第8話 神殿と治癒魔法師
引っ越しから一週間後、私は治癒魔法師の治療を受けるべく、アレックス様と一緒に王都にある神殿にやって来た。治癒魔法は、光属性の魔法だ。私が通う予定のトルカーナ魔法学園にも、光魔法専門のクラスがある。
この世界には、6属性の魔法が存在する。光・闇・火・水・風・土だ。光と闇は希少な属性とされ、治癒魔法師となると神殿に所属することが多い。治療代は、神殿にお布施という形で納められるが、噂によると高名になればなるほどその金額は高くなるらしい。村で聞いた噂だと、高いお布施だとこの村でなら、一年遊んで暮らせる額だと言っていた。
「どうした、フィーネ。緊張しているの?今日お会いするのは大神官長だから、心配いらないよ」
「だ、大神官長様ですか、それって高名な……あの、その、」
「そうだね、この国では最高峰の治癒魔法師だったかな」
「ひぃっ……あの、やっぱりやめておきます」
そんなお金は、いくら昇進したと言っても父には払えないと思う。私は回れ右をして神殿から出ようとした。
「お待ちしておりました。アレックス様」
後ろから、男性の声がした。振り向くとアレックス様ぐらいの年齢の美しい男性が立っていた。神官の服装だ。
「ああ、サミエル大神官長。わざわざ出迎えていただきありがとうございます」
「え、大神官長様ですか……」
「ああ、こう見えて彼は40歳を越えているからね。相変わらず年齢不詳ですね」
「誉め言葉として受け取っておきましょう。そちらの方がフィーネ様ですね」
「はい、フィーネ・ランドレと申します。よろしくお願いいたします」
「では、こちらにいらして下さい。まずは体の状態を見せていただきます」
「あ、あの、」
「大丈夫だよ。私も一緒に入るから」
今更、治療代を聞くことが出来ず、仕方なく一緒に入室した。広い部屋の中にベッドがひとつ。カーテンをひけば見えないようになっていた。
「ここに寝ていただいていいですか」
「あ、はい」
コロンと横になると、サミエル大神官長様が私のおなかの上に手を当てた。少し緊張する。
「アレックス様、これは治療ですよ。私を睨まないでいただきたい」
「ああ、すまない、無意識だ。続けてくれ」
「はい、出来ればその物騒な魔力漏れも引っ込めてくださいね」
「…無意識だ、すまない」
神官長様の手のあたりが温かく感じる。光魔法がふんわりと体を覆った。しばらく目を閉じて考えていた神官長様が目を開けた。
「なるほど、アレックス様が私を指名した理由が分かりましたよ。時々眩暈がして、意識が混濁するのでしたね」
「はい、8歳の時に症状が出て、段々頻度が多くなっています。このまま増えたら困ります。村の医師にも診察してもらいましたが、普通の貧血の症状ではないと言われました。原因不明だと」
「そうでしょうね。こんな症例は初めてです。原因はわかりましたよ。でもこれは私でも治療は不可能でしょう」
「え、不可能……?」
「アレックス様は原因について心当たりがあるのでは?知りたいのは原因ではなくて、問題を解決する方法ではないですか」
アレックス様は、真っ直ぐにサミエル大神官長様を見た。