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07. 初授業

 シザンサス結成の翌日、さっそく授業が始まった。


 生徒一人ひとりに専用のデバイスが配られた。そのデバイスには様々な機能が付いていて、例えば先生たちからの連絡などが来たり、パーティー(六人組の呼称)メンバーと連絡を取り合ったりできる。今回はデバイスに時間割が配布された。


 毎日五限目は力の講座・座学、六限目は力の講座・実技なっていて、一限ごとに二時間ある。一限目から四限目は一時間(六十分)だ。それだけ力の育成が重要視されているのか。


 今日の時間割は、社会、国語、理科、数学だった。


 今まで受けてきた授業と比べて、授業の内容がぎゅっとまとまっているのに加えて、進む速度が二・三倍になっていて少し戸惑ったが、念のため予習してきたのが功を奏して、授業についていくことができた。


 そうして順調(?)に授業が進んでいき、僕が、ここの生徒全員が重視している力の講座が始まった。


 今日の座学では力を使用する上での呪文の必要性についてを、実技ではどのくらい力を扱えているかのテストとチームでの練習をするということだった。


 初老の男性が前に出てきて話し始めた。


「これから君たちに教えるのは力を使う上での呪文の必要性についてだ。今君たちはイメージによって力を使っていると思う。呪文を使った時のメリットは効果や威力、その他いろいろな能力の底上げ。それと技の暴発を防ぐこと。デメリットは口に出さないと効果を発揮しないことだが、そんな時はイメージで発動すればいいだけだ」


「先生。呪文の長さはどのくらいなんですか?」

「暴発時はどのくらい防げるんですか?」とほかのパーティーメンバーの人が質問した。


「長さはどのくらいの効果を及ぼすのか、どのくらいの規模の威力なのかによって変動する。大きければ大きいほど呪文は長くなり、逆に小さければ小さいほど呪文は短くなる。また、暴発は完全には防げない。だが九割九分の確率で防げるようになる。ちなみに呪文を使わないときの暴発率は五割だ」

 ……僕には暴発は関係ないな。


「呪文はどうやって知るのですか?」またさっきと同じ人が質問した。


「呪文は知るのではなく作るものです」


「それじゃあ呪文が短くできちゃうんじゃないですか」


「いいえ。もし短くなった場合不発になります。長すぎても効果が変わらず一部が無駄になります。つまりは、ちょうどいい長さを見つけなければいけないということです」


「自分で探すんですよね。何か目安はないんですか?」


「目安は三段階くらいになら分けることができます。第一段階は人に軽いけがを負わせるくらい。一小節から五小節くらいまで。第二段階は重傷を負わせる、または殺すくらい。六小節から三十小節まで。第三段階は世界に影響を及ぼすくらい。まあこれはないでしょうけど知識として知っておいてください。三十一小節から多いときは一万を超えます」


「ありがとうございます」


「どういたしまして。ではさっそく呪文を作ってみましょう」


 それぞれが呪文制作に取り掛かった。

 みんながだんだんと完成に近づく中で、僕は全然作れていなかった。


 なぜなら僕の技は、矢を何回も放つもので、いちいち呪文を詠唱なんてできないからだ。


 そこで先生にアドバイスを求めた。

「そういえば昨日使っていたあの技の詠唱を考えればいいんじゃないか」

 すっかり忘れていた。


 多分第二段階だから六小節から三十小節だな。さてどんな呪文にしようか。

 とりあえず適当に作ってみて、試し打ちをしてみる。

 当然初回は失敗。だがどんなに変えて試しても技の能力は落ちるだけだった。

 先生に見てもらうと呪文は最適解に近いそうだ。


 もしかして僕には呪文は合わないのか?

 そう思い、適当に技を作ってみてイメージと呪文で比較してみるとやはりイメージの方が能力が高かった。

 ということで呪文を作る代わりにイメージ能力の向上を行うことにした。


 じっくりとイメージしてみると、今まで気が付かなかったあやふやになっていた部分が分かってきた。そこを修正してもう一度イメージをしてみる。そしてあやふやな部分を見つける。その繰り返し。

 それをしているうちに授業が終わった。


 次の授業は実技で、訓練場に移動した。

 筋肉ムキムキで大柄な男性が前に立って話し始めた。

「最初の授業は今お前たちがどのくらい力を扱えているかのテストをする。その後はチームでの練習かな。まあ、変えるかもしれないが。さあテストを始めるぞ」


 テストの方式は、それぞれの最も得意な技を出し、その次に今できる技の中で最高難易度の技を出すだけだそうだ。

 とりあえず一番基本的な滅びの力を纏わせた矢を放つ。この技は「滅矢(デス)」と呼ぶことにした。


 その次に入学式の時に使ったあの技を放つ。こちらは「多重(マルチ・)滅矢(デス)」と呼ぶことにした。


 前よりも精度が向上していて、先生も「上出来だ」と言っていたが、まだ向上の余地があると思っているし、向上させなければいけないとも思っている。


 皆が上手くはいかなくとも一応は扱えている。だが月乃矢さんは全然扱えていない。自分の力が分からないと言っていたが、そのせいだろうか。


 授業がテストだけで終わってしまい、みんなが愚痴を言いながら教室に帰っていく。

 その流れを横目で見ながら僕はある場所へと向かった。


 そこは体育館の地下。ほとんどの人は知らない、ただ広いだけの場所だ。その隅っこで彼女は泣いていた。

 近づいて彼女の隣に腰を下ろす。彼女は一瞬ビクッとしてこっちを向いた。

「なんで、ここがわかったの?」

「君が落ち込んでいたから気にしていたんだ。それで体育館に入るのが見えた。なんとなくこういうところには地下がありそうだなって思って、探してみたらあった」

「そう。……ありがとう。心配してくれて」


 静寂が世界を染めていく。


「私の力が分からないって言ったでしょ。だから一緒に探してくれない?」

「うん。いいよ」

 そう言うと、彼女は頬を赤く染めて、

「ありがとう」と言った。


 その瞬間、僕は思った。美しい、と。

 そしてこの胸に宿ったこの感情は……


 この時、僕は気づかなかった。気づくはずもない。彼女に変化が起きていたことを。彼女が微笑んでいたことを。

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