第五幕(5)
踊り終わった後、エリーはさっき——そしてこれまで踊ってきた『妖精たちの祝祭』と、全く違うものを踊った感慨を覚えた。
「ああ、楽しいわ」
そばで漏らされたディアナの声に、エリーは慌ててつられて笑わないように、口元を引き締めた。
「そうね、まあ、形にはなってたんじゃない?」
ミーシャもまた、「サイッコーじゃーん」と言いながら、くつろげた襟を揺らし風を送る。全員の内心に思いがけない爽快感が満ちていたが、ミーシャは今の振付を頭で振り返って苦笑を浮かべた。
「はは、ルノんちのおじさんが見たら、ブチ切れそうだけど」
「…………」
ルノは答えなかったが、その苦い表情が返事の代わりを果たしている。ステラは不思議そうに首を傾げた。
「どうして? 怒るってこと?」
「スッティーも審査員席にいたの見たでしょ? ヴェルネ大臣。あれ、ルノのお父様なんだよね」
ステラは、自分に声をかけた、真ん中の席の三人を思い出そうとする。一人は女性で、もう一人は父親と呼ぶには若い男性な気がする。残るのは、鷹のように鋭い顔つきの、黒髪の人物だ。
「黒い髪の人?」
「そうそう」
頷いたミーシャの言葉を、ディアナが引き継ぐ。
「ヴェルネ大臣は、祈祷省といってプリエールの祭事を司っている部署の一番偉い方なの。プリエールの演目やその振付は、厳格に決まっていて、アレンジを加えるのは伝統への敬意が足りないというお考えなの」
ディアナの説明を聞いて、ステラはきょとんとした顔をする。その後に、どういう言葉が出るか想像のつくルノは、低い声で言い添えた。
「父は……プリエールを守ることが全てだから」
『厳格』で『保守的』。父を表する言葉は常に同じだ。貴族の多くはそれを賞賛として使い、踊り手は畏怖として用いる。
そしてステラのような、型破りな踊り手からすれば、倦厭される存在だろう。柔軟性に欠け、新しい価値観を取り入れない。
「そうなんだ」
ステラは不思議そうな顔でそう言った後、ぱっと笑った。
「ルノのお父さんは、プリエールのこと、すごく大事にしてるんだね」
思ってもみなかった言葉をかけられ、ルノはわずかに目を瞠る。返事をし損ねている間に、ミーシャが張り切った声を上げた。
「でもこれなら、夏至祭も余裕じゃない?」
「ええ、そうね。今までで一番いい舞台になるんじゃないかしら?」
ディアナも晴れやかな顔で同意した。この演目なら五人でも踊れる……と思っていたディアナは、望外の結果に胸を撫で下ろす。
「本当? 良かったぁ」
ステラは、いかにも吞気そうに顔を緩めた。
この時はまだ、ミーシャもディアナも、ルノやエリーでさえ、夏至祭は順調に進むと予感していた。




