銃声と祈り
村での感染症対応を終えた直後、サーシャから新たな連絡が入った。
「……武装勢力がこの地域に向けて移動している。
彼らは、“外国の医療支援”を“敵対行為”と見なしている」
柊:「つまり、私たちが“命を救っている”ことが……向こうにとっては“支援”になる?」
日向:「支援じゃなくて、“敵側に加担している”ってこと……」
神崎はしばらく黙ってから答えた。
「それでも、俺たちは行く」
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その日、外傷を負った少年兵と思われる少年が、ひとりで診療所に現れた。
左肩から出血。骨折と感染の疑い。
発見時、彼の背中には銃がくくりつけられていた。
現地のスタッフがざわめく。
「この子は敵側の斥候かもしれない。
今、治せば“次に来るのは弾丸”になるかもしれない」
柊:「でも……この子、まだ10代ですよ……!」
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神崎はためらわずに言った。
「“命の優先順位”を決めるのは、戦争じゃない。医療だ。
助けられる命を見捨てたら、俺たちは医者じゃない」
治療開始。銃は没収し、本人に話を聞く。
少年は最初は黙っていたが、徐々に語り出した。
「……“向こう側”で生まれただけ。俺は銃が欲しかったんじゃない。ただ、生きたかっただけなんだ」
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そのとき、拠点の周囲に銃声が響いた。
「……警告だ。次は診療所が標的になるかもしれない」
避難を進めるスタッフたちの中、サーシャが叫んだ。
「MORUは退避すべき!彼らはあなたたちを標的にしてる!」
神崎は、処置を終えたばかりの少年を見下ろした。
「……この子を置いては帰れない」
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銃声のなか、Y-01での移送を決行。
隊員たちは全方向を警戒しながら、山道を急ぐ。
ついには、見張り台の影から1人の男が銃を構える。
だが――
そのとき、少年自身が立ち上がり、腕を広げて前に出た。
「撃つなら、俺を撃て。
この人たちは、俺に何も聞かず、ただ命を助けた。
俺のことなんか知らないのに。
こんなやつを撃つっていうなら――
お前たちは、“俺よりも小さい”!」
……
銃口は、沈黙とともに下ろされた。
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夜。無事に拠点へ戻ったMORUチーム。
柊は震えながらつぶやいた。
「……命を救うって、こんなにも……怖くて、尊いんですね」
神崎は短く頷いた。
「それでも、俺たちはやる。
命を守る医者として、この先もずっと、な」