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第四幕(3)



「第一組は」


 オーギュストの声が響く。


「ルノ・セレヌス・ヴェルネ。エリアンヌ・ラヴェル」


 ここまでは順当だ。呼ばれた二人も、これまで次点だったミーシャとディアナも、他の生徒たちも、次に呼ばれる名前に耳を傾けた。ただ一人ステラだけは、何のための名前を呼ばれているのかよくわからず、きょろきょろしながら拍手をする。


 オーギュストは手元に目を走らせる。


「ディアン・ラングラン。ミシェル・サティ」


 生徒たちの間から、ほっと息を漏らす音が聞こえた。やはりこの四人の組み合わせを崩すことはないのだと確信した――その後だった。


「そしてステラ・フィユ」


 あ、私だ、とステラは返事をしようとしたが、その声は周囲のざわめきに掻き消された。


「五人!?」

「第一組が、五人呼ばれたぞ!?」


 咳払いを一つし、何事もないかのようにオーギュストは続ける。


「第二組は……」

「えっ!? あの、総裁! お待ちください!」


 何の説明もなく続けていこうとするオーギュストに、思わずエリーは声を発した。


「プリエールの組は必ず四人です。聞き間違いでしょうか? 私たちの組は、五人になっています」

「ええ、そうですね」


 オーギュストは顔を上げ、動揺している生徒たちを見渡した。


「今季、みなさん全員が、リュミエール座高等部の基準をクリアされました。ですので、一人加わったことで、五人の組ができることになりました」


「そんな——」


 馬鹿なこと、と口走りかけて、エリーは相手がリュミエール座総裁であることを思い出しぐっと堪えた。


 オーギュストは全員の名前を呼び終えると、「では、今季も頑張ってください」とさらりと言ってこの場を去っていった。教室に残った生徒たちに、教師たちはそれぞれの組に分かれて稽古を始めるよう伝える。


 訝しむ、というより信じられないものを見る目で、生徒たちはステラたち五人を眺め、それぞれ四人組で、教室を出ていった。





「五人!? 五人なんて聞いたことがない!」


 稽古場に移ったエリーは、開口一番そう叫んだ。さっきオーギュストに言えなかった主張を、エリーは爆発させる。


「プリエールの基本は四人組(キャトル)よ。どの演目だって、その人数で振付が作られているのに、五人もいてどうしろっていうのよ!」

「でも」


 怒れる美少女に口を挟んだのは、ステラだった。


「でも何!?」

 

 噛みつくように振り返ったエリーに向かって、ステラはこぶしを握ると力強く告げた。


「五人の方が、大勢で楽しい」


 エリーは立ちくらみを起こしたように、額を押さえてよろける。その肩をディアナが支えた。


「エ、エリー、しっかり」


 肩をさすられてエリーは、キッとステラへ向き直った。


「あのねぇ、こっちは本気でやってるの。楽しいとか楽しくないとか、そういうことじゃないのよ」


 わかる!? とエリーはステラに詰め寄る。ステラは何度か目を瞬きさせた後、気の抜けた笑顔を浮かべる。


「四人の方がいいなら、私は見てるだけでもいいよ」

「! 別に、私は……っ」


 そんなふうにあっさり引き下がられると思っていなかったエリーは、一瞬そうは言ってないでしょと口走りかけ、何も言葉にできなくなる。ステラが抜ければいつもの四人組だ。自分が訴えようとしていることはつまり、そういうことだ。


 抜けろと。


 ステラは気を悪くした様子もなくエリーたちを見上げて言う。


「みんなが踊るの見てるだけでも、すっごく楽しいから!」


 あ、楽しいって言うのは、本気で楽しいってことで……!と的外れな言い訳を慌てて付け足すステラに、ミーシャが苦笑を浮かべた。


「まあまあ、エリーの言い分もわかるけど総裁が決めたことじゃ、しゃーないでしょ」


 両手のひらを見せて、ミーシャはエリーをなだめる。その後ろから、ルノがぼそりと呟いた。


「それに実際」


 それまで一言も発さなかったルノへ、エリーたちは視線を向けた。


「ステラのプリエールが、この中で最も優れている」


 エリーは目を瞠り、とっさに言った。


「そんな……ッ、ルノの方が」


 言いかけたが、静謐な紺青の双眸に見据えられて、口を閉ざした。ミーシャもディアナも、そうだった。


 ステラ本人だけが、褒めてもらえたのかな? と自分より背の高い四人を見比べる。


 あの舞踊が、まぐれで踊れたわけではないことくらい、ここにいる四人にははっきりとわかっている。


 あれはこの少女の、実力だと。


「……」


 エリーは怒った表情のまま、それでも矛を納めた。その様子を見ていたディアナは、とりなすように声をかけた。


「練習は五人でも問題ないわ。夏至祭の演目も、五人でも踊れるようにアレンジすればいいでしょう?」


 ディアナの穏当な提案で、ひとまずその場は丸く収まった。




 だが、そうして始まった組に分かれての稽古は、初日から何もかも噛み合わなかった。



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