番外編:我々は現実世界で茶を飲みつつ久しぶりにあれこれ駄弁る。
都内某所の喫茶店にて
か「いやー……」
み「いやぁ……」
に「んにゃー……」
か「誰かなんか喋ってよ」
み「おひさ」
に「どもども」
か「……あたしたち、そんな距離感だっけ?」
に「三人集まるの一年ぶりだからにぁー」
み「にゃー子、語尾違くない?」
に「チューニング間に合ってないにぁ。にぁ? に、にゃ、にゃー。ヨシにゃ」
か「えっ……待って。普段は語尾付けてないってこと?」
み「そういえば、あんたオフのにゃー子知らないんだっけ」
か「オフ!?」
に「……美玲」
み「おっと」
か「どういうこと? にゃーにゃー言うのは素じゃなくて演技だったの!? いや、そっちの方が普通ではあるけど!」
に「なんのことかにゃ? あーし全然わかんないにゃ♡」
か「語尾にハートつけてまでごまかしたいの……あたしにゃー子ちゃんがわかんないよ」
み「あんたの夢を壊したくないんだよ」
に「サンタさんはいるにゃ」
か「わぁ、子を持つ親っぽい……」
み「まだ乳飲み子でしょ? 大丈夫なの出てきて」
に「今日は旦那に任せてきたにゃ」
か「まー、完全復活はまだ先だよね。とりあえず元気な顔見れてよかったよ」
み「あれ? あんた一度も会ってないの」
か「えっ、会ってたの?」
に「美玲は出産も立ち会ってたにゃ」
か「ちょっと! 呼んでよ!」
に「手伝い要員で呼んだだけだから、別にお祝いとかじゃねーにゃ」
み「そうそう。ま、にゃー子の旦那と両親とお姉さんに挨拶できてよかったよ」
か「あたし、お姉さんいることも今知ったんだけど……」
か「そういえば……あたし、にゃー子ちゃんの妊婦姿も見たことない」
に「お互いバタバタしてたからにゃー」
か「……怪しい」
み「何が」
か「まさかにゃー子ちゃん、本当は子供生んでないのでは」
み「は?」
か「二人でずっとあたしを担いでたんじゃない!? 語尾のことみたいに!」
に「サンタさんはいるにゃ」
か「いないよ! うち一度も来なかったし!」
み「何の話?」
に「香凜が人間不信になってるにゃ」
か「いいからなんか証拠見せてよ、証拠。写真とかないの」
に「あーしは事あるごとに他人に赤子の写真見せたがるような親にはならないって決めたんだにゃ」
み「なんか嫌な思い出あるのね」
か「あたしは好きだけどなあ、そういう親」
に「そういえば非常用の替えおむつ持ってるにゃ。これ証拠になるにゃ?」
か「えっ……じゃあ本当かも」
み「それで納得するのかよ」
か「にゃー子ちゃんケチだから、あたしを騙すためでもお金は一円もかけないはず」
に「あーしのことよくわかってるにゃ」
に「まぁ、そろそろ頃合いかにゃ」
み「はい、ドッキリ大成功」
か「やっぱり子供生まれてないの!?」
み「そっちじゃない」
に「語尾のことだにゃ。子供の日本語学習に影響が出ないように、物心つくまでは自宅でにゃーを禁止したんだにゃ」
か「あー……。すごくなるほどな回答」
に「あと旦那の親の前でも禁止だにゃ。猫かぶってるからにゃ」
み「矛盾を感じる」
か「そっか……とにかく、いつものにゃー子ちゃん語は別にお芝居じゃなかったんだね」
に「自然体だにゃ。正直すげー楽だにゃ」
み「でもさ。それ本当に子供は嬉しいのかな」
か「何が?」
み「親がずっと自分の素を隠してるわけじゃん。嘘つかれてるみたいで私ならちょっと嫌かなって。まぁ、人の子育てに口出す気はないけど」
か「バリバリに口出してるじゃん」
に「それにゃー、正直あーしもちょっと思ってるんだよにゃ。でも、学校でにゃーにゃー言っていじめられたらって思うとにゃー」
み「にゃー子の子供いじめる奴がいたら、私が殴り殺してやるよ」
に「普通に引くにゃ」
か「ひ弱なんだから小学生にも負けるよ、多分……」
み「……だってさ。他にしてあげられることないじゃん」
か「殺人マシーンかなんか?」
に「美玲にはいつも助けてもらってるから気にしなくていいにゃ。確定申告とか」
か「なんでにゃー子ちゃんの確定申告手伝ってるの?」
に「めんどいにゃ」
み「まあ、得意だし」
に「そういえば香凜には何も助けてもらってないにゃ」
か「えっ。う、歌とか……歌うよ」
に「子守唄にゃ?」
み「録音して子供に聞かせてみたら。あんた、『みんなのうた』好きでしょ」
か「……あたしが好きなの、ダークなやつばっかなんだけど」
に「それはそれで、いい情操教育になりそうだにゃ」
か「にゃー子ちゃんの教育方針がわからない」
に「世界は辛く悲しいところだにゃ。でもサンタさんはいるにゃ」
み「世界の悲しみ全てをサンタ一人でなんとかする感じの世界観?」
か「悲しみよりおもちゃ背負わせてあげなよ」
に「……さてと。そろそろ帰るかにゃー」
み「ん」
か「その、お代は……」
み「ん」
か「お世話になります」
に「テレパシーにゃ?」
み「いつものことだから」
か「お世話になっております」
に「いつも美玲が二人分払ってるにゃ?」
か「いただいております」
に「不健全だにゃー」
み「でも、不健全って燃えるじゃん」
に「……。じゃー、また太鼓叩けそうになったら連絡するにゃ」
か「スルーした……」
み「わかった。んじゃね」
か「じゃーねー!!」
に「声でかいにゃ」
か「……このままバンド解散したりないよね」
み「何、急に」
か「いや、なんか……大人になったなって」
み「前から大人だよ、あんた以外は」
か「そっか……」
み「泣かないでよ」
か「言われたら泣きそうになってきた」
み「……肩貸す?」
か「お世話になります」
み「今だけだよ」
か「今だけなの?」
み「……一緒にさ」
か「ん」
み「一緒に大人になれたらいいよね」
か「…………」
み「無言になるな」
か「……誘われてる?」
み「違う。馬鹿だな、本当……」
か「ごめん」
み「私ら、二人ともだよ」
か「そっか……じゃあさ。一緒に馬鹿でもいいんじゃない。二人でさ」
み「……わかった。今だけ、ね」
(おわり)