思い出彼方、三人で
異世界系です、明るいので病んでる時とかオヌヌメです。
これはそう遠くない未来の話である。
化学が魔法と変わりない存在になっている時。
人類は暇を持て余していた。
環境問題は全て解決し、戦争は無くなり、飢餓も無くなった。
病気も治療できるようになり人は寿命で死ぬだけとなった。
国際的問題があった頃は問題が人類のスパイスとなりつまらないと感じることは無かった。
だがそのスパイスが無くなった今、人類が存在する理由が無くなったのだ。
そこで1つの研究所がとある物を開発した。
それは異世界に行けるという物である。
しかし2時間以上滞在するとバグか起こってしまう。
このバグを乗り越えると新たな娯楽となり人類のスパイスとなる可能性を十分に含んでいる。
そこで人類の中で抽選で3名と監視員の研究員が異世界に旅行するという建前のバグを潰す命懸けの旅行が開催される。
なぜか俺はその命懸けの異世界旅行に招待されてしまったのだ。
招待された時は命懸けだとは思っていなかったから承諾してしまった。
今、俺は異世界旅行の集合場所にいる。
監視員は来ているが他の2人がまだ来ていない。
「はじめまして、モンテージ・ハーズです。」
参加者であるハーズさんがやっと来た。
「はじめまして。伊東千秋です」
ここで会話は終了。気まずい空気が流れる。
「おぉー!もう来てるのか、ハーズ!」
「あ!ザガット様〜!!」
ん…?なんで“様”付けなんだ…?
「お?そこの奴は千秋か?」
なんで知ってるんだ?この人は…?
「そうです、貴方の名前は?」
「俺の名前はインテクト・ザガットだ。」
「ザガットさん、よろしくお願いします。」
あくまでも丁寧に会釈した。
「ちょっと、千秋!なんでザガット様に“様”付けしないんだよ!?」
…?ザガットさんは王様なのか…??
「ハーズ、“様”付けしないのが普通だ。」
「なっ!?そんな訳…!!」
「千秋、ハーズがいきなり怒鳴った事について謝罪する、許してくれ」
ザガットは意外と常識人…?ハーズがおかしいだけか?
「大丈夫ですよ、気にしないでください。」
「千秋は心が広いな!」
「会話はここらで終わりです、行きますよ」
会話を断ち切ったのはスーツの監視員だった。
俺たちはおとなしく監視員に従って黙った。
「では事前の資料には目を通したと思いますので早速異世界に移動します」
監視員がパチッ、と指をならすと目の前には大きなドアがあった。
「このドアをくぐると異世界に移動できます。では誰からドアをくぐりますか?」
「俺、ハーズ、千秋で行かないか?」
「千秋は最後じゃないとダメです!!!」
元からそんな気はしていたから賛成する。
「ではザガットさんからですね、どうぞこちらに」
「よし、行くぞ!」
「はい、ザガット様!!」
ザガットさん過激オタクと王様(?)と冷徹監視員、さてまともな旅行ができるのだろうか。
無事ドアをくぐれた俺たちの目の前には見た事のない風景が並んでいた。
歴史の教科書の絵にあったような景色だ。
「こちらの世界は21世紀ごろの日本をイメージしています」
「ザガット様、有名な電柱がありますよ!レトロです!!」
「あぁ、ハーズ、凄いなぁ…!」
確かに本でしか見た事のない世界が広がっている…!
「皆さん、今回の目的を忘れないでください。バグを潰すことが目標です」
そこで俺は疑問に思って質問した。
「バグにはどんな特徴があるんですか?資料にも書かれてなくて…」
「バグには様々な種類があり我々で確認できている物だけでも数百種類あります。代表として記憶が消える、動けなくなる、元の世界と通信できなくなる、等です。どれも一時的なものと考えられますがそのソースはありません」
つまり、元の世界に戻れなくなるバグもあるってことか…。
「まだ2時間も経っていませんので暫くあちらの宿で過ごしましょう。そこで僕は研究所と会議しますので」
「えぇー、まだ観光したいです!!」
「我儘をいうな、ハーズ。バグを潰してから観光しようじゃないか」
ハーズはごちゃごちゃ言っていたが4人で宿に行くことにした。
「4人で1つの部屋です。バグが起きると危ないですから」
それじゃ、ここがバグったら終わりでは…?と思ったが何も言わないことにした。
きっと何か対策をしてあるのだろう。
監視員が会議をしている間、俺たちは日本にあった“あにめ”というのを見ることにした。
「ザガット様、このフリフリの服を着てる女の子のあにめを見てみたいです!」
「おぉ、いいセンスしているな!では見てみよう」
ザガットさんの鶴の一声で見るあにめが決まってしまった。
そのあにめは戦う少女たちの物語だそうだ。
ーーー
「な、なんだこれ…!」
涙で顔がぐしゃぐしゃのハーズがそう呟いた。
俺はゆるふわ系かと思っていたが不覚にもシリアス系だった。
2人もそう思っていたようで驚いた顔をしている。
「もしかして、水色の子は死んだのか…?嘘だろ…」
ザガットさんは水色の子を気に入っていたようで悲しんでいる。
「はーい、皆さん終わりましたか?早速バグが見つかりましたよ」
「千秋、俺たちはあにめを見ておくから行ってきてくれ」
俺だけで行けと!?
「バグを潰すのが目的ですよ!そんな我儘言うのはダメです!」
俺はそう言って抵抗する2人を宿の外につれだした。
「酷いですよ!!」
ハーズが愚痴愚痴言う。
「今回はあにめを見に来たんじゃないですから、諦めて下さい」
「…はーい」
あれ?割と素直だ。
「ザガットさんも、また今度来たら見れますから。ね?」
「あぁ…分かってる」
水色の子の死の余韻に浸っているようだった。
「皆さん、離れないでください。半径50m以内にバグがあります!」
唐突の事で吃驚したがすぐ冷静になった。
「バグの症状は記憶喪失です、気をつけてください」
「ザガットさん、ハーズさん、気をつけて」
俺は少し心配で声を掛けた。
「分かっていますよ、阿呆じゃああるまいし」
「あぁ。この俺がバグに掛かるまい」
その瞬間、目の前がバチッと雷のように弾けた。
誰だ、この人達は。
「誰ですか?」
酷く焦っているように見える…
「なっ、千秋!?どうして…」
千秋?誰だ?
「やっぱりバグ適性が高いから危険視してはいましたが…本当にバグるなんて…」
何を言っているのかさっぱりだ。
「はぁ。とりあえず宿に戻りましょうか。危険ですし、研究所に報告しなくては。」
宿?なんで宿?
「あの、何処ですか?ここ。」
俺は疑問に思って訊いた。
「千秋、演技ですか?」
「ハーズ。演技では無いぞ、俺の直感がそう言ってるからな」
結局説明されずに宿?にきた。
「千秋さんはこの部屋内でなら自由に行動してもらって構いません」
は、はぁ…。
暇だったから寝ることにした。
おやすみなさい。
ーーー
「起きてください」
…?
おはようございます…
「千秋さん、貴方には2つの選択肢があります。一、記憶が無いまま生活するか。二、ここにいたまま記憶を取り戻すのを実験するか。」
とりあえず俺は記憶喪失らしい。
うーん、いまいち分からないけれど
「俺は後者を選びます」
「え!?戻らないのか?!」
戻るって…?
「分かりました。それが千秋さんの選択ですね」
スーツのような格好をした人が言った。
「待ってください、戻りましょう?!!千秋!!!」
少し幼さの残る人が慌てている。
「だから、戻るってなんですか?」
「あぁ、そっか…」
「はいはい、ザガットさん、ハーズさん。元の世界に戻りますよ」
元の世界…?
何を言ってるんだ?
「おい、監視員!!ちゃんと千秋に説明しろ!」
まるで王様のようなオーラを持つ人が叫んだ。
「と言いましても…理解できないと思いますよ?」
「だからって説明しないのはダメだ!!」
少し喧嘩しているように見えて俺は混乱した。
「あの、俺はここに住みますから。心配しないでください」
喧嘩をやめて欲しくて言ってみた。
「ほら、千秋さんもそう言ってるじゃないですか」
「もし考えまでバグに侵されていたらどうするんだ!?」
「はぁ、研究所のバグ査定の精度を心配してるのですか?大丈夫です。絶対外れませんから 」
どうやら喧嘩が収まる気配は無い。
俺がまた口を開こうとした時ーーー
「もう!ザガット様!耳を貸してください!」
なにやらヒソヒソと話しているようだ。
ーーー
「…。わかった。それが最善なら…」
「何を話したのかは知りませんが理解したみたいですね。戻りましょうか」
最後に幼さの残る人が
「大丈夫です。必ず記憶を取り戻して元の世界に戻りましょう、千秋」
と耳に囁いて三人は何処かへ消えて行った。
騒がしく去って行った三人を見て始めて出会ったはずなのに
変わっていく街を見たように少しだけ寂しい…
俺は三人の消えた方向を見て俯いた。
そんな感傷に浸っていた時、ビー、ビーと耳を劈く警報音が鳴った。
[バグ、バグが発生致しました。速やかに生命体を除去します]
生命体を除去…?それってここの人達全員?!
辺りを見渡すとビル、ビル、ビル。
人なんて居なかった。
まさか、俺だけが生命体ってこと…?
そんなわけない!
「誰かー!いませんかー!?」
ガシャ、と大きな音がしたかと思うと大きなロボットが身体を覗かせていた。
[セイメイタイ、ハッケン。ジョキョ、カイシ]
機械特有の声を出してこっちに迫ってきた。
ーうわ、死ぬのかな
驚いたのは笑えるくらいに死への恐怖が無かったことだ。
さようなら、謎の三人。
[ピピ、██を移動させます]
ーーーーー ーーーーー ーーーーー
目が覚めた。
[おはよう、チアキ。今の天気は曇です]
変にいい声がする。
[すこし脳が混乱していますね]
…
ああ、俺はチアキ。
研究員の一人だ。
人類は消滅した。
ある研究所の人を除いて。
研究所はなんとか死なないように不死の薬を作った。
薬を使っても研究員は副作用で死んでいく。
しかし、俺には副作用が無かった。
そう、人類最後の希望である。
死が迫っている研究員は高性能なAIを作り、俺に託して死んで行った。
そんな悲劇から300年が経っていた。
300年も経っていると記憶がオーバーして精神を病む。
だから100年に1度、思い出の記憶を消している。
勿論、名前や地球に関しての事、AIの操作方法等は覚えている。
だけれど時々、変な夢を見る。
ハチャメチャな三人の夢を。
きっと捨てた思い出だろう。
それでも捨てきれない。
なんて勝手な思い出なんだ。
きっと俺はAIと時間と地球と思い出と、死んでいくのだろう。
思い出が加わったことで気が楽になった気がした。
嗚呼、思い出が呼んでいる。
かなり頑張りました。
評価、よろしくお願いします。