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3.捨てる神あれば。

あれから何時間たっただろう。


あ~〜つらい。


30分ほど前に鑑定士は帰ってしまい、僕1人天井をぼ〜っと眺めていた。


ちやほやされていた状態から一転。だれも僕に目を合わせようとしない。むしろ哀れみの目を向けられている。気づけば目の前にクッキーがおいてある。ありがたいなぁ。


「どうしよう・・・」


この街で無料で泊まれる宿とかあるんだろうか。ごはんはどうする?ああっ考えるだけでしんどい。誰が置いたかわからない哀れみクッキーを口でむしゃくしゃする。


ぼーっとしているとセクシーな雰囲気の女性がいつの間にか目の前に立っていた。ぱっくりと空いたドレス、いや谷間に目のピントが合う。


「もしもし、今お話しいいかしら」


「え・・・、あっ、はいっ!喜んで!」


テンション間違えた。30分ぶりに人から話しかけられ、10年ぶりに飼い主と再会した犬のような反応になってしまった。


「ありがと」


その女性はふふっと笑いながら、僕の目の前に座る。揺れる髪からはふわっと良い香りが。


「災難だったわね・・・。だけどスキルやステータスがこの世界のすべてではないわ」


女性は僕の冷え切った手を優しく包むように握る。暖かい・・・。


「そっそうですよね・・・そうですよね!」


情けないこと言ってもいい?涙が出そう。


「ぜひ私たちの仕事を手伝ってほしくて」


「僕にできることならぜひ!」


捨てる神あれば拾う神ありとは、このことだろうか。この世に生まれ2日目。ついに僕の人生を決める人との重要な出会いが・・・。


女性は用紙とペンを僕の目の前に出し、指差しながら説明を開始する。


「私たちの仕事はね、この街のつかれた人を癒す素晴らしい仕事よ」


「はい!」


「うまくいけば、一日で10万ベルリ稼ぐことも可能」


「はい!」


「あなたのその小柄な体格とキュートなお顔は需要があると思うし、すぐに受け入れてもらえると思うわ」

「えっはい!」


「あなたには、この街のマダムたちのお話を聞いて、日中デートして」


「はい」


「夜の時間になれば、マダムの身体をマッサージして」


「・・・はい」


「そして・・・」


「ちょっと・・・待ってください」


嬉しさで目が潤んでいた。だから最初の方は、文字が良く見えなかったけど、だんだんと涙が引いていき、文字が読めるようになってくる。

全部読めるわけじゃないけど、いかがわしい単語って雰囲気の字が並んでいる。


「これって・・・身体使う・・・その・・・エッチなやつ・・・ですか?」


「そうよ。あなたみたいな可愛い少年って感じのキャストがまだいなくて!」


「お断りします!!!」


まだ身を売るほど困ってないよ!!困ってるけども!


「まって!せめて名前だけでも!」


席を立とうとした僕の袖を女性はつかんでくる。


「言いたくないです!ちょっと、離してください!!」


「1ヶ月!いや、3日だけでも働いてみない?!!宿も貸してあげる!即戦力になれるわ!」


「ありがたいけど!ありがたいけど、結構です!」


彼女の手を振り切り、僕はギルドを飛び出した。僕だって拾われる神は選びたい!






ギルドを飛び出したのはいいが、どこに行けばいいのか全く分からない。

人の多さ的にここがルーツタウンの大通りってことはわかる。

市場から活気のよい声も聞こえ、武装が立派なハンターらしき人も歩いている。


通りすがる人々が僕の顔を見てくるので、数年前からこの世界にいますけど、道になんか迷ってないですけどって感じの顔を作ることにまずは専念した。


トボトボと少し歩いたところで、大通りを抜け、脇の道に入りそこで息を整えることにした。


「はぁ~」


へなへなとその場にしゃがみこむ。


行く当てもないし、お金なんてものもない。ポケットに変な鍵は入っているけどなんの鍵だよ。家の鍵?自分が知らないうちに家なんか買ってたのか?


とにかく、今晩をどうやって乗り切るか。今からあの浜辺にいったらあのお爺さんに出会えるだろうか。


いや、浜辺までの道のりなんて、もう覚えてない。なにせ、今から新しい生活が始まるぞって前しか見てなかったし・・・。


「あなた。お金に困っているのかい?」


「ひゃいっ!」


突然話しかけられ、顔を上げる。怪しい仮面の3人が僕を取り囲むように立っていた。気づかなかった。


「かわいそうに、お金だけでなく、家もなさそうな様子だね」「どうだい、僕たちと一緒に来ないか?」「心配はいらないよ、僕たちは始まりの木を信仰し、迷える子羊を助ける教会の関係者さ」

「実際に君のような子たちが幸せな暮らしをしている」「さあ立って」


3人の教会関係者はマシンガンのように僕に話しかけてくる。


「えっ、えっ」


返事する時間も与えられず、僕は両脇を抱えられる。これってやばいやつじゃ・・・。


「あの、ちょっと考えさせ・・・」


「考える必要はない。我々に任せて」「そうだよ、僕たちと一緒なら幸せになれる」「僕の顔を見て」


正面に立った仮面の男が仮面を外す。その仮面を外した男の目は、黒く、深く・・・


「あれ?」


思考が停止していく、ああ、この黒さが心地よい、いいやこのまま、任せれば。そうそれで僕は救われ・・・。








バキィーン!!


「!!!」


突然の銃声。正面の男の額に弾丸がかする。驚いた3人は僕を放りなげ、一目散に暗闇の方へ逃げる。


僕は尻餅をついた衝撃で段々と思考がクリアになってくる。


銃声がした方を急いで向く。大通りから差し込む光のせいで顔は見れないが、誰かが立っている。


顔をよく見ようと目を凝らし始めたとき、その人はどこかに歩いていってしまった。


「あっ、待ってください!」


尻餅をついた痛みをこらえながら僕はその人を追いかけようとしたが、大通りに出た時には、もうそれっぽい人は見当たらなかった。


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