鋼の命、砂の果て
【起】――終わらぬ戦場
灼熱の砂が、風とともに砲声を呑み込む。
乾いた空に、白く煙を引いてミサイルが爆ぜた。
そこは人の情が消え果てた、終わりなき戦場――「第七戦区・砂丘前線基地」。
主人公・アヤ(CV: 小清水亜美)は、戦うために生まれた女兵士だ。
訓練と戦闘の反復、仲間たちの死に慣れ、鋼の心で今日も銃を握る。
彼女が所属する組織は、かつて「人類を守る最後の砦」と呼ばれたが、今や機械的な兵士たちで溢れていた。
その命のリサイクルを支えるのが、医療施設――というよりも、治療工場と呼ぶ方が正確だった。
「次! 両脚欠損、脊椎損壊!ライン4へ!」
戦闘から戻った兵士たちは、まるで部品のようにベルトコンベアで運ばれ、天井から下がるビーム照射装置や圧迫装置で即座に処置される。
それでも治療が追いつかない者には、さらなる手が待っていた。
「人工心肺、急げッ!」
医師・ドクター・サイオン(CV: 安原義人)は、髪はパーマで左右がつながった青いサングラスの奥に沈痛な眼差しを宿しながら、無情な流れ作業の中で命を繋いでいく。
「彼らは患者だ。尊い命を無駄にするな……!」
命が機械で支えられ、記憶さえもAIで再構築され始めていた。
【承】――襲来者
異変が起きたのは、ある夜のこと。
砂嵐を裂くように現れた漆黒の人影――
敵襲者が、何の前触れもなく基地を襲撃した。
その男は、人間の動きとは思えぬ速度で兵士たちを薙ぎ倒していく。
銃弾も爆薬も通じない。敵1――カイル(CV: 浪川大輔)、ただ一人で多数を屠る存在。
「止めろ……このままでは全滅する!」
アヤたち精鋭部隊が迎撃に出た。
激しい交戦の中、彼女の銃口がカイルを捉える。
だが――その瞬間、彼の口から漏れた言葉がアヤの心を撃ち抜いた。
「……逝かせてやれ。そいつらはもう人間じゃない」
その声は静かで、どこか哀しみに満ちていた。
「お前たちが守っているのは、“命”か? それともただの“機能”か?」
彼が倒した兵士の胸には、人工心肺の駆動音が鳴っていた。
記憶の大半はAIが再構築したもの――“人間の亡霊”。
アヤの動きが止まる。
この基地が、果たして命を救っているのか――あるいは命を模倣しているだけなのか。
【転】――命の定義
戦闘は続く。
基地内のラインでは、今日も負傷者が次々と処置され、ダメなら心肺を入れ替え、記憶を再インストールされる。
その速度は、もはや製品の検品と変わらない。
アヤは問いかける。
「……ドクター、あれは人間なんですか?」
彼女の視線の先には、片目を失いながらも無感情に銃を構える兵士たち。
サイオンは、ほんの一瞬だけ沈黙し、やがて低く答えた。
「私は医者だ。どんな形であれ、意識がある限り、それは“命”だ」
「だが……私も、時々わからなくなる。これは治療か、それとも延命の実験か……」
その時、ラインに流れてきた新たな傷病兵の顔を見て、アヤは息をのむ。
彼女がかつて救えなかった戦友。
その瞳に、感情はなかった。
だが、人工の声で呟いた。
「……アヤ……お前は、まだ……生きてるか?」
心臓ではない、記憶でもない――魂が、そこに残っていた。
【結】――鋼の命、砂の果てに
カイルとの再戦。
今度はアヤが彼の剣を受け止め、叫ぶ。
「たとえ“人間”じゃなくても、あたしは“仲間”を見捨てない!」
彼女の声が砂を裂く。
「……それが、お前の答えか」
カイルは剣を引き、戦闘を止めた。
「ならば、生き残って見せろ。あの“命の墓場”の中で、何を守るのかを……」
彼は静かに姿を消す。
治療ラインは今日も回り続ける。
だが、アヤの胸には確かな覚悟が刻まれていた。
「これは命のコピーかもしれない。だけど……あの時、確かにアイツは私の名前を呼んだ」
――鋼の命も、魂を宿す。
砂漠に沈んだ基地で、今日も彼女は仲間を守り続ける。
完