第95話 話しましょう
疲れた顔のアレックス様がテントに入ってきた。話を聞いて欲しくて待っていたのに、少し強引に休ませようとする態度が気になった。
「待ってください。まだ言いたいことがあります」
誤魔化すように出て行こうとするアレックス様を私は慌てて止めた。ビクっとアレックス様の肩が揺れた。
「言いたいこと?」
「はい、正確には聞きたいことです。あの、アレックス様、先ほどのイーサン様への態度は、どうしてですか?何か私がしてしまったのでしょうか?」
私のことを見ないように目を逸らしているアレックス様の目を、敢えて私は覗き込んだ。
「いや、これは俺の問題だ…フィーネには関係ないよ」
益々目を逸らそうとするアレックス様の頬を両手で固定して、私は更に目を覗き込んだ。アレックス様は驚いて目を見張った。大胆な行動だとは理解しているが、この際気にしていられない。
「アレックス様、ちゃんと目を合わせてください。私たちは明日魔物と戦います。その前に何か気持ちがすれ違ったような気持ちになることはしたくないんです。何かあるならちゃんと話してください」
「フィーネ、すまない。俺が悪かった。だからそんな顔をしないで」
私がどんな顔をしているのかよくわからないが、シュンと肩を落とすアレックス様はちょっとセイ様に似ていた。そう思ったら少し可笑しくなって笑ってしまった。
「え、笑われた??それはそれで複雑だけど…わかった、ちゃんと話をしよう」
アレックス様は覚悟を決めたのか、真っすぐ私の目を見て微笑んだ。
「……イーサン様が、私に気があると思った??ですか…」
「ああ、そう思ったらついあんな行動に出ていた…大人気なかったし、反省しているよ。でも、フィーネは可愛いから心配なんだ。いつか俺は、君に振られてしまうかと……」
「アレックス様、私の好きなのはあなたです。私のことを信じてくれないのは悲しいです」
「いや、フィーネのことは信じている。だが、俺は自分に自信がないんだ。9歳も年上だし…」
「それを言ったら私だって9歳年下の小娘です。あなたの周りには素敵な女性が沢山いらっしゃいますし、そんなこと気にしていたら、私の心はもちませんよ…」
「すまない、ちゃんと信じているし、愛している。フィーネ、許してくれるかい?」
「はい、次は知りませんよ。私も愛しています」
アレックス様が抱きしめようとすると、頭の上でチルチルが小さく呻いた…私はハッとして顔を背けた。
「フィーネ、こっち向いて、寛大な鳥は明日頑張る私たちのことは見なかった振りをしてくれるよ」
そう言って優しく抱き締めキスをした。
「あの、今夜は前のように一緒に寝てはいけませんか?安心するので…駄目でしょうか?」
子供っぽいかと思ったが、明日のことを考えると心細かった。アレックス様の体温を感じて眠れば、安心して眠れると思った。
「おお、一緒に寝る…そうだな、今夜は冷えるしな、そうだな……いいよ。大丈夫だ」
私専用のテントは、狭いとはいえ大人二人が眠るのに十分な広さだった。私は寝床を整え、アレックス様を見上げた。
「ありがとうございます。これで安心して眠れます」
『我慢大会やな』
「黙れ、鳥。ああ、安心して眠ってくれ……」