23. 始まる死闘
長いようで短かった休みが終わり、学校が再開した。それから一週間が経った頃には日常が戻ってきていた。
「休みが終わっちまったなあ……」
「宇立は休みは何してたの?」
「……まあ、いろいろ」
「その言い方気になるなあ……」
「遠瑠。言っとくけど俺は言わねえぞ」
「私と一緒に出かけてたんだよ〜。ねえ? 宇立?」
「ちょっ、光里っ! あれだけ言わないでくれって言ったのにっ!」
「二人の仲が深まった気が……」
「それは思った」
「言われてみれば……」
「二人からの愛を感じる……」
「ほら、ここで言っちゃいましょう」
「でも……」
「え〜私たちは……」
「分かったっ。分かったからっ。一緒に言ってくれっ!」
「いくよ? せーのっ」
「私と」
「俺は」
「「付き合い始めましたっ!」」
「おめでとう!」
「これでカップル二組目だね!」
「いや、違うよ」
「さ、三組、だよ?」
「えっ?」
「ということは……」
「まさか……」
「あなたたち……」
「そうだよ。付き合い始めたんだ」
「昨日から、ですけど……」
「つまり、これで全員が恋人になったってことだ!」
「この平和な日々が続くといいけど……」
「……フラグ立ったな」
「あ」
その瞬間、ズドンッと音を立てて何ががまた飛来した。
「ほらやっぱり」
「…………」
「行こう! 被害が広がる前に片付けて……」そう言った時、窓ガラスが吹き飛び、天井や壁、床に亀裂が入っていく。
「もう広がっちゃったみたいだね」
ガラガラと音を立てて校舎が崩れていく。
「外に出よう! 崩壊に巻き込まれる前に」
そう言って外に飛び出た。土煙が舞っていて視界が悪い。霧に巻かれてるみたいだ。
その時、恐ろしいほどの殺気が身に突き刺さった。反射的に刀を抜き刀を構えた。
「ぐぅっ!!」攻撃を受け止めた瞬間、凄まじい衝撃が伝わる。手から離れ弾き飛ばされた刀が空を舞った。そして崩壊した校舎の瓦礫の上に突き刺さった。刀を失い丸腰になった僕に拳が凄まじい勢いで迫った。
(まずいっ! あれを食らったら一発でアウトだが避けられないっ!)
滅びの力を手に纏わせて迎え撃ったとしても、僕の拳が逆に砕ける。壁を作ったとしてすぐに貫通されるのがオチだ。
「優樹っ!」そこで勢いよく飛び出してきたのは大盾を持った宇立だ。まともに受ければ盾が破壊されかねない威力を秘めた拳を上手く受け流した。
だが時間稼ぎにしかならない。これでは宇立が被弾するのも時間の問題だ。しかも視界が悪いのだ。これでは攻撃を食らうリスクも上がる。
「視界を良くする! 吹き飛ばすぞ!」
遠瑠がどこかで叫んだ。僕は遠瑠のしようとしていることが分かった。
「頼んだ!」そう叫び返して魔術の発動を待つ。
「「【双旋風】!!」」
空気が土埃ごと流れて渦を巻いていき、視界が晴れていく。そして次第に敵の姿が露わになっていく。
「なんてデカさだ……」宇立がそう呟く。当たり前だ。立っていたのは体長が二、いや三メートルを超すほどの大きさだっただったのだ。
体をただ見るだけでもどれほど肉体を鍛え上げてきたのかが分かる。
そして一番注目すべきは腕だ。体のどの部分よりも鍛え上げられている。あれをモロに食らってしまえば待ち受けているのは死だ。
「俺は【剛腕】のアクオイ」
「こいつも喋るのか……」
「俺の目的は一つ。ここの人間の殺戮だ」
「なっ…………」
「三分間待ってやる。それまでにせいぜい準備して望むがいい」
「……」よくわからないが、今すぐ殺戮を始める、ということはない、のか?
「どういうつもりだ? 僕たちにわざわざ時間を与えるなんて」
「簡単なことだ。俺は全力の相手と戦い、勝つのだ。本気で戦わない相手を叩き潰しても意味がない」
「そうか」そして僕は仲間のもとに歩いた。
「さて作戦なんだが……」集まった人たちを見ながら言った。
「僕達が相手になる。その間、他は負傷した人の手当をしてくれ。あとできるだけここから離れてくれ」
「シザンサスの皆さんは?」
「もし負傷したら治療してもらいたいが、近づけないだろうな」
その時、アクオイの声がした。
「時間だ。話し合いをやめて出てこい」
「それじゃあ行こう」そう言って立ち上がる。全員がそれぞれの役割を果たすために動き出した。
「待たせたな。僕たちが相手だ」
「そうか。ならば始めよう」
「ちょっと待ってくれ。他の人を傷つけないようにしてほしい」流れ弾が飛んでいったら重症は免れないだろうし。
「ならば場所を変えよう」そう言うとアクオイは手を叩いた。すると視界がぐにゃりと歪み、歪みが戻ると荒野にいた。
「これでいいだろう。さあ始めよう」そう言うとアクオイは拳を構えた。聞きたいことはたくさんあるが始めるしかなさそうだ。
「俺は【剛腕】のアクオイ! いざ――」
「僕は空成優樹! いざ――」武士かよ、なんて思いながら僕も叫び返す。
「「勝負!」」
こうして今、死闘が幕を開けた。