第2話 スーパーファズ・ビッグマフ(1)
「せんせー! 質問があります!」
魔法学校の教室。
勢いよく手を挙げるあたしを見て、教師のハリエット女史が不機嫌そうに眉を寄せる。
あたしとは折り合いが悪いが、赤毛の綺麗な先生だ。
「……キャスリーンさん。授業に関係のあることですか?」
「はい!」
「前にもそう言って、私の婚姻歴を聞こうとしましたね」
「……はい」
だって、昔のあたしなら同世代だし、ちょっと気になって……。
ちなみに未婚らしい。
「で、でも! 本当に魔法の質問です。風の精霊シルフのことで……」
「今は火の精霊についての講義中ですよ。後にしてください」
「でも、せんせー! このあたしが生まれて初めて学習意欲を見せてるんですよ! 貴重な機会だと思いませんか!?」
「…………」
ハリエット先生はしばし黙った。
実際、あたしは今まで授業にも魔法にも全然興味がなかった。炎とか雷とか出してもそんなに感動しないし。治安悪い世界だから、身を守れるのはありがたいけど。
「いいでしょう。話だけは聞きます」
「ありがとーございます! あのー、シルフの力で音を歪める方法を教えてください!」
「ひずめる?」
そうか、この世界の人には「歪める」の意味が伝わらないのか……。
まあ、ギター弾かない人にはもともと通じないか。
「えーっと……リュートの音をこう、ぎゅわ~っとしたいんです」
「ぎゅわ……?」
「もっと音量が大きくて、荒くて、ささくれた感じで……できればちょっといなたい感じの……」
「…………」
ハリエット先生の美人顔が、不機嫌そうに歪んだ。
歪めたいのはそっちじゃないんだけど。
「音の響きを変える魔法は、シルフの高等術に属します。あなたにはまだ無理です」
「でも、でも……!」
「授業に戻ります。サラマンデルを呼ぶ呪文は抑揚を強めに……」
先生はもうあたしを無視して、さっさと元の授業内容に戻ってしまった。
どうやら、これ以上は粘っても無理そうだ。
「キャスリーンちゃん、勇気あるね……」
隣の席の眼鏡の女の子が、小声でぼそっと言う。
名前は……確かヘルガとかそんな感じ。響きがかっこいいんだ。メタルバンドみたいで。
「まぁ、ちょっと必死になる事情があってさ」
「ううん、今のことだけじゃないの。いつも授業サボったり、自由でいいなって……」
うつむき、はにかんで笑うヘルガちゃん。
自由っていうか、単に馴染めなくて逃げてただけなんだけど。若い子から見れば無責任が自由に見えたりするんだなあ、うんうん。
「あ、そーだ。ヘルガちゃん、シルフの魔法って得意?」
「え……?」
「あたし、授業全然受けてないからさ。ヘルガちゃん真面目だからもっと知ってるかなって」
「え!? で、でも、わたしなんて……それに名前、ちが――」
そんな話をしていると、教壇からハリエット先生の鋭い目線が飛んできた。
「……私語は慎むように」
「……はい」