第87話 辺境伯領へ
「えっと、そうですね今あるのは残り10個です。中心核に小さな魔石を使っているのです。私の持っている魔石を使って作ったので沢山は作れませんでした」
「なるほど、では小さな魔石があれば、作るのは簡単なのかな?」
「コツさえわかれば、割と簡単です。火と土の属性持ちの方なら可能です」
「わかった、こちらで人材と材料は用意するから、出発までに作り方を教えてもらっていいだろうか?勿論製造方法は保護魔法で契約して、リリアンナ嬢発案だと発表しよう」
「そんな大げさなことは」
「いや、これは画期的だよ。悪用されないように保護しておいた方がいい。それに3年生に進学を希望しているなら、いい実績にもなるよ」
「そうですか、わかりました。指導は任せてください。折角なのでこの10個はフィーネに渡していいですか?」
「ああいいよ、フィーネは十分注意して使うんだよ」
「はい、ありがとうリリー」
その晩は指導が終わったリリーと一緒のベッドで眠った。眠くなるまでたくさん話をした。
翌朝、出立の準備が終わってリリーたちが見送りに出てきてくれた。
「では、次の地点へ移動を開始する。ローゼー子爵お世話になりました。リリアンナ嬢も貴重な製造方法を教えてもらい感謝します。必ず役立てるよ」
「はい、フィーネのことよろしくお願いいたします。皆様のご武運をお祈り申し上げます。フィーネ、気をつけて、必ず無事に戻ってきて」
「うん、必ず帰るよ。いってきます」
笑顔でいってきますが言えて良かった。手を振ってアレックス様と一緒に出発した。ローゼー子爵領とチャーリーの実家であるワトソン男爵領から私兵合計50名が加わり、全部で200人が次の転送地点へ向かっている。
「フィーネ、大丈夫か。少し震えている」
アレックス様が心配そうに顔を覗き込んできた。馬に乗ると密着してしまうので、震えているのが分かってしまったようだ。
「リリーの顔を見て少し安心してしまって、気が緩んでしまいました。帰りたいと思えば思うほど怖くなって…」
「無理もない。君はまだ15歳だ。聖女だからといって、何もかも大丈夫なわけじゃない。不安に気づいてあげられなくてすまなかった」
優しく包み込むような声でそう言われ、想いが溢れそうになった私は、アレックス様にぎゅっと抱きついて胸に顔を埋めた。大丈夫、アレックス様がいてくれる。そう思ったら少し心が落ち着いた。アレックス様は何も言わず、馬を走らせてくれていた。
昼頃に次の転移場所に着いて昼休憩をとることになった。川のほとりに馬を連れて行って水を飲ませる。馬に乗るのもだいぶ慣れてきた。
「フィーネ、こちらの木陰で食事を取ろう。温かい飲み物もある、辺境伯領は北にあるから、近づくたびに寒さが増す。体調に気をつけて」
アレックス様がひざ掛けを渡してくれた。木陰の敷物の上に座って温かい紅茶を受け取った。確かに王都に比べると寒さが身に染みる。ジャムを挟んだパンはリリーの領地の人たちが用意してくれたもので、温かいスープは同行している料理人さん2人が作っているそうだ。200人分の食事を用意するのはさぞ大変だろう。