第86話 親友でしょう
「ようこそ、フィーネ様。いつも娘から聞いていました。いいお友達が出来て喜んでいましたのよ」
母親のテレーゼ様が嬉しそうに言った。
「まずは、休憩場所へご案内します。転移魔法は疲れると聞いていますから、お休みになってください」
「ありがとうございます、ローゼー子爵。では野営の準備もありますので、そちらへ行っています。フィーネはリリアンナ嬢とゆっくりしておいで」
アレックス様が子爵の案内で行ってしまうと、待っていたようにリリーがこちらに来た。
「水臭いですわ。魔物の討伐に行くのならちゃんと教えて欲しかったです。勿論極秘でしょうが、情報部の内容を聞いているのだから、今更秘密も何もないでしょう」
「ごめんなさい、リリー。急だったのよ。それに心配させてしまうと思って…」
「心配はします。でもそれぐらいしか私には出来ないのだからさせてください。それと、これを渡したかったのよ。フィーネが天使先輩と薬草で魔物撃退の方法を探していたでしょう。それに着想を得てね」
そう言ってリリーは私に赤い球を見せた。丁度鶏の卵ほどの大きさだ。
「なにかしら、これ?」
「私の得意な火と土の属性魔法を組み合わせて作ったの。そうね、見てもらうのが一番ね。屋敷裏の鍛錬場へ行きましょうか」
「危ないから、少し離れて見ていてね。まずこの球を標的に投げつける、そして呪文、弾けろ魔物」
そう言ってリリーは土が積んであるところへ球を投げた。すると次の瞬間球が爆発した。
「リリー…これって?」
「ふふ、結構威力があるでしょう。フィーネは火と土の属性はないから、簡易に使える攻撃道具を作ってみたの。これなら投げて呪文を言えば誰でも使えるし、攻撃対象が魔物以外の時には弾けないように呪文を組み込んであるから、一応安全でしょ。弾ける範囲も両手を広げたくらいの範囲だし、接近戦には不向きでも逃げる時とかには役に立つかもしれないじゃない。とにかく無事に帰れるように…」
「リリーありがとう。ごめんね、言えなくて」
「ううん、言い難いのはわかっていたから、いいの。その代わり絶対に無事に帰って来て。私の親友はフィーネしかいないんだから」
「親友……」
「え?私親友だと思っていたのだけど、もしかして違った??」
「嬉しい。リリーは親友だと私も思っていたよ。ありがとうリリー」
二人で抱き合っていると、アレックス様が慌ててやって来た。
「すごい音がしたんだが大丈夫か?」
二人で顔を見合わせてクスクス笑ってしまった。リリーはアレックス様に赤い球を渡した。
「フィーネの武器になるかと、作ってみました。フィーネに使わせてもいいでしょうか?」
「武器を作った?」
リリーはもう一度赤い球を投げて、同じように爆発させた。アレックス様は驚いた顔でリリーを見た。
「君はすごいな。魔法が使えるから、このように球にして誰にでも使えるようにする発想はなかった。これなら魔力がないものでも使えるな」
「改良はいるでしょう。今は呪文の時に魔力を使っています。魔物以外に当たった時には爆発しないようにするためです。同士討ちは避けたいですから」
「なるほど、それで弾けろ魔物と言っていたのか。それでこれは何個くらいあるんだ?」