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04. 新しい住居探し

 目が覚めると白い天井が見えた。

 起き上がって周りを見回すと、ベッドの脇の椅子で寝ている月乃矢さんの姿があった。

 じーっと彼女を見つめて、サッと目をそらした。じっと見つめるのはなんだかやましいことをしているような気がしたからだ。


「ここは……」

「ここは病院よ」

 すぐ隣から声がして、驚きながらも思わず彼女のほうを見る。僕の視線は自然と彼女の目に吸い込まれていく。

 彼女の目はまるで希望を示すかのように、金色に輝いている。幻想的なほどに美しかった。

「何?」

「め、目がきれいだなって」

 彼女はぱっと顔を赤らめたが、僕の目を見つめて言った。

「貴方の目もきれいよ。まるで星空みたい」

 恥ずかしかったけれど、それ以上に嬉しくて。少しの時間だけ二人の顔に笑みが浮かんだ。


 ハッとして頬を赤らめる。そんな姿は可愛かった。たぶん僕の顔もまるでゆでだこみたいに赤くなっていると思う。


 彼女は本来の目的を思い出したようで、真剣な表情をして僕に言った。


「貴方は対侵略者育成機関への入学が可能になった。入学する気はある?」

「……?」


 僕の疑問を察したのか、彼女は話し始めた。

「対侵略者力育成機関は力が引き出された人たち、主に高校生を集めて、その力を育成するところ。ふつうの高校の六時間授業のうちの二時間が力の育成の授業だから、ほぼ普通の高校と変わらない。今あなたが通っている高校は宮城にあるけれど、この高校は東京にある」

「試験はどうなってるの? 僕も受けなきゃいけないよね」

「それについては問題ない。もう入学資格は獲得している」

「獲得しているって……条件は何?」

「単独、または誰かと協力して怪物を倒すこと」

「……」

「……」


 ……確かにもう獲得していた。

 っていうか、ついさっき倒したばっかりだ……


「じゃあ、入学してみようかな」

「わかった。それで、家どうするの」

「どうするのって……あっ」

 そうだ、僕の実家は宮城にある。毎日通うには遠すぎる距離だ。

「……どうしようか」僕は頭を抱えた。

「うーん……あ、それなら高木さんに住居を探してもらえば? あの人なら住居ぐらいすぐに探せるはず。それじゃあ高木さんに伝えてくるから。楽しみに待っててね」そう言って病室を走り去っていった。

 おとなしい感じだと思ってたけど、意外と活発なのかな?


 僕はその日のうちに退院した。ここは東京だったので近くのホテルに泊まることになった。

 実家にいる両親と電話し、たくさん話をした。


 翌日高木さんと月乃矢さんが来て、住居について話をした。なぜか月乃矢さんはバツが悪そうにしていたが何なのだろう。


「住居は見つからなかった」


 あら? 高木さんなら余裕でしょとか言ってなかった?

 じとーっと月乃矢さんを見ると彼女は分かりやすく目をそらした。


「けれど、そのことについて提案がある。本人の許可はとっているから安心して聞いてくれ」

 許可なんて必要なのか? ん? 本人……?


「月乃矢の家に住まないか」

「……はい?」

 聞き間違いだろうか。まさか月乃矢さんの家に住むなんて。


「聞こえなかったか? 月乃矢の家に住まないかと言っているんだが」

 ……聞き間違いではなかった。

「月乃矢は家事が下手なんだ。手伝いのついでだと思ってくれ」

「僕は別にいいですけど月乃矢さんは……」

「私は優樹君に住んでほしい」

「……」

「だそうだ。それじゃあ荷物をまとめて持ってきてくれ。今日は八月二十日の金曜日だから……二十二日の正午に東京駅に集合にしよう。それじゃあ」

 そう言って高木さんは部屋を出て行った。

「それじゃあ優樹君。またね」

 そう言って月乃矢さんも部屋を出て行った。

 …………急展開すぎやしないか?


 そして二十二日。荷物を持って東京駅に行くと月乃矢さんが待っていた。


「あれ高木さんは?」

「いない。私が案内するから。ついてきて」


 すこし歩き、着いたのは普通の二階建ての一軒家。一階はリビングとキッチンのみがあり、二階は部屋がいくつかあるらしい。


 中に入ると目の前に広がっていたのは、綺麗になっているリビングとキッチン……ではなかった。

 床にはホコリが広がっていたり、服が床に散らばっていたり、お皿が洗わずにそのままにしてあったり、ところどころ蜘蛛の巣が張られていたり……まあ、とても大変なことになっていた。


 家事が下手だから助けてやれってこういうことだったのか……


「お昼食べてないでしょ。何か作る」

「それじゃあお願い」


 そして彼女は冷蔵庫の扉を開け……閉めた。

 そして何も言わずに外に出て行った。お財布とバッグを持って。


「……」


 冷蔵庫を開けてみると見事に空っぽだった。部屋の惨状と見事に対照的だった。

 多分彼女は食材を買いに行ったのだろう。なら僕は何をすれば良いか。それは明確だ。掃除だ。

 …………こんな家でよく生活できたな。


 隅っこのほうに荷物を置いておき、掃除に必要なものを準備する。

 そして散らばっている服をすべて洗濯機に放り込んで、蜘蛛の巣を取り、掃除機をかけ、洗濯が終わった服を乾燥機にかけ、服をたたんで、二階の部屋を掃除した。もちろん彼女の部屋は掃除していない。というか入れない。


 ちょうど掃除が終わった時、月乃矢さんが帰ってきた。


 こんなに長い時間どこに行っていたのかと思って彼女のほうを見ると、両手には何かがパンパンに入った袋を六つ持っている。どうやら大量の食品を買い込んできたようだ。

 リビングに入った時、彼女は目を見開いていた。そりゃ当然だろう。買い物してきたらごちゃごちゃだった部屋が、きれいになっているのだから。


 硬直から開放された彼女はバッと振り返った。

「ありがとう」

「どういたしまして」


 食材を冷蔵庫にしまい、彼女はキッチンに向かった。

「待っててすぐ料理作るから」


 それから数分後、なぜか焦げ臭いにおいがしてきた。チラッとキッチンを覗くと、何を作ろうとしたのかもわからない真っ黒に焦げた物体が見えた。


 ススス……と静かに席に戻った。だがそれから数十分、一時間が経っても一向に料理が出てくる気配はなく、むしろ焦げ臭さが増してきている。


 様子を見に行くと、ごみ袋に大量の真っ黒に焦げた何かがパンパンに詰まっていた。……大規模なイベントで使われる百二十リットルのごみ袋に。しかも五袋。


「……代わろうか?」

「ひゃっ」


 彼女は顔をリンゴのように真っ赤にしながら、壊れたロボットのような動きで、顔を僕の方に向けた。


「料理、あんまり得意じゃないんでしょ?」「……はい。お願いします……」


 そう言うなりキッチンを出ていき、二階に上がっていった。よほど恥ずかしかったのだろう。ただこのままだと一向にご飯を食べられないからな……


「さて、何を作るかな」

 今日はまだ三時をすぎたくらいだから、夜にご飯を食べられるように軽食にするか。


 十数分後、食卓に並んだ昼食はハムチーズサンドイッチだ。

 テーブルをはさんで座っている彼女の顔はさっきよりは赤くはないが、まだ赤くなっている。


「……ねえ」

「何?」

「これからご飯とか洗濯とか掃除とか、任せてもいい?」

「いいよ」

 もちろん即答。親切心もあったけれど、彼女に任せたらどうなるかわからないから、というのが一番の理由だ。


「それじゃあこれからよろしく優樹君」

「こちらこそよろしく月乃矢さん」

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