第81話 情報部は優秀です
放課後、チャーリーと一緒に情報部へやって来た。部室にいつもいる4人の顔が出迎えてくれた。
「急に呼び出してすまないね。新しく情報が入ったので、とりあえず伝えておこうと思って」
「いえ、素早い情報収集で助かっています。忙しい時期にすみません」
4人とも2年生だった。3年生に進むか、このまま卒業して就職するのか、今は忙しい時期のはずだ。
「いや、逆に暇なんだよ。4人とも3年生に進学することが決まっているし、希望の専門科へも内定しているんだよ。だから今は特に何もなくて、やり甲斐のあることをさせてもらえて、嬉しいんだよ」
「そうでしたか。皆さんこの時期に内定しているなんて優秀なんですね」
3年生への進学は1,2年生の成績をもとに決まるそうで、成績が悪い生徒が進学を希望する場合は、冬学期の間に課題と試験を受けなければならず忙しいのだ。進学希望の3分の1は内定で、3分の2は課題提出と試験に合格して進学するそうだ。この時期は最後の課題に追われる先輩が多く、2年生の教室は疲れた顔をした先輩で溢れていた。
「試験と課題に追われるくらいなら、1,2年生で頑張る方がいいだろう。それに試験対策だって一種の情報さ。効率よく試験の情報を集めておけば、そう難しい問題はないよ」
チャーリーと私は顔を見合わせた。それは是非今後のために教えて欲しい。夏前の試験はギリギリ3分の1に入っていたけど、冬の対策はまだ出来ていなかった。最近忙しくて、勉強が疎かになっていた。
「はは、分かったよ。後で取っている授業を教えてくれたら、傾向と対策を教えよう」
「あ、ありがとうございます!!」
チャーリーと二人で勢いよくお礼を言った。リリーの授業はほぼ私と同じだから、あとで情報を分けたらいい。これで、安心して魔物の方に集中できる。少しズルい気もするけど、今回は許してほしい。
「それで呼び出した理由なんだけど、辺境伯領がかなり荒れているようだ。昨日ついに魔物の被害で死亡した者が出た。辺境伯軍も頑張っているようだけど、魔物の数が日に日に増えて限界のようだ。しかし辺境伯は王宮へ報告をあげていない。領民は不満を募らせていて、このままだと暴動になりそうだと言っていた。厳しい冬を前に領地から逃げ出す者もいて、田畑が荒れているとも言っていた。どうして辺境伯が国を頼らないのか、僕も不思議なんだけどね」
「そうですか。アレックス様も動き出しました。そのうち情報が入ると思います」
「おおお、それはもしかして影が動くのかい?」
「知っているんですか?影を」
「ああ、僕たちの憧れの職業さ。諜報活動のエリート集団、王直属の影はさらに護衛も兼ねているらしい。まあ、都市伝説的な存在になっているけど、いたるところで噂を聞くから、きっと存在はしているのだろ?」
「そこは言えません」
「なるほど、いるんだね。素直だね、フィーネ嬢は。全部顔に書いてある」
「…そんな、そ、それより、暴動が起こるかが心配です。魔物だけでも手が足りないのに、暴動なんてしてしまったら、更に魔物が増えるかもしれません」
「ああ、そうなんだ。噂では現辺境伯は、先代の遺言に従っているそうなんだ。伯父である先代がこの異常な事態を起こしたのだとすれば、今の状況になるのも意図してのことかもしれない。普通に考えたら変だけど…」
「先代の遺言、確か先代は魔法騎士団長だったのですよね。いつ辺境伯になったのですか?」
「確か、イザベラ王妃が自殺をはかった後だったかな?責任を取る形で辞めて、辺境伯に封ぜられたはずだ。彼はイザベラ前王妃の護衛騎士だったこともあるし、自責の念で王都を離れたと言われている。亡くなるまで王都へは足を踏み入れてないはずだ」
騎士は貴婦人に剣を捧げると聞いたことがある。先代辺境伯もそうだった可能性はある?