第二幕(6)
ステラは、講堂外の回廊から、再び日当たりのよい庭へ出た。
リュミエール座の庭園は、石畳の歩道を描きながら、中央宮以外の場所へも繋がっている。
(女子寮、どこだろう……)
ステラは果てがないようにすら見える、広い敷地を見て回る。
噴水を中央にした正面の庭は、東西に大きく広がり、石敷きの道で区切られている。剪定された樹木と花壇の合間には、四阿や花棚が点々と作られ、木陰を作っている。
ステラのそばを、蜜蜂が微かな羽音を立てて通り過ぎていった。
「綺麗なところだなぁ……」
そこでステラは、庭を横切っていく生徒たちを見つけた。
「すみません! 女子寮って」
ステラが生徒たちへ駆け寄っていこうとすると、みんな足早に立ち去ってしまう。
「あのー!」
目も合わせず、失礼、と言って消えていく生徒もいれば、あからさまに不愉快そうに一瞥をくれる生徒もいる。ステラは校舎の端まで追ってきて、そこでどこへ行けばいいか途方に暮れた。
「ん~~こういう時は枝を倒して行き先を……」
「高等部の女子寮はあの建物だ」
手ごろな枝を探そうとしていたステラは、背後からかかった声に振り返る。
そこには、すらりとした背丈の、黒髪の少年が立っていた。ローブまで身につけた制服姿は備わっている気品を割り増した。ルノはステラの後ろにある、屋敷のような建物を指さした。
「あ! ありがとうございます!」
ステラはそこで、目の前に立っている少年が、さきほど稽古場の中で踊っていた人物だと気づく。金髪の美しい少女と、まるで対のように舞う黒い髪の少年。
「あ、あ、あーっ! 踊ってた人だー!」
ステラのリアクションに、ルノはびくっと肩を揺らす。
「は……?」
距離をつめたステラは、自分より頭二つ分ほど長身の少年を見上げる。
「さっき、金色の髪の子と踊っていましたよね、素敵でした!」
ルノは面食らったまま「あ、ああ」と返事をする。
「そっちも……さっき外で」
「あっ、女子寮はあそこなんですか?」
ルノが言いかけた声を遮って、ステラは後ろを指さす。校舎の端から、少し離れたところに、周囲に花が植えられた大きな屋敷が見えた。
「女子寮は、あそこの、どこなんでしょうか?」
「どこ? あの建物自体が、女子寮だが……」
会話を続ける機会を失ったまま、ルノは答えた。その返答を聞いて、ステラはもう一度離れた場所に見えている、大きな屋敷へ視線を向ける。
「あれが、全部……?」
「? ああ」
何を聞かれているのか意図を掴みあぐねながらも、ルノは頷いた。
ステラもまたしばらく、訝しむ顔をしていたが、そののちに大きく目を見開いた。
「全部! なるほど! 広いですね!」
ステラはぺこりと大きく頭を下げる。
「教えてくださって、ありがとうございます」
そのままステラは駆け去っていこうとするので、ルノは慌てて呼び止めた。
「なぁ、お前……」
「あっ!」
走り出した勢いのまま、ステラは振り返った。ぶかぶかのスカートが、大きく揺れる。
「私、ステラです! ステラ・フィユと言います!」
名前を聞こうとしたわけではなかったルノだが、ステラから続けて「あなたはなんで言うんですか?」と尋ねられ、名乗らざるをえなくなる。
「ルノだ」
「ルノ! よろしく!」
ステラはぶんぶん手を振ると、石畳の道を無視して中庭を突っ切っていこうとする。それから思い出したように、引き返してくる。
「これ、私の制服なんだって!」
「? そ、そうか」
サイズあってなくないか……? とルノは肩幅も袖丈もずれているステラの制服を見て、首を傾げた。
それ以外の理由でも、ルノは釈然としない感情を持て余していた。
あの、窓から見たプリエール。
今まで見たどんな舞踊よりも、美しく、絶大な魔力が生み出されていた。
それを踊る少女を見た印象は、まるでこの世のものではないかのようだったが……。
「ステラ・フィユ……」
ルノは、今目の前にした少女と、自分が見たプリエールダンサーが結びつかず、しばらくその後ろ姿を見つめ続けていた。




