03. 初戦
彼を追って外に出ると、月乃矢さんが怪物と交戦していた。
戦闘に加わるため駆けだした僕に高木さんは言った。「力の使い方はイメージだ。あいつを倒してくれ優樹君!」
「はいっ!」
イメージ、か。とりあえず剣をイメージしてみる。
だが作られたのはただ棒と板を組み合わせたような鉄の塊だった。
細かい部分までイメージしないとしっかりとしたものは作れないのかもしれない。
ならよく知っているものならば上手く作れるはずだ。そう考え、弓をイメージした。僕は弓道部に入っていたから弓の事ならよく知っている。そこにさらに僕用にアレンジを加えていく。
そしてできたのは大きさは同じだが、弦の部分が超強化されていて、遠距離から射撃することができる。
近くにあるビルを上って屋上に立ち、弓を構えた。この弓には矢の自動装填機能も付けておいたので、矢を用意する手間がなければ矢が切れることもない。
遠くに見えている月乃矢さんが戦っている怪物は、さっきはわからなかったが、ミノタウロスのような見た目をしていた。人型で牛の頭をしている。そして片手にはハンマーを持っている。
あのハンマーで殴られたら即死間違いなしだが遠くまでは攻撃できない。つまり僕に当たることはない。
僕は怪物に向けて矢を放った。
僕は何故か近距離では全く当たらないのに、遠距離からならピンポイントで射ることができる。その特性が今、いかんなく発揮され月乃矢さんに当たることはない。
矢はまっすぐに飛んでいき、月乃矢さんに当たることなく、怪物の体に当たった。
だが怪物の体に刺さるどころか傷一つ付けられずに弾かれてしまった。
(何か方法はないか。あの怪物にダメージを与える方法は……)
その時僕の頭にある方法が思い浮かんだ。創造ではないもう一つの力を使った方法だ。
体に負担がかからない程度の滅びの力を矢に纏わせて、怪物に向けて矢を放った。
今回の矢は怪物の体に深く突き刺さった。よほど効いたのか怪物は叫び声を上げた。そして憤怒の形相で僕を睨みつけた。
チラッと月乃矢さんのほうを見た時、彼女は僕にアイコンタクトを送ってきた。
普通は伝わるはずもないアイコンタクト。けれど僕たちの間では伝わった。
『このまま遠距離からの援護おねがい』
『わかった』
次の矢を構え、放つ。間髪入れず何度も。
怪物にとってこの矢は痛いが、ダメージはあまり入らないのだろう。
けれどその中に紛れ込んだ、月乃矢さんの矢。こっちはダメージが大きく入るようだ。
これを繰り返すこと数十分。順調にダメージを与え続け、そういえば校舎を壊した怪物より体力が多いなと思い始めた時、事態は急変した。
力を使いすぎたのか、月乃矢さんがガクッと膝を折り倒れたのだ。
意識はあるようだが、うまく体が動かないのか立ち上がろうとしてすぐに膝をついている。
当然それを見逃してくれる怪物ではない。
怪物がハンマーを振り上げ、勢いよく振り下ろした。
ハンマーがゆっくりと月乃矢さんに迫っていく。
その時全身に何かが駆け巡った。源泉から溢れる温泉のように、僕の心から感情が溢れ出していく。
その激情に身を任せ、僕は叫んだ。
「滅びろォォォォォォォォッ!」
僕の声に全力の滅びが乗り、怪物の存在に干渉した。
怪物はハンマー振り下ろしている途中の姿勢のまま固まった。その体にノイズが走り、消滅した。
それだけではなく、余った滅びの力が大地を滅ぼしていく。大地に深い傷跡を残し、滅びの力は消え去った。
月乃矢さんも高木さんも呆然として、そのままの姿勢で固まっていた。
勝ちましたね、そう言おうとした時だった。急に目の前が暗くなり、意識が遠のいていく。
ぼんやりとした頭で考えた。なぜあんなにも僕は必死に彼女を助けようとしたのだろうか。
死を目の前で見たくなかったからだろうか。いや、それもあるだろうけれど僕は彼女に……
そこで僕の意識は途切れた。