第98話 清浄魔法は祈りです
「じゃあ、まずは呪いからね…」
『昨日やったんと一緒や。聖水で呪いが弱まっているから、そこからゆっくり清浄魔法を巡らせるんや。あの骸の浄化を祈る、魂が骸に縛られて苦しんでるみたいや』
私は跪き、目と閉じた。ゆっくりと清浄魔法を巡らせた…どうか心安らかに、天へ昇って行けますように。5年間ここに繋ぎ止められた魂が解放されますように。昨日と比べものにならないくらいの魔力が持っていかれているのが分かったが、気にせず祈り続ける。サミエル大神官様の集中です!という声が聞こえた気がした。
チルチルが魔力を増幅してくれる。骸が淡く輝きだした。魂が鎖のようなもので縛られているようだ。
「もう少し…何か、引っ張り上げれるものが……」
『なんや、あれ』
チルチルの言葉に目を開けると、ぼんやりと人型が浮かんできた。どこかイーサン様に似ているので、これは生前の前ルイス辺境伯?その手を必死で引き上げようとする人がいた。透けて見えるので生きてはいない、それは私の見覚えのある人だった。
「イザベラ様…?」
ルイス辺境伯邸で見た肖像画で描かれていたイザベラ様だった。姿は若い頃のイザベラ様だ。
『なんやろ、残留思念みたいなもんか?』
「助けようとしているんだよね。よし、集中!!」
気合を入れ直して、更に清浄魔法をかける。鎖を引きちぎるイメージだ。呪いは生贄を対価に成立しているのだから、魂さえ解放できれば効力は無くなるはずだ。段々と縛り付けていた鎖が薄くなってきた。清浄魔法の効果が出てきたようだ。
『よっしゃ、いけるで!』
チルチルが叫んだ瞬間、鎖が弾け飛んだ。魂はイザベラ様と一緒に浮かんでいる。禍々しいオーラは綺麗に消えていた。
「やったわ。これで石碑に近づける…」
そう思った瞬間、結界魔法が突然消えた。
『まずいで、結界の術者がやられたみたいや。フィーネ、早よ石碑へ走れ』
私は持っていたポーチから火炎玉と魔物の嫌がる匂い玉を出して、先ほどまであった結界の境目に一緒に投げた。火炎玉が弾け、その火炎で匂い玉が燃え辺りに薬草の匂いが広がった。これで少しは時間が稼げるだろう。
『急げ、すぐに…危ない、フィーネ!』
チルチルの声に振り向くと、空から魔物が近づいて来ていた。やられると思った瞬間、耳に着けていたイヤーカフが熱くなった。さらに左腕に激痛が走った。どうやら爪がかすったようだ。
「フィーネ!!」
アレックス様の焦った声が聞こえた。
「え??」
熱くなった右耳を思わず押さえた。イヤーカフはお守り代わりにミラ様から昔もらったものだった。
「もしかして、これがなかったらこれぐらいの怪我で済んでなかった??」
大きな鳥型の魔物は私よりはるかに大きかった。爪も鋭く一撃で命を奪える破壊力だ。
『逃げろ、次の攻撃が来るで!!』
チルチルの声に上を見ると、鳥型の魔物は空中で体制を整え私を見ていた。アレックス様は他の魔物に阻まれて、こちらに来れそうな雰囲気ではない。
「どうしよう、空からなんて火炎玉じゃ無理じゃない、もう駄目なの?」