして――容赦なく。

 


――『彼女』の等級は、三等級・魔王種という『その世界』でも数少ない、選ばれた貴種。

 圧倒的な力は万の軍勢をも易々と打ち破り、不平不満の持つ配下なぞ歯牙にも掛けない存在だった。

 いや、『その世界』においては当たり前の事。四等級種族は如何足掻いても、三等級種族には勝てないし、二等級種族に対しては三等級種族は逆立ちしようとも勝てない。 

 だがそれは『彼女』からしたら只管にどうでもいい事だった。

 匹敵するであろう血族――又は種族――は、広大な世界において一握り程度の存在、更に上位の二等級は、隠棲などと言って表舞台から消えた。

 だが、『彼女』にはその気持ちが良くわかった。

 退屈だったのだろう――自らの強さに。

 飽きたのだろう――この世界の理に。

 『彼女』は渇望していたのだ、自らの渇きを満たす潤いを。

 『これ』を始めたのは唯の暇潰しだった。

 可哀想だとは思わない――強者たる自分がそこに堕ちる事は無いのだから。

 痛ましいとは思わない――文句が有るなら強くなればいい。

 別に楽しんでいる訳でも無い、唯の、暇潰し。その程度だった。

 だからだろうか、配下から珍しい種族を捕獲したという報告を受けた時は興味がそそられた…が、内容を聞くと共にそれも失せた。

 特徴が無いのが特徴の、珍しい種族。だが肝心の能力と言えば十等級以下の魔力、体格…今日の『餌』は決まった。

 後は何時も通り、少しばかりの期待を当然の様に裏切る光景だろう。

 『彼女』は渇望していた――常識外れの存在を。魔王種が暇を潰せる、存在を。

 


 例えば、夢から覚めたら現実だというのは一体、誰が決めたのだろうか。

 もしかしたら、夢の中で夢を見ていたという事は無いのか。

 されど、限りなく現実的な五感が、手に繋がれた鎖の重さが、金属音が、これが現実だと無慈悲に通告してくる。

 ならば、あれは夢だったのか?

 違う。『あれは現実』そして、『これも現実』。

 温く湿った不快な空気は生臭く、気が滅入りそうになる。漫画やアニメ、映画にある、典型的な、中世な牢屋――そう、正しく牢屋だった。

 上のほうでは俺をここに押し込んだ糞ったれな本人と思われる声が聞こえてくるが、何語なのかも理解できない。

 英語ならばある程度は聞き取れるが、それ以外は殆ど聞いたことが無い。極東方面の言語でもない。

 となると欧州か、中東か、肌の色は西洋的なフルプレートを着込んでいた為に判断はつきそうに無い。

 もしかしたらドッキリ番組なのかもしれないな、と考えて苦笑する。弁当の入ったコンビニの袋は奪われた挙句、衝撃によって中身がぐちゃぐちゃになったのを確認している。

にも関わらず、未だに牢の外で俺を見張っている糞野郎の仲間と思われる兵士は看板を出す気配が無い。

 このような事…本来なら怒る所なのかもしれないが、長年被ったままの仮面は、長年施された道徳教育は、怒るなんていう感情は心の奥底に押し込められて久しい。それに、面倒事は御免蒙る。

 …いや、正直に言おう。俺は、怖いのだ。暴力が。敵意が。喧嘩なぞ、十数年も前にやった以来だ。先程も乱暴にやられたというのに、従順な振りをして、敵意が無いとばかりにここに入った。

 恐怖で手が震える…心臓の音が聞こえる程に動悸が激しい。

 小心者じゃない、臆病者じゃない、面倒事が嫌いなんだとばかりに、進んで競争せず流されるままに過ごした。

 根性なんて柄じゃない、努力なんて報われないと周りには無気力な男としての印象を与えていた。本当は努力するほどの根性も無い馬鹿…唯の無能と思われたくないからこそ。

 そうして逃げ続けた結果がこれだ。この牢屋は俺の人生そのもの。牢の外は俺の届かない未来、牢の狭さは俺の才能、痛んだ壁と錆びた鉄格子は俺の容姿、濁った空気は俺の精神だ。

 心の中は自嘲ばかり、されど外面は悠長に足を投げ出し、手を頭の後ろで組んで壁にもたれかかり『こんなことしても気にしてませんよ』『まるで余裕だから』と大物ぶる…実際は歯が鳴らない様に口を噛み締め、手は震えないように強く固定している張り子の虎。

 今までも、これからもこうやって意地を張って負けばかりの人生を送る…送ってやる。死ぬ間際、碌でもない人生だったとしても、良い人生だったと、後悔ばかりでも悔いは無いと言い張って死んでやる。最後の最後まで負けを認めず死んでやる。

  …そう思わないと、先を行く同年代や未来が残っている後輩達の後塵を拝んだままだ。例え、真人間に戻ったとしても俺は、馬鹿だし学力も、才能も何も無い。スタートラインにすら立てないかもしれない。立てたとしてもきっと追いつけない、無能な所だけは、無様な所だけは見られたくない、言われたくない。今だこんな俺を信じてくれている、両親には絶対に。

 そうだ、これだけが俺の最初で最後の防衛線。何時もの用に負けたと思わず面倒事が起きたと思えば良い…。

「――ッ!」

 話が終わったのか、出ろ、と言わんばかりに乱暴に俺を引きずり出すのを見るに、どうやら釈放されるという訳では無いらしい。

 石造りの建物に硝子の無い窓がある通路。まるで映画のようなセットだが、あんな安っぽい造りはしていない。聞きなれぬ言葉にまるで中世の砦のような建物…ここは一体何処なんだ、と、現実逃避も兼ねて考える。経験上、こういうのは禄でもない事が起きる。

 この、何とも言えない空気。敵意と悪意と害意が混じった、弱者が人生で最も感じる時の多い、この空気。

 心の中では、目に指を差し込んで抉り、その辺の石なり何なりで殺せば…なんて思うものの、実行するだけの度胸も勇気も胆力も無い。

 死ねばいいのに、滅びればいいのに。そう思っても、自分ではしないのが、弱者たる由縁なのだろうか。そう心で思っても、顔はへらへらと作り笑いを浮かべるのが、弱者たる由縁なのだろうか。

 やがて、何やら不気味は叫び声やら奇妙な歓声が聞こえてくる。

 薄暗い通路、その先には野球ドームというべきか、原始的なコロシアムとも言うべきか。

「――!」

「――!」

 歓声、されど、歓迎されていない。そんな事は解っている、最早半分以上諦めている。

 途中、何度か逃げようとしたが、相手の力が妙に強く、俺では動作を止める事すら出来なかった。

「…う、ゎっ」

 抜けた先には、無数の、異形の化け物。

 例えばまるで本から出てきたかのような不気味な形をした生物。

 例えばまるでゲームから出てきたかのような亜人。

 それらがコロシアムの座席部分に犇いていた。

 足元が覚束ない、視界がブレる、思考はぐるんぐるんと止まっている。これは夢か幻か。先導する兵士の歩みは止まらない。

「――!」

 歓声なのか罵声なのか、人の身ではないあの化け物が何を叫んでいるのかはわからない。

 だが、向けられる視線は不愉快極まりない類のモノ。奴らは、例外なく笑っている。嘲笑っている。

 ガチャリ、と手枷が外されたと同時に、兵士はもう用は無いとばかりに元来た道へと戻り――

「ま、待てっ!」

 急いで駆け寄ったモノの時既に遅く――どこに有ったのか、通路の檻が、無慈悲に降ろされた。

「――!」

 そして、歓声。

 視線の向かう先は、俺が来た道とは反対側にある通路。檻が下ろされたその先には、威嚇するような唸り声を挙げた、一匹の狼――。

 ああ、畜生、ここまで来れば嫌でも解る、こいつらはつまり、愉しんでいるのだ。あの緑色の蜥蜴もヒトの形をした獣も薄汚れた奇妙な小人も皆、皆――俺がコロされる事を期待しているのだ。

 侮蔑と悪意と嘲笑が混じった狂気的な視線に晒せれた餌が、情けない姿で、血と涙と鼻水を垂らしながら無残に死ぬ事を期待しているのだ。

 狂っている、とは思わない。元から全部狂っているのだから。

 ふざけている、とは思わない。俺は即ち、八つ当たりの為に蹴った道端の缶と一緒なのだから。

 文句は、無い。言っても無駄だ。

 枷が、外された――狼が、一直線に向かってくる。俺の枷は、開かない。

 怖い――檻は鉄製で壊せない。

 助けて――檻の隙間は通れない。

 震える足を叱り付け、抜けたままの腰に力を入れて、ふわふわとした現実感の無い頭に喝を入れる。

 円形の広場に逃げ場は無い。壁によじ登るだけの時間も無い。

 怖くて、怖くて、怖くて、涙が出そうになる。だから、歯を食いしばる。決して、こいつらには涙を見せない、命乞いなんぞ、死んでもしない。

「――ッ!?」

 左肩、斜め後ろから大きい衝撃。

 左肩からの激痛に倒れこんだ衝撃を味わう暇すらない。

 噛まれた――そう思った瞬間には身を捩り、可能な限りの抵抗を行う。

 だが、相手は食らい付いて離さない、ミシリミシリと肉が裂け、骨が軋む音がする。

 激痛に絶叫し、現実感の無さに動揺し、それでも尚、我武者羅に下半身と右腕を使って抵抗した。壁に叩き付けた、僅かに掴めた狼の腹部を握り締めた、尻尾を圧し折ろうとした、あらゆる場所を引っ掻いた。

 何が良かったのかは解らない、だが、狼は噛み付いた肩から離れた――左肩は動かない、血が見た事も無いぐらい流れている。

 逃げる。逃げる。逃げる。

 何故そこまで逃げるのか俺にも解らない。心の中は化け物共の怒りは既に無く、有るのは恐怖と痛みと、もう駄目だろうという、達観。

 もう、諦めればいいのに。

 もう、楽になればいいのに。

 そう思っても、体は動いている。何時死んでも良いとすら思っていたのに、まだ諦めない――駄目だろう、と思っても、諦めようとは思わない。

 その証拠に、すぐ後ろから迫った狼に対し逃げる時、咄嗟に握り締めたままの砂で目潰しをして時間を稼ぐ。

 僅かな時間、荒い呼吸、止まらない血…そんな状況を抱えていても、逃げる。

 何度も噛み付かれた、その度に俺は抵抗した。

 何度も倒れた、その度に俺は立ち上がった。

 何度も何度も何度も――広場に散っている血痕は俺のモノなのだろうか?

 視界が霞む、息が続かなくなる――均衡が、破られた。

「……っ」

 倒れこんだ自分を見れば左足に、ナイフが刺さっている。最早、痛みは殆ど無い。

 何処から? 誰から? 何故?

 ぐるぐると混乱する思考を他所に、ナイフが飛んできたと思われる方向を見れば、化け物共の一団、その中の緑色をした輩がニヤニヤとこちらを見ている…その手には同じようなナイフをちらつかせながら。

「……嗚呼、成程」

 ドロドロとした感情が沸いてくる。それは怒りか敵意か殺意なのか。

 つまり、オーディエンスは飽きてきたのだ、餌が余りにもしぶといから。オーディエンスの求める場面がまだ来ないから。

 死ね、とそういう事なのだろう。今も一本飛んできて、動けない俺の脚に刺さった。

 会場が盛り上がっている。今宵のMVPはナイフを投げつけた、あの緑。

 狼が噛み付いた。会場が盛り上がっている。

 ――結局、自分自身の幸せが一番重要なのだ。

 安全な場所という愉悦、怯える弱者を追い詰める悦び、絶対的な強者だからこその、快感。

 虐める側の結束、話題、共同作業、その実績…たった一人の弱者を犠牲にする事による全体の平和。

 様々な感情の色が混じった、ドロドロの、生物が生物たるその由縁の悪臭漂う汚泥。

 ――死ね。

 後はもう簡単だった。刺さったナイフを抜いた時に傷口を広げた感触が、妙に残る。

 ――死ね。

 自分でも驚くほど、興奮した冷静な状態。ここまで滑らかに刃物を扱えたのは初めてだった。

 ――死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね。

 ぐちゃりぐちゃり、と能天気に噛み付いている狼の頭部を掻きまわす。抜いては刺して、抜いては刺して、粘り気のある髄液が糸を引く。

 会場の音がどよめいている。やがて面白いように頭部に穴が開いたのを見て掻き混ぜてみる。柘榴の入ったゼリーが出来た。

 会場の音は聞こえない。折角出来たゼリーを捨てるのは勿体無いと思い、緑に食わせようとしたが、流石にもう駄目らしい。

 腕は動かない、足は動かない、体は動かない、視界のぼやけが直らない。

 そうして、段々と視界が見えなくなり、淡い光のような靄が狼だったモノから出たのを最後に、俺は空を眺め見せられる。空の色はわからない、只、只、黒く染まっていた。

 消え行く意識に何を思う?

 ――次は緑色を殺そう。

 その次は?

 ――会場の化け物共を殺していこう。

 その次は?

 その次は――全部、殺してから考えよう。





☆Pickup Race☆


『プレ・マリックス』

体長1メートル程度の狼のような魔獣。普段は群れて過ごす。特殊な能力等は無く、等級は十等級以下だが、普通の人間には十二分に脅威。

他に派生として『デザート・マリックス』『マウンテン・マリックス』等世界中に分布している。 

単体の強さ的には世界ワースト級。『この世界』で正直これに負けるっていうのはどうよlv。

今回、主人公が戦ったのがコレ。



☆Pickup Keyword☆


『彼女の娯楽コロシアム

基本はタイマン形式の闘技娯楽。挑戦者より僅かに強かったり、全然強かったりと『彼女』の気分で相手が変わる(増えたりもする)。

ちなみに普段は弱肉強食でヒギィッな人達も見学できる。コロシアム内において見学者同士の戦闘厳禁(※対戦者への妨害等は『彼女』の気分次第で許可したりしなかったり)。


『等級』

種族の強さランク。一~十等級まである。それ以下は戦闘力5のゴミ。眼中に無し。

等級毎に超えられない力の壁が有るらしい。

又、等級が高ければ高いほど種族個体数が少なく、出生率も低い。等級が低いのは逆の状態。

ちなみに主人公の種族、人間は十等級以下相当(出生率については八等級相当)。



☆作者からの後書き☆


この作品のコンセプトは、

①ガチファンタジー

②ガチ弱肉強食

③主人公(闇属性)最強への成り上がり

④全 テ 灰 ニ ナ レ

となっております。

尚、arcdiaさんの所にも投稿してます。以上。

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