忘れられた病院
MORUチームは、国際支援機関からの要請で旧・国境なき病院の施設跡地へ向かうことになった。
10年前まで現地医療の拠点だったが、内戦と経済破綻で閉鎖されたまま、
地震によってさらに孤立していた。
衛星写真では**“完全な廃墟”**。
だが、最新のドローン映像に、屋上で助けを求めるサインが映っていた。
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Y-01で到着した一行は、外壁の崩れた建物に入る。
内部は粉塵と瓦礫、酸っぱい臭気、剥がれた薬品棚――
けれど、地下に続く通路の奥から、かすかな呼吸音が響く。
日向:「……人がいます。複数人。子どもも含まれてます」
柊:「酸素も水もない環境で、何日……」
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地下室に残されていたのは、5人の患者と1人の元看護師。
元看護師・ニコリーナ(60代)は、
医療知識を駆使して、最低限の衛生状態を保ちながら、
子どもたちと高齢者を「死なせずに待ち続けていた」。
ニコリーナ:「私は“患者に生きろと言った側”です。
だから、見捨てられても、誰も来なくても、“生きろ”を諦めなかった」
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だが、患者の1人――重度の腎不全の男性が、痙攣を起こす。
神崎:「急性尿毒症……輸液では限界だ。人工透析が必要だが、ここでは無理だ」
柊:「搬送までに持たせる方法は……」
ニコリーナは言った。
「先生、お願いです。
この人だけでも、生かしてあげて。
この病院で“最後まで闘った”人なんです」
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神崎はY-01内の資材を総動員し、簡易的な透析装置の組立てを指示。
通常は不可能とされる“即席透析”を実行に移す。
電力はポータブル発電機、冷却は手動、排出はドレーンシステム代用――
「持ってくれ……この血液が、まだ希望を流しているうちに」
処置の末、患者の痙攣が治まり、意識が戻った。
「……見えた、空が……まだ、俺……ここに……」
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夕暮れ。
神崎は瓦礫の屋上に立ち、ニコリーナに静かに言った。
「……ここは、もう“忘れられた病院”じゃない。
今日からまた、“命が生きる場所”に戻る」
ニコリーナは黙って、両手を組み、祈るようにうなずいた。