第五幕(2)
ミーシャの発言で、四人で『妖精の祝祭』を踊って見せる流れとなる。エリーも、ダンサーが揃っていながら言葉で説明するなど野暮と考えた。
「ま、そうね。踊って見せた方が早いでしょ。ルノもいけるでしょ?」
「ああ」
エリーは立ち上がり、制服の舞踏靴に通された足をストレッチする。本をステラの方へ広げたまま、ディアナも腰を浮かす。
「妖精はそれぞれ、薔薇、藤花、清風、夜霧に分かれていて、象徴する振付になっているわ」
去年稽古でやった配役でいい? と確認し合うと、四人はポジションについた。
ステラは四人が並んだのを、息を詰めて見つめる。
(『妖精たちの祝祭』……四人で踊るプリエールの演目)
夏至祭は、ステラの生まれたポレール村では行われることはなかった。
大人たちが話している内容を、ステラも徐々に理解し始める。
昔は、リュミエール座からやってきた舞踏団が、ここでも夏至祭の舞を踊ってくれていたと。
ステラが知っているのは、“先生”が踊っていた『妖精の灯火』だ。確かに祈りの内容は似ているかもしれない。
(これから訪れる闇を退け……)
最初のポジションに四人がつき、踊り出す前の空気が満ちる。
硬質な音を立てて、ショスールの爪先が鳴った。
(光を宿す)
アン、デュ、のミーシャの拍取りの後、四人が踊り出す。
最初は夜霧の妖精が静かに舞い、夜明けとともに花が咲き始める。露を受け花びらをきらめかせる薔薇。そして美しく咲いた藤の花を、爽やかな風が揺らし始める。
第一幕は、四人の妖精たちが瑞々しい初夏の訪れを祝っていた。
「わぁ、わぁっ、わぁ……っ!!」
ステラは四人の舞いに目を見開く。一人の動きに合わせてもう一人が跳ね、跳ねるのに合わせてもう一人が身を伏せる。それぞれの動作が連なり、一つの美しい場面を生み出していた。
(誰かと踊るって……こんなに)
ステラの両目に、涙が張る。
故郷の村で、ステラに一つ一つ振付を教えながら、“先生”は時折ぽつりと言葉にしていた。
『ステラ、プリエールっていうのは、本当は一人で踊るものじゃないんだよ』
踊り終えた手足をほぐしながら、ステラは首を傾げて聞いていた。
『そうなの?』
『ああ。プリエールっていうのはね』
そう話す時の“先生”はいつも、少しだけ寂しそうにステラには見えた。何かを、懐かしがるように。
『誰かと一緒に踊る時に、一番強く光輝くものなんだ』
ステラは、目の前の四人の舞を見て、その言葉を理解した。
(私も……こんなふうに)
踊りたい。
第一幕の最後、妖精たちが出揃う曲を舞い終えると、四人は姿勢を解き、遠くへやっていた視線をステラへ戻した。
「綺麗、だね……」
座っていたステラは、スカートの裾を持ってきて顔を半分埋める。鼻先からぐずっと濡れた音が鳴った。
「やだちょっと、泣いてるの?」
「スッティー、感動するポイントもずれてんねぇ~」
踊り終えたエリーがぎょっと目を剥き、その横でミーシャが笑う。鼻先を赤くしたまま、ステラは嬉しそうに告げた。
「プリエールって、綺麗だね」
顔を見合わせるエリーとミーシャに対し、ルノだけはじっとステラを見つめていた。
ディアナがぽんと手を合わせて、提案する。
「でも良かったわ。この演目ならストーリーはほぼないし、妖精のポジション一人増やせば五人でも問題なく踊れそうじゃない?」
「……そうかしら」
エリーは不服げだ。プリエールの振付は、その動作——手のポーズや足のステップに対して魔法が発生するように作られている。『妖精たちの祝祭』は、夏至のための祈りを込めて振付が組まれている演目だ。発動させる魔法を変えずに、そんなにうまく一人配役を足せるだろうか。
「私は何を踊ったらいいかな!」
胸の内にわだかまるものはあるが、嬉々としたステラの反応を見るとさすがのエリーも『出るな』とは言えなかった。
「そうね……この季節を象徴する妖精がいいと思うけれど。えっと、例えば」
ディアナは髪を耳にかけて、持ってきた本のページをめくる。初夏の花々にちなんだ、可愛らしい妖精たちの挿絵が並ぶ。これなんか……とディアナが鈴蘭の精を指さしたところで、ステラは閃いたとばかり片手を上げた。
「そうだ! 私、木になるよ!」
四人全員が、ステラの方へ顔を向けた。
「木…………?」




