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第五幕(12)


「でも……」


 向き合ったステラは、制服のスカートをぎゅっと握って、呟いた。


「もう一人で踊りたくない」


 くすんだ銀の前髪の奥で、ステラは痛みを堪えるように微笑みを浮かべる。その顔を見て、エリーは言葉を失う。


 今度はステラが、自分の足先へ視線を落とす番だった。

 足を通しているのは、譲られたボロボロの舞踏靴ではなく、ここへ来てサボエリで与えられた靴だ。真新しい銀の装飾が、窓からの明かりを跳ね返す。


「ここで、リュミエール座で、エリーたち四人が踊ってるの見てね……プリエールってこんなに綺麗なんだって思ったの」


 ステラの脳裏には、この稽古場で見せてもらった『妖精の祝祭』の一幕が鮮やかに焼きついていた。


『ステラ、プリエールっていうのは、本当は一人で踊るものじゃないんだよ』


 踊り終えた手足をほぐしながら、ステラは首を傾げて聞いていた。


『そうなの?』

『ああ。プリエールっていうのはね』


 そう話す時の“先生”はいつも、少しだけ寂しそうにステラには見えた。何かを、懐かしがるように。


『誰かと一緒に踊る時に、一番強く光輝くものなんだ』


 村で稽古をつけてくれていた“先生”は、ステラに向けてそう告げた。ステラはその言葉に不思議そうに首を傾げた。


『先生は一人で踊ってるのに』

『あたしは特別』


 ウインクして、“先生”は近くにあった岩へ腰を下ろす。ステラの稽古場はいつも開けた大地で、空の下だった。“先生”は懐かしむように遠くを見つめる。


『美しいよ。人と人とが、心を通わせて舞うプリエールは』


 あの時、“先生”が思い描いていたものを、ステラは空想することしかできなかった。だが今は違う。

 回想から戻ってきたステラは、幸せそうに微笑んだ。


「この、みんなで踊るプリエールを、神様に捧げていたんだね」


 ステラの感想を聞いて、エリーは困惑する。


「当たり前でしょ。何言ってるの、一人で踊るプリエールの舞台なんてありえないわ」

「やっぱりそうなんだね。先生が『特別』って、言ってたから」

「そりゃそうよ、だって……」


 エリーは言いかけて、口を噤んだ。


「待って、あなたまさか……」


 エリーはまじまじと、目の前にいる小柄な少女を見つめた。


「プリエールの舞台を、見たことがないの……?」


 舞台、とステラは呟いて、それから天空色の瞳を大きく見開いたまま頷いた。


「うん。ないよ」


 エリーはぽかんと口を開けたまま、ステラを見返した。




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