第90話 辺境伯領へ進軍します
「おい、フィーネをからかうなよ。マックス、向こうの隊にも補給用の物資を渡しておいてくれ。到着後最終打ち合わせだからな、急いでくれよ。フィーネはもう少し休憩しておいて」
「はいはい、了解です。団長。じゃあね、フィーネちゃん」
マックス様は私に手を振って向こうへ走って行った。皆さん出発前の最終確認で走り回っていた。
邪魔にならないところに座って、ぼんやりとそんな景色を見ていた。
『なんやフィーネ、どうしたんや?』
目が覚めたのか、チルチルが頭の上から聞いてきた。
「う、ん、実感がまだわかなくて。怖いことは昨日アレックス様に吐き出して、落ち着いているんだよ。でも明日はこの人たちが魔物と対峙するんだよね…もちろん私もそうだけど。私が失敗したら?やっぱり怖くて逃げたらみんなどうなるの?考えても仕方ないんだけど」
『まあそんなん、明日にならんとわからんわ。ただここにおる皆はいろんなもん背負ってここに立っとるんと違うか?それぞれ守りたいもんや、得たいもんがあってここまで来たんや。フィーネにだってあるやろ?』
「…私の守りたいもの……そうだね、私は友達や家族を守りたい。アレックス様、周りの人たち、ここにいる人たち誰一人欠けずに帰りたい。無理だと言われてもそうしたいと思ってる」
『ええんちゃうか、守りたい思たらそれが力になるんや。わいのことも信じてや、信頼が大切なんや』
「うん、チルチル、頼りにしてるよ」
『おう、まかしとき』
休憩後、300人の討伐隊は、辺境伯領手前の林の中に野営用のテントをたてた。ここを本部として使用するらしい。目指す聖女の森はここから馬で半刻ほど走らせたところにある。ここまで来れば、辺境伯にもこちらの動きが伝わっているはずだ。
先ほどこちら側の使者が向かい、国王陛下からの親書をルイス辺境伯に届けている。魔物討伐隊及び聖女フィーネを遣わすから協力して欲しい、という内容だ。応じてくれれば協力して討伐する、反応がなければ明日の朝に討伐隊のみで強行突破する。
「応じてくれるといいのですが…」
「ここまで姿を見せないんだ、協力してくれる可能性は低いと考えている」
魔物の数も日に日に増えている。300人のみで対峙するとなると苦戦することが予測される。魔物が溢れ出る中を封印の石碑まで進み、結界魔法で石碑の周りに結界魔法を数名で構築する。その結界を張っている無防備な魔法騎士を守る魔法騎士もいる。私は出来るだけ早く清浄魔法で封印し直す。
ただ石碑の状態がわからないので、その場で臨機応変に動く必要がある。つまり出たとこ勝負なのだ。
「フィーネ、テントで休んでおいてくれ。使者が帰ってきたら詳しいこともわかるだろう」
「はい、アレックス様も休めたら休んで下さいね」
「ああ、あとでテントへ行くから、待っていて」
テントで明日持って行く物の確認をしながらアレックス様を待っていた。
「魔物用の薬草玉、リリーがくれた火炎玉、ノア先輩特製体力回復ポーション、これはあとでアレックス様にも飲んでもらおう…あと、サミエル大神官様がくれた聖水」
『聖水なんて何に使うんや?魔物には効果ないんとちゃうか』
「お守りだと言っていたよ。石碑が害されたのなら、有効な手になるかもって…一応持って行こうかと」