冒険72─これは正当な取引だ。
「おい、儂は一人でも入れる!」
「うるさいぞ! 身だしなみを整えろと言ってるんだ! 髪もある程度切るぞ、バサバサで敵わん」
「お、おい! 待て! 髭はダメだぞ! ドワーフの誇りだからな!」
「誇りも何も今の状態じゃ無いだろ! とりあえず、身綺麗にしろ!」
「ぐぬぅ」
湯屋の主人が何かを言っていた気がするが知らん。
迷惑料込みで金貨を投げ付けては汚れドワーフを湯船に突っ込み、思いっきり洗ってやる。
汚れドワーフを見た、他の住民達が慌てて出て行ったが、それも知らん。こうなってるのはお前達の責任なんだからな!
「で、その後は全てのお店や宿場を断られたから、俺の所に連れてくるか? 普通? ここは冒険者ギルドだぞ?」
「冒険者ギルドは世界の平和機構の役割もあるんだろ? それに巻き込ませたのだ、ギルドマスター、お前自身だ。少しは俺の苦労を味わえ!」
「あぁ……クソッ。分かった、このギルド長室は自由に使っていい。だが! 暗殺者が来た時はここで争うなよ? 穏便に済ませろ? 良いな? 血なんか俺はギルド長室では見たくないんだ」
「善処する」
約束など出来るものか。ここに来るまでは怪しい輩が何人来たか、全て物騒僧侶が追っ払ったが暗殺者風情なヤツも確かに混じっていたぞ?
「で、話だったな。それにしても王子か、王子って言えば若い印象だったんだがな」
「ドワーフの寿命はエルフに続いて長いんだ。だから、儂も立派な王子であって、ドワーフの中ではまだまだ若い方だ」
「若いと言われても、正直俺には分からん」
目の前には身綺麗にはなったが、ずんぐりむっくりのおっちゃんドワーフにしか俺には見えなかった。
「でだ、儂をどうするつもりか?」
「どうもこうもない、このドルネル国が正常に戻らないと俺達は旅にも出れんし、何よりも隣の王女ちゃんの平和が脅かされる」
「王女ちゃん? 果て、ん? んー? 髪色が違うが、ほう、もしやウェストールの?」
「あぁ、そうだ。それで察せよ? いちいち話していて、周りに聞かれるのも困るからな」
「だが、儂には治世をするには何もかも足らんぞ?」
「そこは察せられないんだな。長く平和を維持した名君が居るじゃないか、お前の親父さんだよ。彼を救って、ちゃんと国の機能を取り戻すんだ。民草も自分たちが安易に何を願っては好奇心で手を出して、とんだしっぺ返しを食らってるかは理解してるだろ? そこまで馬鹿じゃないと俺は思いたいぞ」
「父を助ける。王を──出来るのか?」
「出来るのか? じゃない、やるんだ。それが出来る唯一のチャンスが明日転がってるんだろ? 向こうのお膳立てで」
「コロシアムか…だが、アレは儂を殺す為のもので」
「そうじゃない、それはお前が1人だけと仮定した話だ。俺達が一緒に出てやる」
「よ、良いのか!?」
「良いも何もあったもんじゃない。これは取引だ。王女ちゃんを守る為に俺は国を正常に戻したい。お前は王を救っては立場? 環境? を取り戻したいんだろう? だから、お前は王を助けたら、その現状が回復するまで馬車馬の如く働いて貰うからな?」
「──すまぬ、儂に出来ることなら何もかも出そう。手を貸してくれ」
「あぁ、それでいい。取引、成立だ」
そして、俺と汚れドワーフは握手をしては明日のコロシアムの打ち合わせを話してはギルド長室で一夜を過ごすのだった。
襲撃? 有ったさ。けれども、駄天使の結界を破るほどでは無かったようだ。朝方、冒険者ギルドを立つ時に外に結界から弾き返された自身の攻撃や魔法で伸びている残念な暗殺者を冒険者ギルドへドナドナした位だった。




