表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/70

第五幕(4)


 エリーはステラが加わった『妖精たちの祝祭』の踊りやすさに内心、驚いていた。


 音楽に合わせて、物語はよどみなく流れていく。


 朝日を受けて、蕾だった花々が開いていく。さっきまで花があるだけだった風景に、清々しい緑が添えられると、それだけで妖精たちが持つ“色”や“香り”が濃密になる。


 エリーは、薔薇の妖精らしく、華やかに手を広げ回転(ピルエット)した。


 さっき正確な人数で踊った時よりも次のステップへ移りやすい。エリーはちらりと、即興の振付で舞うステラを見る。


 適当に合わせて踊っているのかと思ったが、その舞は元の振付を妨げず――むしろ際立たせる。それができる理由は一つだ。


(覚えた……?)


 エリーは自分の振付をこなしながら、その推測に鳥肌が立った。


 さっき一度踊っただけの舞踏を、見ただけで正確に把握した、ということだ。


 エリーは、日差しの下、葉を揺らす若木のように生き生きと踊るステラを見る。


(今までこの子……どういう稽古してきたのよ)


 同じ動きをしようとすると、ステラの揃わなさは異常だ。初等部の基礎練習でさえ、手足の位置がバラバラになるレベルだ。


 だが、一人自由に踊らせた時、ステラの技術の高さは自分たちトップダンサーたちに引けを取らない。


(むしろ……)


 そんなことを考えていたエリーは、自分の見せ場のパートが来ることにはっと気づく。


 中央へ躍り出ると、大技のグラン・フェッテを舞う。軸足だけで、連続で回転する難易度の高い技巧だ。

 全身で回り、豪華な薔薇の大輪を表現する。


「……っ」


 エリーは回り終わった後、微かに失敗したような気がした。


 さっきと出来栄えは同じ、回転の数も速度も、手足の位置まで、何のミスも見つけられない。だがステラを加えた今の舞踏では、自分の見せ場が物足りないように思えた。それはエリーには、初めての感覚だった。


「そして夏の始まりの風が吹く」


 場面はすぐに展開していく。エリーのグラン・フェッテが終わると、ステラがひと際大きく跳躍(ジュテ)を決める。南からやってきた夏風に、新緑がそよぐ。


「待ってましたー!」


 呼ばれるより前に、手拍子を打ってミーシャが踊り出る。

 ステラに代わって、ミーシャは自分の舞踏に合わせて旋律を歌う。


「ラン、タン、タタタン」


 軽快な風は、花々と木々の間を吹き抜けていく。

 舞台中をジュテ・アン・トゥールナンで跳び回り、不規則にカブリオールを決める。妖精たちを楽しませるように、遊び心たっぷりの振付を披露する。


 最後は全員での舞踏だ。本来の四人での踊りに、ステラが加えた“樹木”の舞が重なり合った。


 妖精たちだけが飛び回っていた空間に、深い緑が広がっていく。柔らかな萌芽が伸び、夏の始まりの光を透かし、若葉が茂る。霧の滴を、花の香りを、風を受けて、軽やかに葉を揺らすが、それだけではない。


 樹木は、何よりもどっしりと根を下ろしている。幹は太く、水を含んで黒く湿り、長い歳月を刻んでいるのがわかった。


 妖精たちの住む森は、“樹木”が存在することで、書割から現実(リアル)となる。


「ジャン、ジャンジャーン……!」


 ミーシャの高らかな和音によって、第一幕の最後の舞が終わった。

 ステラの最後のポジションは四人の後ろで、ほとんど隠れてしまっている。踊っている間もそうだ。四人の舞踏の前に出ることはほぼなかった。


 なのに、そこに一人いるかどうかで、舞踏の完成度が圧倒的に変わった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ