16. あの人からのメッセージ
話し終えた桜の目から、涙がこぼれ落ちた。
居ても立っても居られず、桜を抱き寄せた。
(僕が桜を守る。もう桜を悲しませない)
桜は僕を見つめて呟いた。
「ありがとう優樹。大好きだよ」
「僕もだよ」
その時だった。淡く輝く封筒がひらりひらりと舞った。
その手紙には宛名や送り主の名前は書かれていなかった。
「なんだか懐かしいような気がする」
「開けてみる?」
「うん」
封筒を開けて中を見ると、一枚の手紙と地図が入っていた。
「手紙読んでみるね」
「うん。お願い」
『【越界の扉】の場所をここに残す 藤宮玲夜』
「これってもしかして……」
「玲夜さんの手紙……!」
「この【越界の扉】って知ってる?」
「ううん、聞いたことない」
「とりあえずもう一枚の方を見てみようか」
もう一枚の紙は地形とバツ印しか描かれていない地図だった。地名や建物の名前は一つも書かれていなかった。
これだけではどこなのかわからない。
すると、じっと地図を凝視していた桜がふと呟いた。
「この場所……私、知ってるかも」
「えっ、本当に!?」
「ここには学校があって、ここには……」と桜は情報を書き足していく。
「ここって……」
「私が通っていた学校の裏の山辺り。この山はいつも霧がかかっていてみんな怖がって入っていなかった」
「ここに【越界の扉】っていうのがあるのか……」
「うん。けれど大丈夫かな……」
「大丈夫だよ。僕と桜なら」
「……うん! 二人なら何が出ても大丈夫だよ!」
「それじゃあ、行ってみようか」
桜が通っていた学校はもうなくなっていた。被害が大きかったのだろう。学校跡の裏に回ると山があった。それほど高くはない、だが桜が言っていた通り、濃い霧に包まれていた。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
霧のせいで周りがよく見えない。桜は木の根っこに引っかかって転んで泥だらけになっていた。僕は木の根っこに引っかかって木に頭をぶつけた。
ただお互いに笑い合ったおかげか、怖さも消えていた。
木の根っこに気をつけながら進んでいく。ある時一歩先にあるものに気づいたとき、手を出して桜を止めた。地面に注意を向けていたことが幸いした。
僕の一歩先にあったのは、クレーターのような大きな穴だった。
「こんなに大きな穴、どうやってできたんだろう」
「それになんだか霧が濃い……」
穴の底をじっと凝視していると、光が見えた。蛍光灯のような光ではない。もっと優しくて暖かい光だ。
「桜! 穴の奥見てみて!」
「何かあったの? ――っ!」
「あの光って……」
「玲夜さんの……」
やっぱりそうだったか。
「優樹っ!」
「うん! 行ってみよう!」
穴の中心、最深部には文字通り『扉』があった。その扉は光の鎖で封じられている。
「これが【越界の扉】……」
「優樹、手紙が……」
桜の持っている手紙を見ると、文字が光の粒子に変わり、手紙の周りを漂っていた。やがて光の粒子は文字を描き始めた。
そして全ての光の粒子が文字に変わった。
「読むよ」そう言うと桜はコクリと頷いた。
『世界は一つではない。【越界の扉】はその名の通り、世界を越えるための扉だ。そしてこの扉は魔術や魔法に似ていることが分かった。何かに役立ててくれ』
『あちらの世界とこちらの世界、争う理由は必ずある。もうこのように、何かを伝えることはできないだろう。だが月乃矢桜、そして空成優樹、君たちがこの世界戦争を止めてくれることを、そして二人の幸せを願う』
「……玲夜さんは、私を見守ってくれていたんだね……」
(確かに魔法や魔術と似ている……)
「これからどうする? 世界を越える?」そう聞くと桜は首を振った。
「今はまだ越えなくていいと思う。もし帰ってこれなくなったらみんなが心配するしね」
桜は微笑んで続けた。
「それと、この扉を秘密にしておこう。なんだかこのことを知らせたらダメな気がするの」
「分かった。それじゃあ戻ろうか」
「うん」
こうして桜の地元へのお出かけは幕を閉じた。