境界線の向こうへ
空港のロビー。
神崎は、MORUチームのメンバーたちと共に静かに搭乗を待っていた。
柊:「……本当に、行くんですね。海外なんて、修学旅行以来です」
日向:「あのときも先生が荷物落としてましたよ」
烏丸:「俺はむしろ、心配なのは“日本の医療基準が通じると思ってるお前ら”だな」
神崎:「何が起きても、やることは同じだ。“命を救う”。それだけだ」
⸻
行き先は、東欧のボスカ共和国。
大地震により都市部と山間部が壊滅状態となり、各国から医療支援が入っていた。
だが、日本からの“フル装備型移動オペ車両”であるMORUの出動は、異例だった。
⸻
現地の支援拠点。
電気は不安定、水道は使えず、言語も英語すら通じにくい。
神崎たちは、現地病院の臨時診療所で迎えを受ける。
そこにいたのは、現地の女性医師・サーシャ・ヴァレンティナ。
サーシャ:「……あなたたちは、見物人ですか?それとも“助けたいフリ”をする観光客ですか?」
日向:「え?」
サーシャ:「この地で“完璧な処置”はできません。覚悟はあるんですか?“選べない命”の前で、泣き崩れない覚悟が」
神崎:「選ぶつもりはない。……俺たちは“全員を生かすために来た”。
その手を貸してくれるなら、感謝する。貸せないなら、それでも構わない」
サーシャは神崎を見据え、言った。
「……それが“傲慢”でないといいですね、日本の先生」
⸻
その日、初めての処置要請が入る。
現地の校舎が崩れ、4人の子どもたちが瓦礫の下に取り残されているとの情報。
夜明け前、Y-01は発電機と医療機器を積み、被災現場へと向かう。
瓦礫の中、現地スタッフは言う。
「この子は厳しい。救うなら、後の子に時間を回したほうが――」
神崎はきっぱりと言った。
「その判断は、俺たちがする。命を“後回し”にはしない」
柊:「呼吸弱いですが、まだ間に合います!」
日向:「心タンポナーデ!今すぐ開胸して除去すれば!」
瓦礫の隙間で、**現地初の“緊急現場開胸手術”**が始まった。
サーシャは遠くから、その様子を見ていた。
やがて、顔を少しだけ伏せて、つぶやいた。
「……狂ってる。でも、本気で命を拾う覚悟があるなら――今は、否定できない」
⸻
オペは成功。
子どもは命を取り留め、次の処置へ向かう最中、サーシャは神崎に告げる。
「……明日、もっと酷い現場へ案内します。
“誰もが見捨てた場所”です。それでも行きますか?」
神崎:「もちろん」