13.スッチとトトクリ
「あ~あ、あのにぃちゃん、命を無駄にする気だなぁ」
僕は、無精髭が似合うスッチという男と、気弱そうな性格と正反対の身体の大きさを持つトトクリと出会った。
「あの、やっぱり、決闘会?って危険だったりします?」
「そりゃ危険だな。一生ここで暮らすっていう地獄に耐えられない奴らが決闘会に挑むんだが、大体ギブアップしてかえってくるか、モンスターに食い殺されて死ぬかだな。誰もここから出られたやつはいない」
「あれ?死んだら出られるんじゃ?」
「始まりの木の近くで奴らの仲間が年中見張ってるぞ。あんたもそうじゃないのか?」
「確かに・・・」
数日前のことだ、よく考えれば僕が目を覚ました瞬間の出来事だったよな。そして、監獄に入れられるとは・・・。
「起きた瞬間に銃を突きつけられて、またここに逆戻りってわけさ。殺される分損だな。それはそうと、トトクリ。そろそろ新入り君をおろしてやってくれ」
「アレ!ゴ、ゴメン・・・」
そう、あれからずっと僕はトトクリにお姫様抱っこされたままだった。
「あっ、ありがとう・・・」
「にしても、トトクリが怯えないってことは、うん、やっぱり新入り君は見込みあるよ」
「見込み?」
トトクリは僕を優しく足からおろす。本当にお姫様のように丁寧に地面に着地しながら聞き返した。
「トトクリ君は凄いんだよ~。いい人かそうでないかをオーラでわかるみたいなんだ。」
「オレ、スゴクナイ・・・。スゴクナイ」
「えっと、それがトトクリ・・・さんのユニークスキルってことですか?」
「いいや、ここではユニークスキルは使えないのさ」
と、スッチは天井にいるモンスターを指さす。
天井にいる触手モンスターは、丸い大きな瞳で僕たちをのぞき込んでいる。
「彼女・・・え~っとシュマルは凶悪なモンスターでね、手足の触手は無限に生えてくるし、賢い頭ももっている。そしてスキルに頼る冒険者たちが一番苦労するのが彼女の目の能力だ」
スッチが指差しているモンスターは、どうやらここでは彼女と言われているらしい。
「トトクリさん、そのあそこのシュマルっているモンスターは、メスなの?」
「メスッス」
「そうなんだ」
聞いたところでどうでもよかった。
「彼女の目の能力は、睨んだ相手のスキルをすべて発動できなくさせるんだ。だから、僕たちがここの広間にいる間は、彼女の目線の先だから能力が使えない」
「この広間に出ている間ってことは、部屋では使えるってことですね」
どおりで、部屋では爆睡できてたわけだ。
「そそ、だけど、彼女は夜時間になるとドアの鍵を閉めちゃうし、何より鍵を壊して出れたとしても彼女は四六時中起きているわけだから、結局ここで能力は使えない。それが、この監獄ができてから、脱獄者がいない理由の一つ目だよ」
脱獄者がいない・・・、そりゃ、この建物を壊して出るってだけでも無理な話なのに、能力も使えないなら仕方ない。
「スッチさんも、その・・・やっぱり脱獄したいんですか?」
スッチは遠くの壁を見つめながら言った。
「ああ、出たいさ。出ないといけないのさ」
彼の表情には決意とあきらめが複雑に混ざっているのを感じた。
「スッチ・・・カゾクガイル、オクサンと・・・」
「おっと、トトクリ。プライベートな話はこんな大勢人がいるところでするもんじゃないぞ。お前だって、初恋の猫ちゃんとのエピソードを話されたく・・・」
「ハナサレタクナイ!!!」
トトクリがスッチを軽く押す、という場面だろうが、近くで見ていた僕にはそう見えなかった。
ドコンっと鈍い音をしたときには、スッチは吹き飛ばされ、さっきまで眺めていた壁に張り付いていた。
「ええ・・・」
思わず引いてしまった。
しかし、周りにいた人達は、またいつもの騒ぎかとあきれている様子であり、スッチも
「いてて・・・惜しいなトトクリ、今より80%ぐらい力押さえないと」
と余裕の様子だ。流血してるけど。
「ゴメ・・・チカラハイリスギタ」
トトクリが本気を出したら僕のひょろい身体なら雑巾みたいに絞れるんじゃないか?
もしかして、ここに連れてこられたのも誰かをうっかり家のカーペットにしちゃったとか・・・。
青ざめている僕を心配したのか、スッチは優しい声で言う。
「ああ、新入り君、ビビらなくて大丈夫だ。トトクリは確かに馬鹿力だが、人を殺めたりなんかしてないぞ。逆に優しすぎるくらいだ」
「ほっ、ほんとですか~?」
「そうだ、ここにいる囚人たちのほとんどは、今のカサバル王って奴に無理やり連れてこられたんだ」
「ウン、ボク、ナニモシテナイ。タダモンスタートハナセルダケ」
「えっ、怪力とかじゃなく、動物と話せる能力なんですか?」
意外だ。ってことは、囚人たちが集まってるって言うから、どんなに荒れたところなんだろうと思ってたけど、そうじゃないってことは、実際誰も犯罪を犯していないってことなのか?!
「6年ほど前からとある貴族が勢力を増し、カサバルって奴が突然王様を名乗り出した。そこから、起こることが全部カサバルのやつを後押しする形で、本当に自他ともに認める王様になっちまった」
スッチは近くにあった椅子に座り、腰をさすりながら言う。
「3年前ぐらいかな、その時に俺はここに無理やり連れてこられたんだ。元々冒険家で、俺の能力はステータス交換。特に強くもないスキルなのにだ。聞くところによると、ここにいるほとんどの奴らが元冒険家さ」
「ボク、ボウケンカジャナイ。ドウブツノビョウキ、ナオスシゴト」
「そう、トトクリは冒険家じゃないが、モンスターと話せる能力がきっと奴らの気に障ったんだろうな。これは、スッチさんの名推理に過ぎないんだが、クーデターを起こす可能性がある危険分子を排除する目的があったと睨んでる」
ほら、とスッチは指をさす。指をさした先には、長い髭を生やした老人が一人寂しく何かを唱えている。
「新入り君も知ってるとおり、今教会はカサバルの兵士が入り込んでる。そうなったのも3年ほど前からだ。始まりの木は神聖なもの。今までなら教会もそれを許すはずがないんだが、なぜかそうなっちまった。で、あそこのおじさんは3年前、教会のお偉いさんだったんだ」
始まりの木と教会の話。そういえば、浜辺にいた爺さんも話してたような気がするっけ。
あそこも、と違う人も指さす。陰気なオーラをまとった男がテーブルで伏せて寝ている。
「あの彼も、元々は街の商人だったらしい。だが、彼の持っているスキルが触れた相手を洗脳する能力なんだ。きっと危険因子だと思われたんだろうな」
そして、とスッチは階段の上の方の扉を指さす。
「そんで、極めつけは元勇者パーティーの転生者が一人捕まってる。隠居生活してたのにかわいそうだ」
「そうなんだ・・・、えっ、勇者パーティ?転生者?」
もしかして・・・。
「スッチさん!その人の名前って!」
「んあ?え~っとたしか、ミコトって言ったかな?」




