番外編:異世界バンド名決定会議
イザーラン首都、某酒場にて
ミ「……で」
ム「……何が『で』なんだにゃ」
ミ「結局バンド名は?」
カ「あっ」
ヘ「わたし、ちゃんと考えてきたよ。『めくるめく音楽の夢を配る愛の使者たち』」
ム「にゃ!?」
カ「い、今のバンド名なの? ヘルガちゃん意外と闇深い……」
ヘ「えっ……楽しい感じだと思ったんだけど……」
ミ「……長い。30点」
ア「私はけっこう好きですよ」
カ「『けっこう』のあたりに本音を感じる」
ア「『カリン・クインテット』ほどではありませんから」
ム「大して変わんねーにゃ」
ミ「そういうムニャ子はどうなの」
ム「あーしはなんでもいいにゃ。ま、一応考えてきたけどにゃ」
ヘ「聞かせてください!」
ム「アムニャール・モニャール」
カ「…………」
ヘ「…………」
ア「韻を踏んでいますね」
ミ「ダジャレ?」
ム「ちげえにゃ!! あーしの国の言葉で、アムニャール音楽団っつー意味だにゃ」
カ「やっぱ個人名はちょっと……」
ヘ「かわいいとは思います」
ア「そうですね。かわいいです」
ム「かわいいかわいい言うんじゃねーにゃ! クソッ」
ミ「40点」
ム「偉そうに点つけにゃがって、てめーはどうなんにゃ! ミリエラ!」
ミ「聞く? 多分私ので決まっちゃうから、最後にと思ってたけど」
カ「その妙な自信がもうダメっぽい」
ヘ「わかんないよ、ミリエラちゃん大人びてるから格好いいの出てくるかも」
ミ「……『雨のマディナ・タルカマル』」
ム「にゃー……」
ミ「今のはどういう意味の『にゃー』?」
ム「にゃーんとも言えんの『にゃー』だにゃ」
カ「マディなんとかって何?」
ミ「私の国の首都だけど。すごいオシャレな街なんだけど」
カ「その説明がもうオシャレじゃない……」
ヘ「わたしはオシャレだと思うよ」
ミ「……そっか」
ヘ「なんで不満そうなの!」
ア「気取った感じがしますね。あ……その、ミリエラさんに悪い気持ちはありませんが、客観的に見て、気取った感じがします」
ミ「……そっちの方が傷つくんだけど」
カ「うーん……でも、今のとこ一番マシかなぁ」
ヘ「キャスちゃんは? 何か考えた?」
カ「あたしは……まあ、うん」
ム「何照れてんだにゃ」
カ「いやー、なんか真面目な名前だからさー」
ミ「私らも真面目に考えてたんだが?」
ア「聞かせてください、カリン」
カ「……うん。えっとぉ……『ファル・キューオール』っていうんだけど」
ミ「ふむ……」
ム「あーしのと似てるにゃ」
ヘ「それ、エルフ語だよね! どんな意味?」
カ「集まる風、みたいな感じ。で合ってるよね? アリア」
ア「はい。……美しい名前です、カリン」
ム「無難な感じにゃ」
ミ「悪くない。響きがちょっと気になるけど」
ヘ「響き?」
ミ「ファッキュー……いや、なんでもない」
ヘ「??」
ア「ファル・クィール・オール……集う、新しい風。まるで私たちのようですね」
カ「まあ、そんな感じ……」
ヘ「へへ、ちょっと照れるね」
ム「小っ恥ずかしいにゃ」
ミ「自己陶酔的」
カ「そこまで言わんでいいじゃん!」
ア「カリン。私はまだ人間の繊細な心に詳しいとは言えませんが、今のは照れ隠しというものだと感じます。二人とも本当は師匠の類まれな命名に胸打たれ、心の中で泣いているのです」
ミ「そこまででは……」
ム「ねーにゃ」
ヘ「でも、一番よかったと思うよ。それにしようよ!」
カ「みんながよければ……」
ム「まあ、異論はねーにゃ。あーしのと似てるけど」
ミ「私の案の次くらいにはいいと思う」
ア「決まりですね。私たちはファル・キューオールです」
ヘ「かっこいい……!」
ム「エルフ語は人間ウケするしにゃー」
ミ「うん。金の匂いがする」
カ「汚れた大人の感想……」
ア「この後はどうしますか? ファル・キューオールの皆さん」
ム「あーしは帰るにゃ。叩きすぎて腹減ったにゃ」
ミ「奢ろうか? いい店知ってる」
ム「ガキが何言ってんにゃ」
カ「ご飯行くなら、みんなで行こうよ」
ヘ「わたしも今日はお母様が留守だから、門限越えても大丈夫なんだ」
ア「ファル・キューオール、最初の食事会ですね」
ミ「待って、私全員に奢るの?」
カ「いいじゃん、たしか実家裕福なんでしょ」
ム「初耳にゃ。だったら遠慮なくたからせてもらうにゃ」
ヘ「わ、わたしはちゃんとお金払うからね」
ミ「……いいよ。大して変わんないから」
ア「ミリエラさんはファル・キューオールのあれですね。ファル・キューオールの……財布?」
ミ「…………」
カ「アリア……お願いだから連呼しないで」
(おわり)