第82話 情報部VS影ですか
「この情報をアレックス様に伝えたいのですが、忙しいようで会う予定が無いのです。風魔法でお願いできますか?」
「ああ、魔法騎士団宛てに手紙を送ろう。ここまで来たら影より多くの情報を得たいな。競争だ」
「ええ、そんな競争だなんて……」
「まあ、目標があるほうが燃えるじゃないか。それでイザベラ様繋がりで言うと、前の宰相も外せない。彼はイザベラ様の親戚で、噂ではイザベラ様と前陛下を結婚させる画策をしていたらしい。いつもなら隣国との争いは話し合いで落ち着くところが、その時だけは戦争一歩手前までいったんだ。それで婚約者のイザベラ様との婚姻が急遽早まったとか。最近処刑された西の魔女が前陛下の恋人だと聞いたが、そのせいで愛人扱いになった」
それはセイ様から直接聞いたから知っていた。セイ様の口ぶりでは、そこに前宰相様が関わっていたとは思っていなかったはずだ。
「前宰相と先代辺境伯はどちらも前陛下の側近で信任も厚かったが、こう考えるとアレクセイ王よりイザベラ王妃の側近ぽいな…」
「そんな、」
それを知ったらセイ様が泣いてしまいそうだ。もし本当に前宰相様が画策したとして、それは果たして誰のためになったのか、政治のことはよくわからないけど不幸なことが多かった。今もその事で辺境伯領が魔物に襲われているのなら、なおさら疑問だ。
そういえばアーサー様の誘拐も、ミラーリア様が死亡したと証言したのはその二人だった。きっとイザベラ様の味方だったのだろう。
「前宰相様はご存命ですか?」
「ああ、体を壊して引退してはいるが、領地で静養しているといわれている」
「では、アレックス様への手紙に、前宰相様に辺境伯領のことを説明して、意見を聞いてみて欲しいと追記してください。もしかしたら、何か知っているかもしれません」
「なるほど、繋がりがあるか?面白い着眼点だね。わかった、今話したことも全て記載しておく」
「ありがとうございます。では、また何かあればお願いいたします」
「ああ、わかった。試験対策もしてあげるから、少しゆっくりしなよ。眉間にしわが寄っているよ」
「……ありがとうございます。では今日はこれで」
私は一人情報部から出た。チャーリーは部活してから帰るようだ。ふーっと息を吐いて眉間に手を当ててもんだ。魔物被害で死者が出たと聞いて緊張していた。夢では大勢の人が殺されていた。いよいよ現実味が出てきて恐ろしかったのだ。
『フィーネ、大丈夫かいな。不安やったら話は聞くで』
「チルチル、ありがとう。ちょっと不安になったの。大丈夫、まだ間に合うはず」
『そやな、今は出来る事からやるしかないで』
出来る事から頑張る。冬休み前の試験は情報部の先輩のお陰で、かなりいい成績がとれた。少しズルい気がしていたが、実はほかの人も色々な伝手を使って試験問題対策をしていると分かって気が楽になった。
ノア先輩から聞いた薬草を使って、魔物撃退アイテムもかなり作った。試作する手伝いをノア先輩がかって出てくれたおかげだ。
「アイデアとしては面白いし、俺もこの冬で学生は終わりだから暇なんだよ」
なんとノア先輩はそのまま魔法薬の講師として学園に残るそうだ。ミラーリア先生の後釜が結局見つからなかったらしい。来年度の魔法薬の受講希望者が一気に増えそうな予感だ。