表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/67

~開幕の舞~






  みなさま、本日はお集まりいただき

  誠にありがとうございます。


  これより上演いたしますのは

  王立舞踏学校リュミエール座がお送りする

  ある少女の、物語です。









~開幕の舞~




 凍てついた北の大地には、咆哮のような吹雪が吹き荒れていた。


 果ても見えない、雪と氷に支配された世界。夏でも荒涼としたこの土地は、冬ともなれば命あるもの全てを拒絶する。

 ここで人が生きていくためには、“神の加護を乞う舞”が必要だ。


「どう、して……」


 薄汚れた外套を雪にはためかせて、一人の少女が呆然と立ち尽くす。

 小さなその身が震えているのは、極寒のせいではない。

 吹雪の向こうに蠢くモノのせいであり、自分を庇って今まさに目の前に倒れた人がいるからだ。


 ヒュ、オ、オォオオオッと、ひと際甲高く吹雪は叫ぶ。四方から叩きつける雪片の中に、赤いものが混ざった。

 空中で、切れた片脚が舞っている。

 真紅の雪は鮮血だ。


 ぱらぱらと少女の銀の髪や頬に赤い点が降り注ぎ、そして片脚を失い地に伏した人のそばに、嘲るように千切れた脚は落ちてきた。

 女の、脚だった。


「あ……」


 少女の澄んだ空色の瞳から、涙が伝った。

 フードが脱げ、銀の波打つ髪が雪風に晒される。


「泣……く、な」


 雪の中に倒れた女は、身を起こした。黒い髪が、青ざめてなお笑みを浮かべる美貌にかかる。女は残った自分の脚を引き寄せ、靴を脱ぐ。


星の子(ステラ)


 そして千切れた脚からも、靴を剥ぎ取った。魔力を込めた、銀の靴。


「踊れ」


 降りしきる雪の中、凍ったように立ち尽くす幼い少女へ、女は靴を差し出した。

 少女は、涙を拭った手で、託された靴を受け取った。



 血と涙の染みた、神々に捧ぐ祈りの舞(プリエール)の、舞踏靴を————。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ