第78話 覚悟はできています
「はい、辺境伯領ですから、表立っては行動いたしません。少人数の影をさっそく派遣いたします」
アレックス様は、陛下の意図がわかっているのか、そのまま頷いた。
「フィーネ嬢よ、そなたは唯一の聖女だ。事と次第によってはそなたの力が必要だ。そのことはどう考える」
陛下は真っすぐに私を見た。出来る出来ないではなく、覚悟を聞かれている気がした。
「はい、覚悟はできています。どうぞその時は私を聖女の森に行かせてください」
「そうか、感謝するよ。精霊チルチル様、どうか我が国をお守りください。そして聖女フィーネにお力をお貸しください」
『わかってるって、わいにまかしとき』
チルチルは、私の手に乗ってポンッと胸を張った。国王陛下の前でも態度を変えないチルチルに焦ったが、陛下は気にしていなかった。むしろチルチルの方が上のような態度だった。救国の精霊なのだから、そうなのだろう、可愛いこの鳥は一度国を救っているのだから。
陛下の執務室を出ると、アレックス様がかなり落ち込んでいた。陛下の前では堂々と振舞っていたが、やはり私を聖女の森に行かせることに納得していないようだ。
「それ以外方法がないとわかっている、でも不安なんだ。俺が魔物の群れに飛び込むのとはわけが違う。フィーネが傷つくかもしれない、それだけは駄目だ。想像しただけで手が震えるよ」
心配そうに眉を下げるアレックス様に私は微笑んだ。
「行くのならアレックス様も一緒です。私は信じています、だから今は出来ることをしましょう」
「そうだな、わかった。帰りは馬車を手配するから、それに乗って帰ってくれ。私は今から騎士団の方へ寄らないといけない。その代わり夜に君の部屋に行ってもいいかい?」
「はい、待っていますね」
王宮でアレックス様と別れて、家まで馬車で送られ帰宅後、私は魔物研究会で聞いた魔物の生態と弱点を記したノートを開いた。少しでも役に立つ手段を手に入れたかった。アレックス様のことは信用しているけど、私を守ってアレックス様が傷つくのは嫌だった。自分の身は出来るだけ自分で何とかしたい一心でノートに目を落とした。
「魔物が苦手な薬草があるのよね。これを何かに使えないかな」
『なんや、勉強かいな』
「うん。力不足を補う何かを見つけたくて、魔物の弱点を利用して何か出来ないか考えているの。例えば魔物の苦手な匂いや、撃退できる何かがないかなって」
『それやったら、サキも魔物の嫌いな匂いの薬草を固めて乾燥させて燃やして使ってたで。サキのいた異世界では蚊を殺すのに使ってたもんがあって、その応用やってゆうてたわ』
「乾燥させた薬草ね。なるほど、それなら調べたらあるかもしれないね。ノア先輩なら教えてくれるかも」
『ええんか?また女子生徒に睨まれるで』
「この際、そこは気にしないでおくよ。魔物に比べたら女子生徒なんて可愛いもんだし」
『そりゃそやな』
「遅くなってすまない。思いのほか時間がかかってしまった」
アレックス様は夜になって、疲れた顔をしてやって来た。私と別れた後、魔法騎士団へ行き偵察隊を選び、その後宰相と今後の打ち合わせをしていたそうだ。影というのは諜報活動専門の部隊らしい。