第五幕(4)
エリーはステラが加わった『妖精たちの祝祭』の踊りやすさに内心、驚いていた。
音楽に合わせて、物語はよどみなく流れていく。
朝日を受けて、蕾だった花々が開いていく。さっきまで花があるだけだった風景に、清々しい緑が添えられると、それだけで妖精たちが持つ“色”や“香り”が濃密になる。
エリーは、薔薇の妖精らしく、華やかに手を広げ回転した。
さっき正確な人数で踊った時よりも次のステップへ移りやすい。エリーはちらりと、即興の振付で舞うステラを見る。
適当に合わせて踊っているのかと思ったが、その舞は元の振付を妨げず――むしろ際立たせる。それができる理由は一つだ。
(覚えた……?)
エリーは自分の振付をこなしながら、その推測に鳥肌が立った。
さっき一度踊っただけの舞踏を、見ただけで正確に把握した、ということだ。
エリーは、日差しの下、葉を揺らす若木のように生き生きと踊るステラを見る。
(今までこの子……どういう稽古してきたのよ)
同じ動きをしようとすると、ステラの揃わなさは異常だ。初等部の基礎練習でさえ、手足の位置がバラバラになるレベルだ。
だが、一人自由に踊らせた時、ステラの技術の高さは自分たちトップダンサーたちに引けを取らない。
(むしろ……)
そんなことを考えていたエリーは、自分の見せ場のパートが来ることにはっと気づく。
中央へ躍り出ると、大技のグラン・フェッテを舞う。軸足だけで、連続で回転する難易度の高い技巧だ。
全身で回り、豪華な薔薇の大輪を表現する。
「……っ」
エリーは回り終わった後、微かに失敗したような気がした。
さっきと出来栄えは同じ、回転の数も速度も、手足の位置まで、何のミスも見つけられない。だがステラを加えた今の舞踏では、自分の見せ場が物足りないように思えた。それはエリーには、初めての感覚だった。
「そして夏の始まりの風が吹く」
場面はすぐに展開していく。エリーのグラン・フェッテが終わると、ステラがひと際大きく跳躍を決める。南からやってきた夏風に、新緑がそよぐ。
「待ってましたー!」
呼ばれるより前に、手拍子を打ってミーシャが踊り出る。
ステラに代わって、ミーシャは自分の舞踏に合わせて旋律を歌う。
「ラン、タン、タタタン」
軽快な風は、花々と木々の間を吹き抜けていく。
舞台中をジュテ・アン・トゥールナンで跳び回り、不規則にカブリオールを決める。妖精たちを楽しませるように、遊び心たっぷりの振付を披露する。
最後は全員での舞踏だ。本来の四人での踊りに、ステラが加えた“樹木”の舞が重なり合った。
妖精たちだけが飛び回っていた空間に、深い緑が広がっていく。柔らかな萌芽が伸び、夏の始まりの光を透かし、若葉が茂る。霧の滴を、花の香りを、風を受けて、軽やかに葉を揺らすが、それだけではない。
樹木は、何よりもどっしりと根を下ろしている。幹は太く、水を含んで黒く湿り、長い歳月を刻んでいるのがわかった。
妖精たちの住む森は、“樹木”が存在することで、書割から現実となる。
「ジャン、ジャンジャーン……!」
ミーシャの高らかな和音によって、第一幕の最後の舞が終わった。
ステラの最後のポジションは四人の後ろで、ほとんど隠れてしまっている。踊っている間もそうだ。四人の舞踏の前に出ることはほぼなかった。
なのに、そこに一人いるかどうかで、舞踏の完成度が圧倒的に変わった。




