第79話 影ってなんですか
「影と呼ばれる方たちも魔法騎士団なんですか?」
「ああ、魔法騎士団にもいるし、陛下直属の影もいる。彼らは普段は普通の騎士として活動しているからね、見分けはつかない。誰がそうなのかは幹部しか知らないよ」
「なるほど、秘密なんですね」
「ああ、他国にも潜入することもあるし、逆にこの国にも他国の影がいるかもしれない」
「それは怖いですね。情報が洩れるなんて…」
「まあ、学園の情報部がやっていることも一種の諜報活動だよ。学生だと舐めていたら痛い目に合う。彼らのお陰で今回は迅速に動くことが出来たが、逆にこちらは反省すべき点だよ。5年もこの事実にたどりつけなかったのだから…」
確かに夢に見たことが占いで現実に起こりうると知り、情報部に情報を提供して調べてもらった。すべて偶然が重なった結果だ。
「でも私たちが出来るのは、結局そこまでです。知ったとしてもそこまでなんです。実際に動いて阻止するのはアレックス様たちなんです。それが学生の限界なんだと少し歯がゆいです」
「いや、フィーネに行動されたら、私が心配で動けなくなる。フィーネは安全な場所にいて欲しい」
私はそのことが嫌なんですという言葉は飲み込んだ。私だってアレックス様が危険な目に合えば心配なのだ、本当は安全な場所にいて欲しい。さすがに国を守る魔法騎士団長にそれが不可能なのはわかっている…でも、現実と心は別なのだ。
「フィーネ?どうした…何か私がしたのか」
「…私はアレックス様に何もできることがないのだと、そう思うと自分の無力さが悔しいです。いつかあなたに並び立ちたいです。今はまだ無理でも、あなたの負担ではなく助けになれる存在に…」
アレックス様は私を驚いたように見て、そして嬉しそうに微笑んだ後にぎゅうっと抱きしめた。
「ありがとうフィーネ。そんなこと言われたのは初めてだ。嬉しいよ、愛している」
「え、あ、いしてる??」
前に好きだとは言われていたが、初めて愛していると言われた破壊力は全然違った。
「ああ、君を愛している。ずっと君は私の唯一だし、すべてだよ。子供のころから見ていたが、君はもう成人した。これからは遠慮しないよ」
アレックス様の顔が近いと思った瞬間、唇を塞がれた。額や頬にキスされることはよくあったが、口にキスされるのは…初めてだ。
真っ赤になる私の顔を覗き込んでアレックス様が極上の微笑みを浮かべた。途端、アレックス様の顔にチルチルが勢いよく飛び蹴りをくらわせた……
『黙って見てたら、いきなり何すんねん』
「それはこっちのセリフだ。いいところに水を差しやがって」
『はあ~?何がええところや。ほんま油断も隙もない』
「くそ、こいつの助けがないと魔物が封印できないし、フィーネの魂も安定しない、一生こいつがいるのか…」
アレックス様が悔しそうにチルチルを睨んだ。チルチルは知らん顔をしている。お陰で甘かった雰囲気は一気に吹き飛んで、私は少しホッとした。ドキドキしすぎてこれ以上甘い雰囲気には耐えられそうになかったのだ。
「アレックス様、あの、」
「ごめん、いきなりキスしたのは俺も悪かった…今まで俺のことを追い抜きたいや、追い落としたい、殺したいと言われたことはあったが、隣に並びたいとか、助けたいなんて言われたのは初めてで衝動が止められなかった。本当に嬉しかったんだ、ありがとうフィーネ」