08. 適性
初授業の翌日、月乃矢さんは何故か嬉しそうな顔をしていた。
朝の時間にその姿を見た時なんでだろうと思ったが、なぜかはすぐに分かった。なんと力が発現したらしい。それは嬉しいだろうなと思った。なにせ今までわからなかった力が分かったのだから。
そして今日の五限目は魔法と魔術の違いについてだった。
「魔法と魔術は"現象を発生させる"ということでは変わらない。だがその限界、現象を発生させるまでの工程が違う。今回はそれを説明していこうと思う」
「まずは魔法。これは魔力を使って、イメージを具現化することで現象を起こす。魔法ではイメージの鮮明さがとても重要になってくる。イメージが鮮明になれば鮮明になるほどイメージ通りの現象を起こせるようになる。逆に不明瞭になると威力が減衰したり不発になったりする。これを聞くとイメージが鮮明にできる人は期待するかと思う。だが魔法は、適性のある者にしか使えない。適性がない者はあきらめることを私はオススメする」
「だが魔術は適性がなくともチャンスはある。魔術は、魔力と魔術式を使って現象を起こす。魔術式の完成度や込める魔力量によって威力は変わるが……"純魔力"という特別な魔力を持っていない限り、ほとんど変わることはない。つまり術者が違っても魔術式が同じなら、ほぼ同じ威力の現象を起こせる。適性がない者は多岐にわたる魔術すべてを扱うことはできない。たとえ魔術式をすべて知っていようとも。まあ術者の数だけ魔法式はあるからすべてを覚えることはできないだろう。魔術式は新しく作られもするからな」
「話を戻そう。君たちは適性のあるなしにかかわらず、一つだけならば魔術式を作り、使うことができる。適性がないものが魔術を二つ以上使おうとした瞬間、未来永劫魔術が使えなくなるから注意だ。ここで魔術を作ってもいいが、もっといろんなことを知った後に作ることをオススメする」
先生はポケットから懐中時計を取り出し時間を確認した。
「これで授業は終わりだ。次の授業の準備を始めなさい」
次の六時間目はさっき先生が言っていた通り、様々な武器や魔法などへの適性を調べるということだった。
訓練場に行くと、何かが入っているとても大きい箱が人数分用意されていた。
「何が入ってるんだ?」とみんなが口々に言った。
授業が始まると、それが何かはすぐに分かった。
「今から一人ひとりに剣や盾や杖などの武器が入ったこの箱を渡す。この中に入っているのは比較的扱いやすいものだ。もしも適性があるときはそのまま使うもよし、武器を買うもよし、作るもよし、オーダーメイドしてもいい。それかたまに侵略者たちが落とす武器を使ってもいい。まあいい。それじゃあ適性があるものをチェックしていくぞ」
そう先生は言った。
適性を確かめる方法は、武器を一つずつ使っていきチェックすることだそうだ。
僕の番になり、すべての武器を使うと先生が言った。
「空成は刀と弓に適性があるな。逆に盾とか斧とかには全く適性がないな」
刀か。盾とかは使えないが、これで遠近の両方を使えることが分かったわけだ。
「そういえば弓より刀の方が適性があったぞ。それに魔法は適性が全くなかったが、魔術に少し変質したような適性があった。普通は何種類も使えるはずなんだが、一種類だけ使う場合の威力が上がって、何種類も使うようになると威力が大幅に落ちる、という適性だった。一種類だけなら威力の上限なしで打てると思う。今日の五時間目で習ったはずの、誰でも一つなら魔術を作れて使えるあれを使えばいいんじゃないかと思うんだが、どうだ?」
「わかりました。時間があるときに一種類考えてみます」
そう言って先生と別れた時、ちょうど月乃矢さんと会った。
「こんにちは、月乃矢さん。適性どうでした?」
「実はね……弓には全く適性がなくて……」
なんと彼女の適性があったのは二刀流と魔法だった。驚いたことに、今まで使っていた弓は適性が一番なかったらしい。彼女曰く、月乃矢さんの家は代々弓を使っていて、その影響で弓を使っていただけだという。
「ねえ。今日の夜、訓練場の予約を取ったんだけど……一緒に練習、しない?」
訓練場の予約。この学校には予約機能があり、一部施設以外を予約して貸し切りにできる。予約人数が多いと抽選で選ばれるようになっている。中でも訓練場は倍率が一番高く予約がほとんどとれないらしい。噂では倍率五百倍を超えていると噂されている。それに当選するとは恐るべし豪運……
幸いなことにすぐに驚愕の硬直から開放された。
「うん。よろしく」
「それじゃあ練習場の前に夜八時に集合ね。それじゃあ」
そう言って月乃矢さんは歩いて行った。
夜、練習場の前に行くと、月乃矢さんはもうすでに中にいた。
「遅くなってごめん。月乃矢さん」
「大丈夫。私が早く来すぎただけだから。じゃあ行きましょう」
そして練習場についたとき、突然、月乃矢さんが振り返った。
「ねえ……」
「……?なんですか?」
「私と……付き合ってくれませんか?」