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第五幕

第五幕




「夏至祭?」


 数日後、ステラたち第一組もようやく本番の配役決めに入った。


 稽古場の床に座って、ステラはディアナが持ってきた大きな布張りの本を覗き込む。広げた本には、森の中で妖精たちが舞う姿が描かれていた。


「そう。私たちが最初に担当する祭事よ。演目は『妖精たちの祝祭』」


 ディアナは本をステラの方へ向ける。


「緑が生い茂り、花が咲く季節を祝い、これから長くなっていく夜闇の災いを退けるためのお祭りよ。この季節はどの地域でもやるから、ステラも知ってると思うけど」


 分厚い本のページを物珍しそうにめくっていたステラは、そう言われて顔を上げた。


「夏至祭は知ってるけど……でも『妖精たちの祝祭』は知らない」

「はぁ!? 夏至祭じゃ定番の演目でしょ」


 エリーはステラの発言に、もう何度目か声を上げる。貴族の常識が通用しないのはもうこの数日で嫌ほど学んだが、さすがに一般的な祭典の演目くらいは知っていると思っていた。

 ステラは丸い目をしたまま、呟く。


「そっか。夏至祭ではプリエールを踊るんだ」

「踊らない夏至祭なんて、夏至祭じゃないでしょ」


 エリーはこめかみを押さえ、顔をしかめる。それに対し、やんわりとディアナが割って入るのもこの数日で見慣れた風景となった。


「きっと呼び方が違う祭りだったのかもしれないわね。地方によって舞踏も、細かな違いがあるようだし」

「その舞踏(プリエール)のこと、知りたい。その……えっと」

「『妖精たちの祝祭』」


 言葉に詰まったステラに助け舟を出したのは、ルノだった。ステラは、好奇心に目をきらめかすと形容するよりむしろ、動物が目をぎらつかせるような力強さ宿して、頷く。


「うん、その舞踏。踊りたい」

「まー初見で踊るにはちょい大変だけど、音楽はいいよね。最初の縦笛(フルート)の後、タラララ~で弦楽器(ヴァイオリン)が入って……で、話どんなんだっけ?」

「ちょっと、初等部の講義内容よ?」


 両手で旋律の拍子を取っていたミーシャだったが、その先の説明が続かずエリーに呆れられる。吹き出すように笑って、ディアナが優美な声で内容を語る。


「第一幕は、森の中に集まった妖精たちが、花が咲き、緑豊かな光の季節をお祝いするの。第二幕は夜になった森に灯火を浮かべて、これから夜が長くなっていく闇の季節の災いを遠ざける、という構成よ」


 ディアナは手元のページをめくり、描かれた絵を指さして楽しそうに言う。


「衣装がとっても可愛いの。ヴェールと羽根がついててね、香炉(トゥリブルム)を持って舞うのよ」

「へー!」


 トゥリブルムって何? と思いながら、ステラは大きく頷く。ディアナが指さす挿絵を見る限り、煙が出る振り子のようなものらしい。(虫除け……?)ステラは思いつく用途を考え、納得する。


「これから夏になるもんね!」

「ん? え、ええそうね?」


 ディアナの中で香炉との関連はわからなかったが、大きく頷いているステラに合わせ、説明を続けた。


「舞踏靴も、この演目らしく妖精の足先のように作られてて」

「それで? 振付はどんなふうなの?」


 ステラは待ちきれず、衣装について語ろうとしているディアナの言葉を遮る。結局ステラの関心はそこに集約される。演目の物語も音楽も衣装も興味深いが一番は、どんな舞踏であるか、だ。


「そうね。まず足の位置は第1ポジション、手はアン・オーから……」


 振付を言葉で説明しようとするディアナを、今度はミーシャが笑った。


「それ、オレらで踊った方が早くない?」

「見たい!!」

「だーよね~」


 間髪入れずリクエストしたステラを、ウインクしてミーシャが指さす。


「じゃ、ご期待に応えて踊りますかー!」



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