第88話 料理人は魔法使い
「こんなに多くの人の料理を2人で用意しているのですか?大変ですね」
「いや、彼らは魔法使いだから、料理方法も独特で普通の人が作るのとは違うからね。そこまで大変そうではないよ。魔物に襲われても戦える者を募集したんだ。この隊は強いものしかいない。フィーネを守るのに集中したいからね。そのようにしているんだ」
魔法で調理するなんて初めて聞いた。火をつけたりはするかもしれないけど、魔法で料理が出来るなんて、あとで是非見に行ってみたい。野菜と肉の入ったスープはシンプルだけど温かくて美味しかった。
休憩後、転移魔法で移動した。200人が一斉に移動できる場所をあらかじめ指定して転移する。いきなり転移して、転移地点に間違って人がいては危険なので、先に数名が安全確認に転移してから移動しているそうだ。
転移したところは、広い草原だった。一面に薄っすら雪が積もり、先ほどまでいた場所より更に寒く感じた。
「ここから少し行ったところに領主の館がある。もう少しだから我慢して」
アレックス様が自分の外套の中に私を包み込んで馬を進めた。温かい体温に、ふわりとアレックス様の香水の匂いがしてドキドキとした。
「ようこそお越しくださいました。領主のローガン・キャンベルです。アレックス団長、魔法騎士団の皆様及び私兵団の皆様、どうぞこちらへ」
「もしかしてキャンベル先輩の?」
思わず声に出してしまったようで、キャンベル伯爵がこちらを振り返った。
「おお、聖女のフィーネ様ですな。娘から聞いておりますぞ。何度か占わせていただいたそうで」
「はい、キャンベル先輩にはお世話になっています。あの、今、メアリー様は…」
「娘はまだ王都におります。おおそうだ、伝言を頼まれておりました。読みますぞ。『いま不安になって、占ってもいいことはありません。占いの結果に引っ張られて判断を誤るからです。いい結果でも、悪い結果でも信じてしまえば真実を見失います。占いに絶対はないのです。大切なのは自分自身を信じることです。あなたならきっと出来ます』だそうです。いや~長かったので紙に書いてしまいましたぞ」
キャンベル伯爵は紙を手渡してくれた。
「ありがとうございます。キャンベル先輩には、学園でお礼を言わせていただきます」
「おお、そうしてください。娘は3年生に内定していますので、フィーネ様も2年生になって必ず会ってやってください」
「はい、必ず」
キャンベル伯爵は、キャンベル先輩と同じペリドット色の瞳を細めて優しく微笑んだ。
夕食を食べ終えて、私は一人バルコニーで星を見ていた。アレックス様は各部隊の隊長さんたちと最後の会議に行っている。いよいよ明日、辺境伯領の隣の領地に転移するのだ。なんだか落ち着かず寒空の下でぼんやりしていた。考え過ぎると悪いことしか思い浮かばないのだ。
「風邪をひいてしまうよ」
後ろから何かで優しく包まれた。毛布だろうか?
「アレックス様、会議は終わったのですか?」
「ああ、最終調整は明日マックスたちと合流してからだ。ギリギリ間に合うといいが、場合によっては合流してすぐに辺境伯領へ突入するかもしれない……」
「そうですか…明日には戦いが始まるかもしれないのですね…」