~開幕の舞~
みなさま、本日はお集まりいただき
誠にありがとうございます。
これより上演いたしますのは
王立舞踏学校リュミエール座がお送りする
ある少女の、物語です。
~開幕の舞~
凍てついた北の大地には、咆哮のような吹雪が吹き荒れていた。
果ても見えない、雪と氷に支配された世界。夏でも荒涼としたこの土地は、冬ともなれば命あるもの全てを拒絶する。
ここで人が生きていくためには、“神の加護を乞う舞”が必要だ。
「どう、して……」
薄汚れた外套を雪にはためかせて、一人の少女が呆然と立ち尽くす。
小さなその身が震えているのは、極寒のせいではない。
吹雪の向こうに蠢くモノのせいであり、自分を庇って今まさに目の前に倒れた人がいるからだ。
ヒュ、オ、オォオオオッと、ひと際甲高く吹雪は叫ぶ。四方から叩きつける雪片の中に、赤いものが混ざった。
空中で、切れた片脚が舞っている。
真紅の雪は鮮血だ。
ぱらぱらと少女の銀の髪や頬に赤い点が降り注ぎ、そして片脚を失い地に伏した人のそばに、嘲るように千切れた脚は落ちてきた。
女の、脚だった。
「あ……」
少女の澄んだ空色の瞳から、涙が伝った。
フードが脱げ、銀の波打つ髪が雪風に晒される。
「泣……く、な」
雪の中に倒れた女は、身を起こした。黒い髪が、青ざめてなお笑みを浮かべる美貌にかかる。女は残った自分の脚を引き寄せ、靴を脱ぐ。
「星の子」
そして千切れた脚からも、靴を剥ぎ取った。魔力を込めた、銀の靴。
「踊れ」
降りしきる雪の中、凍ったように立ち尽くす幼い少女へ、女は靴を差し出した。
少女は、涙を拭った手で、託された靴を受け取った。
血と涙の染みた、神々に捧ぐ祈りの舞の、舞踏靴を————。