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第一幕(5)


 左右を花盛りの木々が連なる道を、ステラはリュミエール座の正門目指して進んでいく。頭上から降り注ぐ木漏れ日が、その銀の髪を美しく照らす。


(ここが、先生が言ってた舞踏学校……!)


 小走りだったステラは思わず、大きく前へ飛び上がった。ゆるやかな上り坂を着地すると同時、くるりと回り、再び軽やかに駆け上がっていく。

 やがて、鳥や雲のモチーフが鉄格子に浮かぶ、大きな門へ到着した。

 その奥には、噴水の向こう、リュミエール座の中央宮が聳えている。


「ごめんくださーい!」


 ステラは門の向こうへ声をかけた。

 その途端、門の横に作られた詰所から大柄な門番が飛び出してきた。


「あ、すみません、私ステ」

「ここで何をしている! この先は立ち入り禁止だ!」


 突然門の外から声をかけてきた少女に、門番はぎょっとして告げる。

 この場所がどこか知らない人間などおらず、平民が正門前までのこのこやってくることなど彼が門番になってから前代未聞のことだ。よく見れば平民にしてもずいぶん田舎臭い恰好の娘で、よほどの世間知らずだと門番は考える。


「ここは神聖なプリエールを踊る、リュミエール座だぞ」

「そうですよね! だから来たんです!」

「だから来ちゃいかんのだ!」


 今にも門の格子から首を突っ込んできそうな少女を、門番は押しとどめる。ステラは格子の鉄を握り、困ったように言い募った。


「あの、でも私」

「聞こえなかったのか。この先はリュミエール座、貴族以外入ることは禁じられている」

「えっと、でも……あっそうだ手紙! 私、手紙を持ってきてます!」


 ステラは鞄を探ると、中から折りたたまれた用紙を取り出した。門番はうんざりと顔をしかめた。


「何を持ってようが、入れるわけにはいかん」

「でもあの、これ見て下さい、入学の」

「はぁ……わからん子だな」


 ステラの言葉を遮って、門番は頭を振る。


「どうしたら帰ってくれるんだ……」

「どうしたらいれてくれるんでしょうか……」


 門を挟んで、お互いの困り顔が鏡映しのようになる。


「何を言っても、ここに平民の子供を入れるわけにはいかん。ほら、さっさと立ち去れ」


 門番は埒があかないと、持っていた槍を門から突き出した。シッシッと動物でも追い払うようにそれをステラに向かって振る。

 それで怖がって逃げるだろうと思っていた門番は、一歩も下がらないまま顔を傾けて素早く避けた少女に驚く。穂先と頬の近さに、向けた方がたじろいだほどだ。


「こらこら、やめなさい、マキシム」


 そこに、鷹揚な声が飛んできた。門内の背後を、マキシムと呼ばれた大柄な門番は振り返る。


「そ……総裁!!」


 門番は慌てて一歩後ろへ下がり、敬礼の姿勢を取った。

 歩いてきたのは、仕立てのいい濃紺のコートを着た初老の男だった。柔和な目元に、切り揃えた口髭がしっくりと合っている。


「君がステラ・フィユだね? 私はリュミエール座の運営を任されています、オーギュスト・ラクロワです」


 そう言うと、自ら門を引き開けた。門番のマキシムが、急いでそれを手伝う。

 開かれた門の中へ、ステラは一歩足を踏み入れる。

 それから、自分を招き入れてくれた人を見返した。


「おーぎゅすと……?」


 そこでステラは、はっとして手を打つ。


「じゃああなたが、“オーちゃん”?」


 一瞬面食らったオーギュストは、すぐに声を上げて笑った。


「はははっ、その名前で呼ばれるのは、何十年ぶりでしょうね」


 なんと懐かしい、と初老の男は笑った拍子にこぼれた涙を拭った。そして、マキシムが呆気に取られている中、ステラへ恭しく膝を折ってお辞儀をする。


「お待ちしていましたよ」


 オーギュストは歌うように告げた。




「————稀有なる星の到来を」




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