第97話 聖女の森
馬から降りて、後方部隊以外が聖女の森に入って行った。後方部隊は聖女の森から逃げ出した魔物担当と後方支援にあたる。私はアレックス様と一緒の部隊に加わって進んで行った。丁度真ん中辺りになるが、前方からは魔物が現れたと連絡が入った。
「フィーネ、絶対に私から離れないで。このまま聖女の石碑まで進み結界魔法を張る。結界担当の者は交戦せずに進め。イーサン殿の案内について行くんだ」
アレックス様が私の手を引き、森の中をどんどん進んで行く。思っていた以上に魔物の数が多いようだ。前方にいた魔法騎士は、ほとんどが魔物と交戦中だ。時々リリーの作った火炎玉の弾ける音がした。
「こちらです」
先導するイーサン様が大きな声で叫びながら、中型の魔物を剣で切り倒し森の奥を指さした。
「あの先が聖女の石碑です。気をつけてください、近づきすぎると呪いを受けます!」
「よし、結界担当の者は結界を!残りの者は結界を壊されないように術者を守れ。フィーネ、行くぞ!」
石碑を中心に結界魔法が張られる。これで魔物は結界内には入って来られない。石碑が目視できる距離になった。大きな石だ、その傍らに人が剣に貫かれていた。前ルイス辺境伯の骸だ。禍々しいオーラを放ち、人の侵入を拒んでいるようだった。
『えらい物騒なもんやな。フィーネ、とりあえず聖水を近寄らずにあれに掛けられるか?』
「うん、水魔法なら、同じ水だから、可能だと思うよ」
私は聖水の瓶の蓋を開け、自分の手の平に水が集まる様に魔法を発動した。イメージは手の平に乗るくらいの水の玉だ。聖水は私の手の中で綺麗な丸い球になった。
「そして、これを…投げる!!」
『おい、そこは魔法ちゃうんかい!』
チルチルが焦ってつっこんできたが、水の球は綺麗な放物線を描いて辺境伯の骸に当たって弾けた。
「よし」
『よしちゃうわ、失敗したらどないすんねん』
聖水のお陰か、禍々しいオーラがかなり抑えられた。
「まあまあ、何とかなったんだから、気にせず次に進むよ」
禍々しいオーラが届かないギリギリまで近づき、石碑を観察した。辺境伯の骸はすでに白骨化しており、胸が剣で貫かれ、そのまま石碑に刺さっている。
『自分を生贄に剣を突き立てることで呪いが完成したんやな…じわじわと石碑を穢して、清浄魔法を弱めた、結果魔物が増えたんやな…自分に刺すなんて、よっぽどのことやで…』
「大伯父は…ずっと心を病んでいました。唯一イザベラ様が心の支えでした。その方が亡くなったと聞いて、狂ってしまった…監視していた父の目を盗んで抜け出し、気づいた時にはすでにこの有様でした……」
後ろからついて来たイーサン様が悔しそうにそう言った。アレックス様は複雑な心境なのか、一言も発しなかった。結界魔法の内側は静かだが、結界の外は魔物が続々と集まりだした。本能的にここを守ろうとしているのだろう。
「フィーネ、私は外で応戦する。このままでは突破されてしまう。一人で頑張れるかい?」
「はい、頑張って呪い解呪と清浄魔法で結界をかけ直します。どうぞ気をつけて行ってきてください」
「わかった。無理はしないでくれよ。では、イーサン殿」
「はい、行きましょう」
二人は結界魔法を通り抜けて、外の魔物に切りかかっていった。
『やっしゃ、急いでしよか。なんか魔物の数が多いし、サラの清浄魔法は限界なんや…』