神のいない村
MORUチームは、現地医師サーシャの案内で、
震源に近い山間部の孤立村へ向かうことになった。
そこは宗教的な理由から外部の医療を拒む土地。
それでも地震による死傷者は多く、支援の必要性は明らかだった。
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Y-01が山道を進み、村に到着すると、
長老たちが厳しい表情で彼らを睨みつけた。
長老:「ここに“神が定めた寿命”を変えに来たのか?
それはこの村では“冒涜”だ」
神崎:「俺たちは、神の代わりじゃない。
ただ“今を生きたい”と願う人のために来た」
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唯一、治療を求めていたのは、重症の妊婦だった。
・妊娠8か月・子癇の兆候あり
・血圧200超、痙攣と意識混濁
・胎児の心拍弱い
柊:「帝王切開が必要です。今、Y-01でならギリギリ間に合う!」
だが、村の男たちは首を横に振る。
「この子の命も、胎児の命も、“天命”だ。医者の刃で命を裂くなど……」
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神崎は静かに言う。
「俺たちは“命を延ばすための道具”を持ってるだけだ。
どう使うかを決めるのは――この人自身だ」
妊婦の目がわずかに開く。
弱々しい声で、震える唇がこう動いた。
「……生きたい。赤ちゃんと、一緒に……」
それだけで、全員は動いた。
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Y-01内。
日向が麻酔を、柊が帝王切開を、神崎が新生児処置を担当。
胎児は臍帯が首に絡まり、血色不良。
酸素投与と刺激処置でようやく、産声が――
「……ッ、泣いた!心拍上昇!SpO2、安定!」
母体も出血制御に成功。母子ともに命がつながった。
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村に戻ると、サーシャがつぶやく。
「この村で、初めて“命を救われた”と言える記録ね」
神崎:「神様がどう判断するかは知らない。
でも、“生きたい”と願う声は、きっとどこにでも届く」
長老たちは無言で背を向けたが、村の子どもたちだけが、笑って手を振っていた。